「あなたの 『おいしい記憶』をおしえてください。」コンテスト

読売新聞社と中央公論新社は、キッコーマンの協賛を得て、「あなたの『おいしい記憶』をおしえてください。」コンテストを開催しています。笑顔や優しさ、活力などを与えてくれるあなたの「おいしい記憶」を、私たちに教えてください。
第2回
キッコーマン賞
「おばあちゃんの保存食」
中立 あきさん(東京都)
読売新聞社賞
「母の餃子」
田宮 裕子さん(大阪府)
入賞作品
「父の十宝菜」
勝又 千寿さん(静岡県)
「ほやとおじさん」
福島 洋子さん(長崎県)
「最期の晩餐」
関 巴さん(静岡県)
「温かいポテトサラダ」
山口 美乃さん(神奈川県)
「夏の香り」
曽田 喜人さん(愛知県)
「三十年目のプリン」
松山 広輝さん(兵庫県)
「隠れない味、隠せないレシピ」
梅田 勝之さん(千葉県)
「オムライス弁当」
岩本 瑞紀さん(大分県)
「おいしい時間」
種田 幸子さん(愛知県)
「さっとのお好み焼き」
守内 恵美子さん(鹿児島県)

※年齢は応募時

第2回
入賞「おいしい時間」種田 幸子さん(愛知県)

 我が家には三人の息子がいる。どの子も食べ盛りの食いしん坊。元気があふれるがゆえの兄弟ゲンカは日常茶飯事である。そんな時彼らに私の一声が効く。

「今夜はホットプレートよ。何を焼く?」

 すると兄弟ゲンカはピタリと止まり

「焼きソバ!」

「焼き肉!」

「ホットケーキ!」

 美味しい言葉が三兄弟の口から次々にこぼれる。

「じゃあ、三人で買いものへ行って来てくれる?」

 私は財布から出したお金を長男に渡す。するとさっきまでの兄弟ゲンカはどこへやら。次男はエコバッグを手に持ち三男はもう玄関に立っている。

 慌しく過ぎる毎日のなか、ゆっくり三人の息子たちの話を聞きたい日もある。そんな日は、

「今日は蒸しギョーザにしましょう。具を包むの手伝ってくれる?」

 と声をかける。ギョーザの具を囲んで一人、二人と椅子に座る。一人が話を始めると三兄弟の話は大いに盛り上りあっという間に百個のギョーザが出来てしまう。色々な形をしたギョーザが蒸し器のなかで気持ち良く温まりながら息子たちの話に耳を傾けているようだ。

「美味しかったね。」

 蒸し器のなかが空っぽになるころ家族のおしゃべりも空っぽになる。母親である私の胸は幸せで満腹になっている。

 そして寒さが身に凍みる日は、

「鍋にしよう。」

 と私が誘う。

「みそ鍋?」

「カレー鍋?」

「ぞうすいもする?」

 家族がせーので台所に集まる。家族皆で鍋を囲んで心をぽかぽか温める。

 子どもたちが小学校の運動会で力一杯頑張った日はおひつにツヤツヤの酢飯を囲んで手巻き寿司パーティをする。日に焼けた肌にほうばる手巻き寿司は格別に光っている。

 まだ息子たちが幼かった日は、ハッピーバースデーの歌とケーキを囲んだ記憶しかなかったのに彼らの成長と共に我が家の食卓は大きく広がった。まるで夢がふくれてゆくようで私の顔から笑みがこぼれる。

 我が家の三兄弟がいつかこの家を出て行くその日まで、まだまだ私のなかから生まれるであろうレシピに、今日も胸がワクワク躍るのである。

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