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2015/01/05

日本のコンテンツ産業に新しいビジネスモデルを

専修大学ネットワーク情報学部 福冨 忠和 教授

 ネットワーク情報学部の福冨忠和教授は、出版社勤務やメディアプロデューサーなどを経験してきた異色の研究者。現在、講義ではコンテンツマネジメントの、ゼミではエリア一般放送局「かわさきワンセグ」運用の指導に当たっている。コンテンツビジネス業界の現状や、人材育成への取り組みを聞いた。

日本のコンテンツ産業は這い上がれるか

 小説や漫画、音楽、映像、ゲームといったコンテンツが、インターネットを介して入手できるようになった現在。コンテンツは本やCD、DVDなどだけではなく、複数のメディア展開を前提に作られることが多くなった。最初はゲームとして発売された作品が、漫画やテレビアニメ、映画になることも珍しくない。福冨教授の研究は、そうした変化をビジネスの側面から見つめるものだ。

「メディアコンテンツ関連のビジネス論から表現・制作の手法までを含む『コンテンツ学』を研究しています。以前は放送や新聞などのマスメディア論を中心にしていましたが、今や情報伝達の手段はインターネットが主流になりつつあります。多くのコンテンツが無料で見られる時代に、この産業をビジネスとして成り立たせるにはどうすればよいか。平たく言えば、制作などにかかった費用をどう回収するか、をテーマにしています」

 教授は、自らメディアプロデューサーとして働いた経験を持つとともに、国内のコンテンツ産業の市場動向を明らかにする『デジタルコンテンツ白書』(経済産業省監修)の編集委員長も長らく務めている。この産業の当事者と第三者、両方の視点を併せ持つからこそ、業界の現状に注ぐ目も厳しい。

「日本のコンテンツ産業は危うい状態にあります。CDやゲームなどパッケージソフトの売り上げはすでに斜陽で、企業はその分をインターネットやライブからの収益で補完しようとしていますが、まだあまりうまくいっていません。価値あるオリジナル作品があっても、それを儲けにつなげる方法が確立されていない。私も、研究を通して新しいビジネスモデルを模索中です」

新しいものが生まれる「可能性」に惹かれて

 メディアの多様化とともに、目まぐるしく変化していくビジネスモデル。作品もそれを売る手段も常に更新が求められる世界だが、だからこそ新しいものが生まれるチャンスも多い。教授にとってはこの「可能性」が一番の魅力だと言う。

「コンテンツ学は、メディア論や経営学、法律など多彩な領域が入り交じっていて、しかも変化するからこそ面白い。コンテンツ業界を目指す学生は、今は即戦力を求められるので大変だと思いますが、アイデア次第では第一人者になれる可能性があります。特定の専門性を身につけたうえで、他の道にも可能性を伸ばしていける『柔軟な専門性』を持った人材を育てていきたいですね」

「柔軟な専門性」は教育学者の本田由紀氏が提唱しているもの。福冨教授はこの考え方を取り入れて、学生にはコンテンツの制作スキルを教えるとともにプロデュース業の疑似体験もさせている。例えば「コンテンツマネジメント」の授業では、学生は自分の発想を事業化するための企画書を作成。アニメ・漫画の関連イベント「アニ玉祭」(埼玉県)でプレゼンテーションを行った際には、1人の学生の企画書が企業の目に止まり、実現化の話も持ち上がった。

「企画書づくりでは、企画案から収支計画、タイアップなどのプロモーション案まで全部考えてもらいます。どこで利益を出すかまで考えなくてはならないので、学生は大変がっていますよ(笑)。でも、この授業から新しいビジネスモデルが誕生する可能性もありますし、学生にとってはプレゼン力やコミュニケーション力を磨く機会にもなる。新しいなと思った案には、もちろん良い点を付けています」

ゼミ生はワンセグ番組のプロデューサー兼出演者

 ゼミ(ネットワーク情報学部では「プロジェクト」という科目名)になると、このプロデュース業はより本格的になる。エリア一般放送局「大学×地域 キャンパスコミュニティテレビ かわさきワンセグ」で、番組制作から運営までを学生だけで行うのだ。大学の小さな放送メディアとはいえ、作ったテレビ番組は実際に放送され、ストリーミング配信も行われる。地域情報番組やトーク番組のほか生中継もあり、ゼミ生は企画や取材、撮影などで大忙しだ。

「『かわさきワンセグ』は2011年にスタートしました。その頃に比べて今は番組も増え、レギュラー出演者が学内で人気者になったりと、認知度も高まっています。最近はスポーツ番組も始まって、これが学生に人気なんですよ。専修大学の運動部を紹介する番組なのですが、試合が全国各地であるので取材や撮影が大変みたいです。でも、僕には楽しそうに見えますけどね(笑)」

 学内に放送局を持ち、さらに実際にコンテンツを作って配信している大学はまだほとんどない。その点でも「かわさきワンセグ」は非常に先進的な試みと言えるだろう。また、ワンセグは携帯の電波が不通になっても見られるため、災害時の情報伝達手段としても期待されている。

「この分野は学ばなければならないことがたくさんありますが、昨年学んだことが今年も通用するとは限りません。どんどん新しいものが生まれ、求められるものもその都度変わっていく。だからこそやりがいもあります。これからも新しいビジネスモデルの研究と、この分野で活躍できる人材の育成に取り組んでいきたいと思います」

福冨 忠和(ふくとみ・ただかず)
1955年東京都生まれ。青山学院大学経営学部卒業。出版社勤務、フリージャーナリスト、メディアプロデューサーなどを経て、2007年より現職。主な研究テーマはメディアコンテンツ論。国会・衆議院内閣委員会IT基本法参考人、グッドデザイン賞、デジタルコンテンツグランプリ、川崎市文化賞などの審査員を歴任。主な著書に『コンテンツ学』(共編著/世界思想社)、『ヒットプロダクツの舞台裏』(アスキー出版局)、『デジタルコンテンツ白書』(編著/デジタルコンテンツ協会、経済産業省商務情報政策局監修)など。

かわさきワンセグについて詳細はこちら別ウィンドウで開く

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