「あなたの 『おいしい記憶』をおしえてください。」コンテスト

読売新聞社と中央公論新社は、キッコーマンの協賛を得て、「あなたの『おいしい記憶』をおしえてください。」コンテストを開催しています。笑顔や優しさ、活力などを与えてくれるあなたの「おいしい記憶」を、私たちに教えてください。
第1回
最優秀賞作品
「卵焼き」
原 和義さん(福岡県)
優秀賞作品
「じゃがいもの家系図」
小須田 智女さん(千葉県)
「お魚さんの入った黄色いご飯」
大友 淑依理さん(宮城県)
入賞作品
「“おふくろの味”の概念に関する一考察」
髙橋 克典さん(東京都)
「オッパイ・スープ」
丸山 米子さん(神奈川県)
「鱈の煮付け」
幸平 泰子さん(新潟県)
「からあげ」
天野 美和さん(静岡県)
「ちらし寿司宅配便」
山野 華鈴さん(神奈川県)
「思い出のお弁当」
吉田 彩子さん(京都府)
「一度きり焼」
廣野 忍さん(大阪府)
「魔法のおにぎり」
谷中 昌一さん(茨城県)
「爆弾おにぎり」
小西 逸代さん(長崎県)
「嫁と姑と天ぷら」
三枝 夏季さん(愛知県)

※年齢は応募時

第1回
入賞作品「思い出のお弁当」吉田 彩子さん(京都府)

 私は二十歳の頃、付き合っている恋人がいた。まだ学生だった私達は共にお金がなかった。私が作ったお弁当を持って、近所の広い公園へ出掛けるというのが定番のデートだった。彼はいつも美味しそうにお弁当を食べてくれた。その笑顔と空っぽになるお弁当箱を見るのが嬉しくて、毎回一生懸命手作りした。

 そして迎えた私の誕生日。

「明日のデートは誕生日だし、お弁当はいいよ。俺がご馳走するよ。」

 と彼は言ってくれた。私は、どこのお店に連れて行ってくれるんだろうと、とても楽しみにしていた。

 そして当日、景色の良い高台に車でドライブに出掛けた。ベンチに座った彼は鞄をゴソゴソとし、

「お誕生日おめでとう。」

 と大きな風呂敷包みをくれた。開けてみると、それは彼が初めて自分で作ったお弁当だった。大きさがまちまちの丸いおむすび、焦げた卵焼き、四本足のたこさんウインナーがぎっしり詰まっていた。

「お袋が後ろからニヤニヤしながら見てくるし、すごい恥ずかしかった。」

 と彼。私は一番大きなおむすびを選んで、口いっぱいに頬張った。中からミートボールが出てきた。

「全部違うおかずが入ってるよ。」

 と得意そうな彼。シュウマイ、唐揚げ、エビチリ、次々におむすびから出てくるおかずに、二人で笑い転げながらお弁当を食べた。今まで食べたお弁当の中で一番美味しかった。

 その後私達は結婚し、初めてのお弁当から十二年が経った。息子が産まれ、来年はもう幼稚園に行く。遠足の日は主人に息子のお弁当を作ってもらおうかな、と今から考えている。私が作るキャラクター弁当より、主人が作ったビックリおむすびの方が息子は喜ぶんじゃないかな、と思ったりする。息子は私そっくりでビックリ、ドッキリするのが大好きだから。

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