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2015/02/16
中南米の地域性と経済、両方を知る人材を育てたい
専修大学経済学部 狐崎 知己 教授
経済学部の狐崎知己教授が研究しているのは、中南米の「地域」と「経済」。二つの学問分野をフォローする数少ない研究者の一人として、日本・チリ経済連携協定の有識者委員やJICA(国際協力機構)のアドバイザーなど、日本と中南米をつなぐ職務も数多く務めている。その原動力や教育への思いを聞いた。
ホンジュラス勤務をきっかけにこの道へ
ホンジュラスにて
「中南米」と呼ばれる地域には、メキシコやブラジルをはじめチリ、コロンビアなど併せて33もの国がある。経済的に発展している国もあれば貧困に苦しんでいる国もあり、日本にとっては経済と支援いずれの面でも関係の深い地域だ。今、その両面で狐崎教授の専門知識が必要とされている。
「もともとは中南米の地域研究をしていました。これは各国の政治、経済、産業、法制度、文化、民俗などを広く研究するもので、その地域の人になりきって“中から”見つめていく点が特徴的です。私は現地に身を置いたことで、その国の平和や発展のために日本に何ができるのかを考えるようになり、その後、特に経済的側面について深く研究するようになりました」
大学では国際関係論と語学を、大学院では緒方貞子氏(元・国連難民高等弁務官)のもとで国際学を勉強。博士課程のときには外務省の在外公館専門調査員制度の第1期生として、在ホンジュラス日本大使館に約2年間勤務した。当時、ホンジュラスの周辺国は紛争の真っ只中。悲惨な現状を目の当たりにした教授は、紛争や貧困をなくすためのJICAの支援活動にアドバイザーとして携わるようになり、現在もニカラグア、ハイチ、グアテマラなど国別の援助政策に取り組んでいる。また、国連でジェノサイド(人種や民族への抹消行為)と認定された事例の原因究明や比較も研究テーマの一つだ。
「先進国の常識だけでは中南米の国々は援助できません。本当の意味での支援を届けるには、やはり地域を深く知らなければ。日本には中南米の地域性と経済の両方を知る人がまだ少ないので、大学ではそうした人材を育てていきたいと思っています」
レポートのお題は中南米の映画や文学
グアテマラにて
2000年代に入ってから、日本は急速に中南米との経済関係を深めている。メキシコ、チリ、ペルーとの間で経済連携協定を締結し、そのうちチリとの締結の際には狐崎教授も有識者として太平洋を何度も往復した。また、ここ数年はメキシコを中心に日本企業の進出が続いており、一昨年には安倍首相が日本の首相としては久しぶりに中南米を訪問。日本企業では現地での人材不足も加速しているという。
「中南米は約6億もの人が住んでいて、今後の経済発展が見込まれる地域。日本企業は経済の知識があり、かつスペイン語ができる人材を切望しています。ですから、経済学部の学生にはぜひ中南米に興味を持ってほしい。講義ではまず中南米に興味を持ってもらい、その後に経済的な視点から見つめられるよう指導しています」
教授の担当は国際関係論、ラテンアメリカの経済、NGO論など。このうちラテンアメリカの経済の講義は、中南米の映画や文学を入り口に経済問題と絡めたレポートを書かせるところから始まる。これが現地の雰囲気を知る良いきっかけになるようで、中には「もっと他に作品ないですか」と言ってくる学生もいるそうだ。一方、ゼミでは国際開発問題をテーマとして指導を行っている。
「ゼミでは、世界にはなぜ開発援助が必要な国があるのか、貧困問題に対して日本は何をすべきかといったことを考えていきます。最大の特徴は、ゼミ生全員が留学やNGOスタディツアーなどで開発途上地域へ足を運んでいること。必須ではないのですが、大学から補助が出ることもあって皆が行きたがってくれるんです。私も心から応援しています」
現場をその目で見て、体感して
キューバ 革命広場にて
開発途上地域に行けば、ゼミや本を通して学んできた問題が現実として目の前に広がる。多くの学生はその現状に衝撃を受け、自分にできることはあるのかと自問自答する。それが成長につながるのだろう、現地を見た学生は引き締まった顔つきになって帰ってくると言う。
「帰国後には考えをまとめてレポートを発表してもらいます。現地を見たことで学生が何かへの興味を持ち始めたら、それをできるだけ継続させるのが私の仕事。ゼミ生の中には子どものむし歯の多さに驚いて歯磨きプロジェクトを立ち上げた学生もいますし、卒業後に経済援助のプロジェクトを立ち上げた学生もいます。興味を行動に移してくれたら、こんなに嬉しいことはありません」
教授は学生に常々「一度は現地を見てこい」と言っている。その言葉通り、自身も過去20年間、年に10回のペースで中南米へ足を運んできた。研究活動の際は都市部のホテルではなく目的の村に滞在し、スペイン語や英語、ときには少数民族の言語も駆使して住民に話を聞いて回る。ライフラインが十分でない地域も、治安の悪い地域ももちろんある。それでも出かけるのは、行かないと見えないことがあるからだ。
「本当のプロはネットや資料で情報を見るだけでも分析できますが、それも一度は現地を見た経験があるからこそです。それに中南米は気さくな人ばかりで、すぐに友だちができて楽しいですよ(笑)。ただし治安には十分気をつけて、一人では行かないように。せっかく行くなら、ただの観光ではなく留学やスタディツアーを利用して、現場をぜひ間近で見てきてください」
狐崎 知己(こざき・ともみ)
1957年生まれ、東京都出身。上智大学外国語学研究科博士課程単位取得満期退学。国際学修士。主な研究テーマは中南米における民主化と開発および文化と開発、比較ジェノサイド研究。中南米の地域と経済の専門家として、JICA(国際協力機構)の支援プロジェクトで専門委員やアドバイザーなどを務めている。1999年より現職。主な著書に『グアテマラ内戦後 人間の安全保障の挑戦』(共著/明石書店)、『21世紀の政治と暴力』(共著/晃洋書房)など。
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