岐阜市立合渡小学校 6年
「いっぱい食べやぁ」これは私のお母さんの口ぐせだ。私や弟が、「おいしい」と言うと、きまってにっこりと笑い、「いっぱい食べやぁ」と言う。物心ついたころからそうだった。
病気になったとき、お母さんは私の大好きな料理を、いつもより長くにこんで出してくれた。少しフラフラとしていたけれど、そのごはんを食べると、体がしんから温まり、いつもの味にほっとした。少しやわらかい白菜とツナ。いっしょに食べるとだんだんと元気になっていくような気がした。いままでぐったりとしていた私が、急に勢い良くごはんを食べる姿に、弟やおばあちゃんも目を見張っていた。私がしるをすする音だけが聞こえていた。
しかし、お母さんはずっとそばでほほえんでいるだけだった。私が
「おかわりください!」
と言い、家族はとてもおどろいていたが、お母さんは少しうなずくと、おかわりを持ってもどってきた。そして、今は食べられるだけ食べて早く元気になるんだよ。と優しく言うと、最後ににっこりと笑って
「いっぱい食べやぁ」
と言った。いつも聞いているその言葉が、なんだかいつもよりもジーンとしみこんできた。少しの間、その余韻にひたっていると、それまで信じられない、という顔をしていた弟も、
「おねえちゃん、いっぱい食べやぁ」
と大きな声で言った。するとおばあちゃんも、
「瑞恵、いっぱい食べやぁ」
と言って、料理の乗ったお皿をすすめた。お母さんがもう一度、
「いっぱい食べやぁ」と言うと、その後はもう「いっぱい食べやぁ」の大合唱だった。私も、なんだかうれしくなり、それに参加した。
しばらくそれを続けた後、みんな笑顔で静かに、私を見つめた。私はうん、とうなずき、にっこりしながら手の中にあるお皿に目をおとした。
三日ぶりのおかわりだった。