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政治や社会へのグローバルな関心を持つ学生を育てたい

山口 二郎さん山口 二郎さん

現実の政治の動きを学生たちに

田中 今年度から本学法学部教授としてお迎えした山口先生ですが、研究者としてはもちろん、政治の現場ではいっそう活躍していらっしゃいますね。

山口 わが国に政権交代の起こるまともな民主主義を確立したい、という信念は一貫していて、ただ最初のうちはアカデミックに研究するに留まっていました。しかし、20年ほど前から、他人事のように論じているだけではいけないと考え始め、実際の政治にかかわるようになったのです。

田中 そして民主党のブレインとして党を支えていらっしゃいます。

山口 まさに寄せ集めの党でしたから、当初はどうにもまとまりがつきませんでした。しかし、2005年の「郵政民営化」総選挙での惨敗が、逆にチャンスに。小泉政権が新自由主義を強く打ち出したため、私が信奉する社会民主主義が明確な対立軸となり、民主党をこの方向にうまく結束させることができたのです。
そして2009年に、ついに政権交代が実現。ところが、政権運営の未熟さが露呈して失敗を重ね、自民政権に戻ったことはご承知のとおりです。
実は政権奪取以降、私が直接かかわることはあまりなくなっていたのですが、この逆境に際して立て直しに力を貸してほしいとまた声がかかった次第です。

田中 お忙しくなりますね。でも、そうしたご活動を通して初めて見ることができる現実の政治のありようを、ぜひ学生たちに伝えてあげてください。文献からは絶対に得られない、貴重な学びになるはずです。

山口 はい、私の経験を学術的に咀嚼して、教育の場にもできるかぎり還元したいと考えています。おおかた挫折・失敗の分析なので元気は出ませんが(笑)、失敗から学ぶことは政治学の本質でもありますから。

田中 本学の卒業生には政治家もかなりいるのですが、先生に政治の現場を教えていただいて、民主主義の根幹を理解した新しいタイプの政治家を輩出していけたらいいですね。

対話を失いつつある政治・社会

田中 実は私自身、4月に政権交代を体験したばかりで(笑)。総長となると、すぐれた理念があってもそれだけではうまくいきませんね。どう人を説得し、調整するかが問われます。

山口 まさに政治の本質ですね。

田中 その点、たとえば現自民党政権はうまくいっているのでしょうか?

山口 安倍さんの悲願を実現するという一点においてはそう思います。ただその代わり、日本を戦後60年間統治していた自民党の経験に照らしても、たくさん失敗のタネを抱えることになっていると思いますよ。
政治というものは、数に任せてやりたいことをすべてやってしまってはいけない、譲ること、自制することが持続可能性につながる。歴代のリーダーたちは、政治家の本能的な勘として、それを知っていたんですけどね。

田中 確かに、野中広務さんはじめ党の長老たちからは、危ういと警告する声があがっていますね。

山口 精神科医の香山リカさんが、いまの政治家たちの行動のベースにあるのは、自己愛=ナルシシズムだと、実に的確な分析をしています。自分が正しいと信じ、殻に閉じこもって、他人を説得したり、関係を調整したりすることができないというのです。確かに、国会の討論でも、お互い相手の質問に答えるのではなく、ひたすら自分の主張をぶつけ合う場面をよく見ますよね。政治に対話がなくなろうとしている。

田中 もっといえば、ヘイトスピーチをはじめ、社会全体にもその傾向が表れているのではないでしょうか。

山口 内にこもる分、言葉が尖鋭化するのかもしれません。顔を合わせず短い言葉でやりとりするSNSのようなツールの普及も、その一端を担っているように思います。長い文章を読んだり、面と向かって話をしたりする手間を惜しむようになっているのです。

田中 でも、その手間をかけることこそが民主主義の基本ですから、危機的状況といえますね。

山口 まずは政治の世界で民主主義を回復しなければなりません。そのために、対抗勢力を5年後か、10年後か、再び立ち上がれるように、あきらめないで元気づけることが必要だと思っています

政治への関心もグローバル化

田中 この4月には、学者を中心とする「立憲デモクラシーの会」を、共同代表のおひとりとして立ち上げられました。

山口 60年代あたりまで、学者・知識人はメディアとともに、力不足だった野党に代わる政治的役割を果たしていた面があります。9条の枠組みの中に自衛隊を位置づけるという形での「護憲論」は、彼らの唱えた平和主義と自民党政治との妥協の産物といってもいい。それが覆され、大きなルール・原則が変えられる恐れがあるいま、われわれ学者が再び問題提起をしなければ、存在意義を問われると思うのです。

田中 学生たちにも、まさにそのような形で社会に対する関心を持ってほしいですね。私が学部長を務めていた社会学部では、「社会を変えるための実践論」という直球勝負の特別講義を行なっているのですが、大学がそうした仕掛けをつくらないとなかなか難しいようです。

山口 われわれの時代は、善し悪しはともかく、大きなイデオロギーの間で選択を迫られる状況がありました。いまは、現体制に対するオルタナティブがないため、迫られることがないんですよね。
ただ、無関心は自分に返ってくることを知っておかないといけません。雇用の規制緩和などはその典型例です。

田中 ブラック企業など、個別には関心があっても、それでは足りませんね。
さらに、現在大学はさまざまな面でグローバル化を求められていますが、政治的関心にもそれはあてはまると思うんです。
諸外国で民主主義はどうなっているのか、特に多様な形の社会運動、市民運動の状況など、マスコミからだけでは情報が入って来ません。

山口 資本中心ではない、たとえばNPOなどのカウンターグローバリゼーションとでもいうべき動きも、政治的に大きな意味を持ちつつありますからね。

田中 英語のサイトなども積極的に利用して、そうしたものとつながることによって、日本の状況を相対化できるようになるのではないかと思います。

山口 ステレオタイプのグローバル化ではなく、物事の根本から考えるという法政大学の掲げるグローバル人材*を育てることが大切ですね。

田中 そのためにも、学生にどんどん迫っていただければと思います(笑)。どうもありがとうございました。

*法政大学では2014年7月9日に「法政大学グローバルポリシー」を制定しました。 http://www.hosei.ac.jp/gaiyo/rinen/g_policy/index.html


政治学者 山口 二郎(やまぐち じろう)

1958年7月13日。岡山県岡山市出身。東京大学法学部卒業。2014年4月から法政大学法学部教授。前北海道大学教授。専門は政治過程論。『戦後政治の崩壊 - デモクラシーはどこへゆくか』(2004年、岩波新書)、『政権交代論』(2009年、岩波新書)など政治評論を多く執筆。民主党のブレインとして2009年の政権交代を支える。2014年4月に憲法学者、政治学者等によって設立された「立憲デモクラシーの会」の共同代表者としても活躍。

法政大学総長 田中 優子(たなか ゆうこ)

1952年神奈川県生まれ。1974年法政大学文学部卒業。同大大学院人文科学研究科修士課程修了後、同大大学院人文科学研究科博士課程単位取得満期退学。2014年4月より法政大学総長に就任。専攻は江戸時代の文学・生活文化、アジア比較文化。行政改革審議会委員、国土交通省審議会委員、文部科学省学術審議会委員を歴任。日本私立大学連盟常務理事、大学基準協会理事、サントリー芸術財団理事など、学外活動も多く、TV・ラジオなどの出演も多数。


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