教員 Pick Up 一覧
2014/10/20
インド、パキスタン情勢の「いま」を追って
専修大学法学部 広瀬 崇子教授
この連載では、専修大学の個性豊かな教員を一人ずつご紹介。第2回目は、法学部で国際政治学・南アジア政治を教える広瀬崇子教授のインタビューをお届けする。同教授は、日本におけるインド・パキスタン政治研究の先駆者の一人。その独特の研究手法や教育への取り組み、学生への思いなどを聞いた。
現地へ飛び、要人たちの「生の声」を研究資料に
「今のようにインターネットが発達していなかった時代には、研究の資料を手に入れようと思ったら現地へ行くしかありませんでした。特にインドは何度行ったかわからないぐらい(笑)。新聞記者みたいに、首相や外交官、政治家などを追いかけ回してインタビューして、それをもとに論文を書いていましたね」
広瀬教授はインドやパキスタンの政治を中心に扱う国際政治学者。民族紛争や選挙の分析など、変化が目まぐるしく、かつ「いま」を追うことが求められる分野を専門にしている。研究を始めた当初は日本で入手できる資料がほとんどなかったため、何度も現地へ足を運んでは要人への突撃インタビューを敢行。現地の生の声や意見を聞いて、それをもとに論文を書き上げる。驚くことに、この独特の研究手法はベテランとなった今も変わらない。
特にインドは近年経済成長がめざましく、日本との関係が急速に深まりつつある。今年5月に誕生したインドのナレンドラ・モディ新首相は日本との関係を重視する姿勢を打ち出しており、両国間の連携は経済面でも安全保障面でも今後ますます強まっていくだろう。その意味でも、広瀬教授の研究の意義は大きい。2011年に書いた『インド民主主義の発展と現実』(勁草書房)は、すでに現地情勢を知るうえでのバイブルになっているほか、新首相の訪日の際には専門知識を生かして官邸に助言をしている。
「震災前に政府の原子力委員会で3年ほど委員を務めていたので、今度はインドのエネルギー問題も研究しようと思っています。これまでの経験を融合したものとはいえ、私にとっては新たなチャレンジですね。パキスタンについては、引き続き地域研究を深めていきたい。危険度が高いのでインドほどは訪問できませんが、年1回は行って現地の情勢をつかむようにしています」
国家や政治を理解するための枠組みを教えたい
広瀬教授の場合、論文執筆はもちろん、授業もまた豊富な現場経験に基づいて行われる。インドでの体験談や現地で撮ってきた写真を披露しながら、本人いわく「喋りっぱなし」で授業は進んでいく。学生はインドやパキスタンに興味はあっても、その真の姿となると知らないことがほとんどだ。ヒンドゥー教、カースト制度、州によって文化も言語も異なる目もくらむほどの多様性──。
「日本人からすれば、インドはまったくの異文化の国。想像力と思考能力を目一杯働かせないとなかなか理解できません。しかも国際政治は進歩も変化も激しい分野なので、覚えた知識はすぐ古いものになってしまいます。ですから、学生には考え方の枠組みを教えたい。国家とは何か、政治とは何か、自分で考え理解するための枠組みを重視して授業をしています」
またゼミでは、論文を重視しているという。法学部には卒論がないが、広瀬教授のゼミでは論文作成が必須。「いい論文を書き上げるためには毎回出席することが重要」との考えから、指導もかなり厳しいものだ。そのため、広瀬ゼミには熱心な学生が多い。
「あとルールも厳しくて、3秒以上沈黙してはいけないとか、『〜な感じ』や『何となく』は禁句とか(笑)。これは学生同士の議論を活発にするためであると同時に、学問に向き合ううえでとても大事な姿勢だからです。論文も、これほど厳しく指導するのは、学生時代のうちに何か一つを深く突き詰めてほしいから。その経験は、きっと一生役立つ力になると信じています」
持って生まれた能力を目一杯生かす努力を
指導は厳しくとも、実際の広瀬教授はとてもおおらかで温かな雰囲気の女性だ。本に囲まれた研究室はなぜか親戚の家のように居心地がよく、ときには学生が悩みを相談しに来ることもある。「最近の学生には野心がない」と嘆きながらも、帰りがけには「また来なさいね」と声をかけ、外部講師を招いた授業では学生たちに「バンバン質問しなさいよ」と発破をかける。厳しく指導するのも、学生の将来を思えばこそなのだ。
「専修大学には優秀な学生がたくさんいるので、持って生まれた能力を目一杯生かす努力をしてほしいですね。私だってそんなに能力がなかったけれど、それでも今があるのは120%の力を出してチャレンジを続けてきたから。インドでのインタビューも、現地とのコネも何もなかったところから始めたんですよ」
プライベートではオーケストラでバイオリンを弾き、忙しい研究活動の合間を縫って年に5~6回は演奏会に出演。ときにはインドで買ってきたスパイスを使って何種類ものカレーを作り、友人を招いてパーティーを開く。仕事でもプライベートでも生き生きと活動する教授の姿は、人生のお手本にもなりそうだ。最後に、インドという国を楽しむ秘訣を聞いてみた。
「時間とか約束というものが日本よりずっと緩いので、いい加減だなと思ってもまともに怒らないこと。インドでは怒った方が負けです(笑)。後で笑い話のネタになるとでも考えて、思い通りにならないことも楽しむ姿勢でいてください。そうすれば、とても楽しく過ごせる国ですよ」
広瀬 崇子(ひろせ・たかこ)
東京都生まれ。ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ大学院博士課程修了。博士。南アジアの政治・外交、特にインドとパキスタンの政治を中心に研究。インド訪問は100回を超え、多くの政治家や外交官、官僚へのインタビューを実施してきた。2003年より専修大学で教える。日本南アジア学会 英文雑誌編集委員会委員長。主な著書に『インド民主主義の発展と現実』(勁草書房)、『現代インドを知るための60章』(共著/明石書店)、『インド民主主義の変容』(明石書店)など。
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