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2014/12/15

本や雑誌への思いを胸に電子書籍の未来を拓く

専修大学文学部 植村 八潮 教授

 今回は、文学部人文・ジャーナリズム学科で出版学や情報メディア発達史を教える植村八潮教授が登場。工学部出身でありながら編集者としてキャリアを積み、現在は電子書籍の普及に取り組んでいる。その根底に一貫して流れているのは、文字や本への熱い思いだった。

電子書籍の世界をひた走る「出版のプロ」

 頭にはハットをかぶり、首元にはパステルカラーのマフラー。ヨーロッパの街角が似合いそうなおしゃれないで立ちは、大学教授という肩書きからくるイメージとはほど遠い。それもそのはずで、植村教授の前職は編集者。しかも約35年にもわたって本や雑誌を作り続けてきた、たたき上げの「出版のプロ」だ。

 「専門は、文字情報流通の進歩を深く見ていく『出版学』です。出版メディアは数あるマスメディアの中で最も歴史が長く、およそ600年前に印刷技術が発明されたことから始まりました。その後、書籍のほか雑誌や新聞、広告などさまざまな活字メディアが登場し、さらに近年ではディスプレイ上での文字情報流通が主流になりつつあります。そのなかでいま僕が研究しているのは、書籍のデジタル化を普及させるための方策。いわば電子書籍屋ですね」

 電子書籍というと端末で好きな小説を読めるという点ばかりが強調されがちだが、植村教授の視野はもっと広い。書籍には実用書やマンガのほか地図や時刻表、辞書なども含まれており、小説は膨大にある本のなかの一部。現在、地図はナビゲーション機能、時刻表は電車乗換案内、辞書は音声や検索機能を付加し、マンガはケータイコミックとして成功している。

「文字情報流通のデジタル化は今後も進んでいくでしょう。しかし、教養書や文芸など書籍の一部と、新聞や雑誌などの旧メディアはこの流れに乗り遅れています。デジタル時代にこれらが生き残るためには何をすべきなのか。そこを、出版の歴史や海外の先例なども踏まえながら研究しています」

編集者はアグレッシブであれ

 出版学に情熱を注ぐ植村教授だが、実は卒業したのは工学部。わずか10歳で神田の古書店街と秋葉原の電気街に通い始め、やがて科学ジャーナリストを志すようになった。その実現のために工学部に入り、卒業後は大学の出版局で科学書の編集や電子出版を担当。旧メディアと新メディアの両方を体感しているからこそ、学生には徹底して旧メディアに触れさせている。

「今の学生は新旧メディアのバイリンガルも多いですが、作家性というものを理解するためにも、知識を文字にして本にするプロセスは絶対に知っておいてほしい。だからゼミでは徹底的に本を読ませます。電子書籍屋の割には保守的でしょう(笑)。1週間に1冊読んで、これはお勧め、と思った1文とその理由を書いてもらいます。それで読書の習慣がついた学生も多いようです」

 読書の義務化のほか、夏休みにはマスメディアで活躍する人に一人でアポ取りから取材までこなす、という課題もあり、植村ゼミは厳しいと評判だ。しかし、ゼミ生には編集者を目指す人も多い。植村教授の厳しさは、そのまま編集者という職の厳しさを表すものでもある。

「学生にはよく『出版社は、ただの読書好きは採用しないよ』と言っています。編集者には月に20冊以上読む人もざらにいますが、彼らは武器として本を手にします。世の中に伝えたいことがある人でないと本は作れません。特に今はメディア激変の時代ですから、どこもアグレッシブな人を求めている。編集者を目指す学生には、そうしたことも理解してほしいと思います」

本や雑誌への愛が原動力に

 教授自身もアグレッシブに活動を続ける行動主義者。いち早く電子書籍の普及に取り組み、その言論表現や流通の仕組みを守るために、官民共同で「出版デジタル機構」も設立した。ただ、こうして電子書籍を推し進めながらも、教授は本や新聞、雑誌などの印刷メディアにも深い愛着を持つ。だからこそ、これらがデジタル時代に対応できていない現状を憂い、生き残るすべを模索しているのだ。

「出版メディアはずっと昔から人類の文化を支えてきた大切なもの。だから僕としては、消滅させてしまうのではなくデジタル上に再構築する方法を模索したい。出版不況の原因として若い人の活字離れも叫ばれていますが、彼らはディスプレイ上では積極的に文字を読んでいるんです。LINEもTwitterも、一時流行したケータイ小説も文字情報ですよね。出版も新聞も工夫次第で、紙よりディスプレイに親しみを持つ新しい読者層をつかめるはずなんです」

 今後は出版メディアの再構築のほか、視覚障がい者のために電子書籍の自動読み上げ機能の普及などにも取り組んでいくという。電子書籍は新しいメディアのため、まだ手つかずなことも多い。これからもっと面白いメディアになるはずで、教授はその可能性に大いに期待している。

「人類は今後も文字コミュニケーションを手放せないでしょう。だから例え紙媒体は減っても、文字情報の流通がなくなることはありません。文字情報は知識や文化を伝え、私たちの生活を豊かにしてくれるもの。古くからそれを流通させてきたのが、僕の大好きな『本』です。今に『本』と言ったら、電子書籍のことも含むようになるでしょう。若い人もぜひ虜になってほしいですね」

植村 八潮(うえむら・やしお)
1956年生まれ、千葉県出身。東京経済大学大学院コミュニケーション学研究科博士課程修了。博士(コミュニケーション学)。東京電機大学工学部を卒業後、同大出版局に勤務し、理工系専門書や電子出版物の編集に携わる。2007年、局長に就任するとともに東京経済大学大学院博士課程を修了。日本書籍出版協会理事、日本出版学会副会長、出版デジタル機構社長などを歴任し、12年より現職。専門は出版学。主な編著書に『電子書籍制作・流通の基礎テキスト』(電子出版制作・流通協議会/Kindle版・単行本)、『電子出版の構図─実体のない書物の行方』(印刷学会出版部)など。

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