ホーム  >  教員 Pick Up  >  「体験を通して憲法を学び 自ら発信する積極性を養う」専修大学法学部 田村 理 教授

教員 Pick Up 一覧

2014/11/17

体験を通して憲法を学び 自ら発信する積極性を養う

専修大学法学部 田村 理 教授

 専修大学の個性豊かな教員を一人ずつ紹介していく連載シリーズ、第4回目は法学部で憲法の講義とゼミナールを担当している田村理教授が登場。専門はフランス憲法史だが日本の憲法問題を論じることも多く、そのわかりやすい解説には定評がある。教授の研究内容や教育への取り組みを聞いた。

憲法は国を見張る道具

 日本における憲法と法律の違いをご存じだろうか。どちらも守らなければいけないルールとして一括りに捉えてしまいがちだが、田村教授は「この二つの間には決定的な違いがある」と語る。法律は国民が守らなければいけないもの、憲法は国が守らなければいけないもの。教授には、この違いを一般の人々に伝えていきたいという思いがある。

「憲法は、国に余計なことをさせない、つまり国民が国を見張るためにあるルールです。『国を自分たちが監視する必要がある』という立憲主義の考えは、日本ではまだあまり普及していません。僕たちは無防備に国を信頼しすぎてはいないか? そんな疑問を皆さんに持ってほしいのです」

 田村教授はフランスの憲法史、特に革命期の憲法を専門とする憲法学者。解釈や運用方法ではなく、憲法制定にまつわる歴史や世の中に与えた影響などを中心に研究している。憲法をただの文章として読み解くのではなく、誰が何のため作ったのか、人々にどう受け止められたのかを考える──。田村教授が見つめているのは、無機的な法律文ではなく人間の営みそのものだと言えるだろう。この視点は、日本の憲法問題を論じるときも変わらない。

「憲法学者は、安倍さんが首相になると忙しくなるんです。最近だけ見ても、マイナンバー(社会保障・税番号)制度や特定秘密保護法、集団的自衛権など、日本国憲法や立憲主義と関わる問題は数多い。だからこそ、今の日本には『憲法は国に余計なことをさせないためにある』という考え方が必要です。これを伝えていくとともに、問題を憲法と照らし合わせるだけでなく、日本の政治的・文化的な側面も見ながら論じていきたいと思います」

ビデオ制作で「表現の自由」を身をもって体験

 田村教授は日本とフランス両方の憲法を学んだため、日本という国を内からも外からも眺められる視点を持つ。そのため、フランスと違って日本では多くの学生が「憲法や国は、自分を守ってくれるもの」と一面的に思い込んでいることに危機感を覚えている。

「思い込んでいることに対して疑問を持ってもらうには、机上で勉強するよりも『体験』が一番。授業では法廷もののテレビドラマなどを見せ、疑似体験を通して憲法や国を見張る必要性を解説しています。またゼミでは、ドキュメンタリービデオを作る、弁護士にインタビューをするといったことを通して、憲法を体感してもらっています」

 現在はゼミの学生とともに撮影機材を持って横須賀へ行き、米軍、集団的自衛権と横須賀の日常生活をテーマにしたドキュメンタリービデオを制作中。撮影後の編集作業は全て学生が行う。こうしたビデオ制作は毎年実施していて、2013年には東日本大震災をテーマにした作品で、東京ビデオフェスティバルの優秀作品賞を受賞している。

「ビデオを通してあるテーマを表現しようと思ったら、必ず何らかの壁にぶつかります。人を撮影すれば肖像権があり、BGMをつけようと思ったら著作権がある。これは憲法が保障する表現の自由とぶつからないのか、肖像権や著作権は何のためにあるのか。そうした疑問を持ったなら、その先にはまた新たな学びが待っています。法律学を条文や判例を覚えるだけの学問にする必要はありません。法学部というと弁護士などを目指すイメージがあるかもしれませんが、僕はそれとはまた別の学びを提供したいと思っています」

「外に出よ、人に会え」、自らが発信する人に

 学生には常々「内にこもるな、外に出よ、人に会え」と言っているという。そこには机で法律書と向き合っているだけでは得られない刺激があり、自分の殻を破るきっかけとの出会いがある。ゼミでインタビューやビデオ制作を実施しているのも、学生が外に出ざるを得ない状況を作り出すためだ。

「今の学生は、就職活動で初めて目上の人と接するに等しい人も多い。それでは緊張するのも当たり前ですし、失敗したと感じれば落ち込み度も大きくなるでしょう。だから、学生のうちにどんどん知らない人と話をしてほしいんです。研究者の世界でも、机にかじりついている人間は、積極的に外に出て話す人間よりも高い評価を得にくい。これは僕自身が経験済みです(笑)」

 実は教授自身も表に出ることが苦手で、本音を言えばこもって研究していたいのだそう。だが、そのデメリットもよく知っていて「研究者としてはアリかもしれませんが、一般社会では受け入れられないでしょう」と笑う。だからこそ自らも積極的に外へ出かけ、ときにはゼミの学生とともに街の人に話を聞く。撮影機材を抱えて街頭インタビューをする憲法学者など、日本広しと言えど田村教授ぐらいではないだろうか。

「学生のうちに、表現方法は紙と文字だけにとどまらないと知ってほしいのです。弁護士を目指す学生にも、弁護士資格を持ったジャーナリストや作家など、何かしらを発信する人になってほしい。そのためには自発性や積極性が必要です。こもっていないでどんどん外に出てください。僕も嫌ですけど、一緒にやりますから(笑)」

田村 理(たむら・おさむ)
1965年新潟県生まれ。明治大学法学部卒業、一橋大学法学研究科博士後期課程単位取得退学。1995年より福島大学行政社会学部助教授、2004年より専修大学法学部助教授を務め、2007年より現職。研究テーマはフランス革命期の憲法史、および立憲主義とジャーナリズム。主な著書に『フランス革命と財産権』、『投票方法と個人主義』(いずれも創文社)『僕らの憲法学』(ちくまプリマー新書)、など。『日本政治のオルタナティブ 憲法を使え!』(仮)を彩流社より近刊予定。日本公法学会、全国憲法研究会に所属。

最近の記事

一覧

学長インタビュー

  • オープンキャンパス
  • 専修大学からの「知の発信」
  • SPORTS

専修大学について

センディ・ナビ

Pick up(2012年度アーカイブ)

だから専修(2013年度アーカイブ)

▲このページのトップへ