戦争中だから、我慢することを何時も言われていた。
毎朝おっかーが作ってくれる弁当。その四角い弁当に赤い梅干しが一つだけ、丁度、日の丸の旗であった。今朝もそうだ。だけど母の顔が何時もと違い、一寸だけ笑っているようだった。
弁当をカバンに入れようとしたら、おっかーが、
~ゆきお、あんな、この弁当は「日の丸弁当」じゃが、
今日の弁当はちょっと「仕掛け」がしてあるんだわ。
~仕掛け?どんな仕掛けだろうか?誰が見ても、{日の丸弁当}に見えるけどなあ。一体どんな仕掛けだろうか?でも、早く学校へ行かないと遅刻するかもしれないと、確かめもせず、学校へ行った。
午前の授業が終わり、いよいよ弁当を食べる時が来た。~さあ、
皆さん日の丸弁当を戴きましょう。どれどれ、皆さんの弁当を見せてください。戦地の兵隊さんは、日の丸の旗を振って戦っているんだよ。 だからね。日の丸弁当で我慢するんだよと、先生が机の間を廻りながら、生徒の弁当を見て廻る。先生が僕の横に来た時は、少し胸がドキドキした。~では皆さん一緒に「いただきます」と合唱しましょ。合唱が終わると。みんな一斉に弁当のふたを開けて食べ始めた。僕も皆と同じように、ご飯を食べようと、日の丸弁当のふたを開けて、初めて気が付いた。そしてあっと驚いた。おっかーが言った、「仕掛け」が判ったのだ。 弁当の、ご飯の下に「卵焼き」がいっぱい広がっていた。まるで、「卵焼き」の「絨毯」のようであった。
朝、おっかーが言った仕掛けがこれだったんか。
食べるとき注意しないといけない。
前後左右に気を配り、卵の絨毯をご飯に包んで食べる。
誰にも気付かれることはなかった。
美味しい美味しい。本当に飲み込むのも惜しいくらい、
学校から帰ったらおっかーが言った。
~どや、卵焼きは美味しかったかい?
~うん、美味しかった。だけど。
~だけど?どうしたんかい。
~なんだか皆に悪いみたいだもん。
~そうか。そうやなあ。
戦地で戦っている兵隊さんの事を思えば、
あの卵焼き弁当は、贅沢やなあー
これから、卵焼き弁当は止めるとしようかー
と、おっかーは淋しそうな顔つきで笑っていた。
だけど、あの「卵焼き弁当」は美味しかったなあ・・・
~おっかーほんとにほんとに有難うさん。
あのおいしい卵焼き弁当の味、今も忘れない。
おっかー元気でいろよ。
だんだん歳を経て、そちらに行ったら、
また「卵焼き」を作ってよね。