「あなたの 『おいしい記憶』をおしえてください。」コンテスト

読売新聞社と中央公論新社は、キッコーマンの協賛を得て、「あなたの『おいしい記憶』をおしえてください。」コンテストを開催しています。笑顔や優しさ、活力などを与えてくれるあなたの「おいしい記憶」を、私たちに教えてください。
第5回
キッコーマン賞
「キュウリの糠漬け」
対比地 百合子さん(愛知県・66歳)
読売新聞社賞
「コトコト、ホクホク」
宮島 英紀さん(東京都・52歳)
入賞作品
「アイツの握り鮨」
城田 光男さん(東京都・58歳)
「おむすびの記憶」
関根 徳男さん(栃木県・60歳)
「黒い手」
北村 大次さん(福岡県・41歳)
「ひじきのいなり寿司」
三輪 咲枝さん(千葉県・50歳)
「弟の手料理」
船本 由梨さん(兵庫県・28歳)
「きりたんぽ」
木村 良子さん(栃木県・60歳)
「サンマが旨いぞ」
印南 房吉さん(神奈川県・85歳)
「ぐるぐるケーキ」
三上 真名美さん(東京都・45歳)
「主夫奮闘記」
佐藤 哲也さん(千葉県・42歳)

※年齢は応募時

第5回
入賞作品「美味しいは幸せの合い言葉」保田 健太さん(神奈川県・19歳)

 食べることは生きることだ!そして「美味しいは笑顔の源」であり、辛い時も苦しい時も悔しい時も優しく寄り添ってくれる温もりだ!もうすぐ二十歳になる僕は、そのことを実感すると共に、本当に大切な宝物は細やかな日常の中にあると気付いた。

 僕は平成六年、予定日より二ヶ月半早く誕生した。母に生命の危機が迫っていて、手術を受けなければならなかったからだ。僕もたくさんの線に繋がれ、小児専門の病院で必死に生きようと頑張った。だが僕は、全身の運動麻痺という障害を抱え生きることになった。人間が成長と共に、自然にできるようになる全ての動作ができないということだ。だから、僕は0歳からずっと、脳や全身の訓練を続けている。その中でも母が最も力を注いだのが、食事とそれに伴う訓練だった。不自由な分、できるだけ多くの美味しい物を食べさせてあげたい。強い体を作りたい。様々な食材を食べられるようになれば、必ず脳や体に変化が出るという信念を持っていたからだ。

 幼児期は、初めて食べる物に胸を躍らせる毎日だった。何より食べることが楽しみだった僕は、口の訓練を喜んで熟した。太い鯣をしゃぶったり、ガーゼに包んだ飴をなめたり、フランスパンにつけた蜂蜜を吸ったり、成長に合わせ「美味しい訓練」は今も続けている。

 何より僕が一生忘れることのないギフトは、中学三年間の手作り弁当だ。食べ易い工夫とバラエティーに富んだメニューには、愛情がこもっていて感動を隠しきれなかった。毎朝それを楽しみに起床し、勉強・訓練・学校生活など、様々な難局を乗り切ることができた。

 全身の運動麻痺という障害を抱え、健常者と変わらない体を作るのは至難の業だ。驚くかもしれないが、現在の僕は一八〇センチ五五キロ、肩幅が広く筋肉質で、水泳選手のような体型だ。おかゆ以外はなんでも食べられる。歯医者での治療もできる。カラオケも歌える。数多くのスポーツも経験し、現在はトレーニングジムや水泳などを続けている。五年以上、熱も出していない。この頑丈な体の根源が、母の手料理であることは言を俟たない。

 その料理には母なりの法則がある。まず、七割が野菜で十種類以上使い、その他の食材もできる限り多く使う。メニューは、その日の活動量に合わせて決める。メインは、母が三品提案した中から僕が選ぶ。だから、僕の腹時計も心の時計も夕食が待ちきれない。食べ始めると、思わず赤ちゃんの笑顔になってしまう。全てを支え命を繋いだ「美味しい」は、僕の心のアルバムにずっと綴られている。

 料理はまるで宇宙のようだ。あらゆる自然の恵みが、多くの人の努力で様々な食材として生まれる。そして、料理する人によって無限大の感動を呼び、微笑みの逸品として輝く。食べた瞬間、心がカラフルになり笑顔が生まれ、そこにしかない味に五感を奪われる。だから、このときめきと感謝を込めて伝えたい。

「美味しいは幸せの合い言葉」だから!!

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