「あなたの 『おいしい記憶』をおしえてください。」コンテスト

読売新聞社と中央公論新社は、キッコーマンの協賛を得て、「あなたの『おいしい記憶』をおしえてください。」コンテストを開催しています。笑顔や優しさ、活力などを与えてくれるあなたの「おいしい記憶」を、私たちに教えてください。
第3回
キッコーマン賞
「父のしぐれ煮」
坪井 理恵さん(兵庫県)
読売新聞社賞
「ビタミンカラー弁当」
常世 ゆかりさん(長野県)
入賞作品
「母二人の手料理」
平塚 ゆかりさん(東京都)
「焼き蛤を食べたがよ」
澤田 俊迪さん(東京都)
「アメリカの味」
岑村 隆さん(長野県)
「おそらく一番」
岸島 正明さん(神奈川県)
「ハルちゃんのタマゴ記念日」
高見 知恵さん(兵庫県)
「風邪にワイルドカレー」
阿部 磨里子さん(千葉県)
「おでん屋のオヤジ先生」
東山 貢之介さん(兵庫県)
「おいしいトマトの食し方」
込山 絵美子さん(千葉県)
「私の宝物」
石部 洋子さん(兵庫県)
「神様からのおにぎり」
滝澤 和弥さん(東京都)

※年齢は応募時

第3回
入賞「風邪にワイルドカレー」阿部 磨里子さん(千葉県)

 会社帰り、十一月の初めにしては寒い夜だと思ったが、夫も子供達も寒くないと言う。案の定、風邪で翌日は会社を休んでしまった。夫は鬼のかく乱と笑って会社へ、かく乱かく乱と子供達が続けて言って学校へ出かけた。それ程私は元気で、それだけが取柄だった。しかし、昼頃になると熱は39度、南極に裸でいるとこんなんかなと思うほどの悪寒。さすがに私も医者に走った。

 小二の娘は三時頃、小五の息子は四時頃戻ってきて、布団の中の私を見て、驚いた表情で一言「ありゃ。」と言った。「ごめんね、今日の晩ご飯、お弁当買うてきて食べてくれる。」と、財布の入っているバックに目をやった。「ぼくらはそれでええけど、お母ちゃん、何食べる?」「お母ちゃんはええから、外が暗うならんうちに、早う二人で行って買うてきなさい。」そのあと、二人のゴソゴソという話し声がしていたが、ややあって息子が「行ってくるしな、ゆっくり寝ててや。」とふすまのむこうで声を掛けた。

 とても深い眠りで、どのくらい眠ったのかわからずに目覚めた。二回も取り替えた下着が、またびっしょり汗で濡れていた。リビングから大人の声が聞こえる。「お!すごい、すごい。起こしてみるか。食べるかもしれへん。」夫の声だ。ふすまが少しあいて、光がスーッと入ってきた。「起きてるか。圭と桃がカレーライス作ってくれてるで。」え、子供達がカレーライスを……まさか、とびっくりした勢いでとび起きた。九時だった。お母さんが大好きなカレーライスを食べたら風邪直るかと思って、二人で肉を買いに行ったのだと、そしてお父さんの帰りを待っていたのだと言う。

「ご飯は機械が炊いてくれるけど、カレーは手作りやから……」と自信なさそうな息子。一目見て、じゃがいもと人参は皮付きのぶつ切り、肉はロースの薄切りをそのまま、玉ねぎもぶつ切り、但しこれは皮はむいてあることが判明。ルーは、まあまあトローとして、いい色をしている。私の様子を見ていた娘、「皮な、包丁でようむかれへんかってん。そやからな、タワシでゴシゴシしたけど、皮、はがれへんかってな、そやから玉ねぎは皮なしやけど、じゃがいもとにんじんはごめんね。見て、うちの手、タワシで真赤々になってしもたんよ。」

 もう、あかん。私の目から涙がポタポタ、テーブルに落ちた。すかさず夫が、「お母ちゃん、塩味、自分でつけてるで。」と茶化す。息子と娘は真剣な顔つきで、「お母ちゃん、どう?」「お母ちゃん、おいしい?」と聞いてくる。「お母ちゃんの風邪が、びっくりして、とんでいってしまうような、元気の出るおいしいカレー!!」それが20年前の私の答えだった。

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