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自由度の高い学びの場を提供し
ワクワクする環境を発信する「スマートシティ」へ

宮元 陸さん宮元 陸さん

デジタル人材の育成と先進テクノロジーの導入を成長戦略に

廣瀬 本日は、加賀市長の宮元陸さんをお迎えしました。私は関西出身ですので、関西の奥座敷と呼ばれる加賀温泉郷には親しみがありますし、親族がメーカーに勤めていて加賀市に駐在していたこともあり、ものづくりの町としても馴染み深いです。また伝統工芸品の町というイメージも強いのですが、近年ではいずれの産業でも厳しい状況におかれていて、それを乗り越える方策を練っている過程にあると伺っています。最初に、市長から加賀市の現状についてご紹介いただけますか。

宮元 加賀市は石川県の南西部、ちょうど福井県との県境に位置しています。歴史を遡れば加賀百万石の支藩、大聖寺十万石という城下町を中心に発展し、かつては加賀温泉郷として片山津・山代・山中温泉で名を馳せた一大観光地でもありました。基幹産業は観光と部品メーカーを中心としたものづくりの二つで、伝統産業としては360年以上の伝統のある九谷焼と山中漆器が知られています。2024年には北陸新幹線が敦賀まで開業予定のため、地域経済の一つの起爆剤になると期待しています。一方で、昭和60年代には8万人だった人口が、現在は6万4千人、2040年には4万人にまで減ると予測され、いわゆる人口消滅可能性都市のひとつに数えられています。私は加賀市の一番の課題はこの人口減少にあると考え、そこに対応する政策を練っているところです。

廣瀬 近年、スマートシティの「加賀市」ということで、「最もデジタル化が進む自治体」と注目を集めています。こうしたIT化に本気で舵を切られた経緯とその内容の特長についてお聞かせください。

宮元 先ほど申し上げた人口減少が産業構造に大きく影響する問題であるということが政策の根幹にあります。ちょうど私が市長に就任した頃、ITやAIが社会を変えていく第四次産業革命ということが盛んに言われていました。かつて19世紀に産業革命があった際にその波に乗った国は発展し、乗れなかった国は衰退したという歴史的事実があります。第四次産業革命でも同じことが言えるならば、我々のような自治体にとってこの波にいち早く乗ることで新しい産業を創ったり、誘致したりする良い機会になると捉えました。特に今、注目されているDX(デジタル・トランスフォーメーション)は単なるデジタル化ではなく産業構造そのものを変えるものですから、非常に大きな変革への挑戦になります。そこで私は、加賀市をもう一度成長路線に乗せるために、「デジタル人材の育成」と「先進テクノロジーの導入」の二つの柱を成長戦略の基本にしてIT化へと舵を切る決意をしました。自治体として先進的な取り組みを続けていき、「加賀市は非常に挑戦的で面白い」「あそこに行けば何か面白いことができそうだ」と感じ取ってもらえるようなワクワクする環境を提案していくことが我々自治体の役割だと思っています。まだまだ目標には遠いですが、少しずつでも前進していくために取り組んでいます。

人材育成の基本は早い段階から行うことが大切

廣瀬 若い人たちに向けたデジタル教育や、ロボットを活用した教育プログラム「ロボレーブ」(https://www.roborave-kaga.com/)に以前から取り組まれていました。その狙いは何でしょうか。

宮元 「ロボレーブ」は2014年からご縁をいただいているアメリカのロボット教育団体です。2020年から日本の学校でプログラミング教育が必修になりましたが、人材育成の基本は早い段階から行うことであるとの思いから、加賀市では3年前倒しして2017年からプログラミング教育を小中一斉に始めました。「ロボレーブ」の大会も毎年継続していたのですが、今年予定していた世界大会はコロナ禍で延期となってしまったため、来年は状況を見ながら開催したいと思っています。「ロボレーブ」を通じて子どもたちのプログラミングへの関心が高まり、飛び抜けた能力を発揮する子も少しずつ出てきており大きな可能性を感じています。「GAFA」の創始者の方々は小さい頃からプログラミングに親しんでいたという話を聞きますし、これからはデジタル人材のニーズが高まると言われていますので、先手先手で取り組んでいきたいと考えています。


ロボレーブ国際大会2018

廣瀬 子どもたちにとって創意工夫したものを競い合うことは大きな刺激になりますし、何よりも楽しみながらやれる点が良いのだと思います。

宮元 「ロボレーブ」の立ち上げ初期には法政大学理工学部の伊藤一之先生が「人工知能とロボット」というテーマで2つの学校で講演をしてくださるなど、ご支援をいただき感謝しております。現在、「ロボレーブ」にはNASAも関心を持ってくれていて3~4人の方が来てくれているほか、JAXAも人材を派遣して下さっています。
また、マサチューセッツ工科大学が世界に100箇所展開している教室「コンピュータークラブハウス」を加賀市に誘致することができました。これは経済格差のために先進テクノロジーに触れる機会がない子どもたちに機会を作っていく試みで、プログラミングや3Dプリンターを体験してもらっています。

廣瀬 そういう新しい取り組みをされる際に市長ご自身でも積極的に動かれるそうですね。


コンピュータクラブハウス開所式挨拶

宮元 役所がやるとどうしても一つ一つの手順を踏まなくてはならず時間がかかってしまうため、私が直接担当者の方に電話をすることもあります。

廣瀬 デジタル化が進んでいることに対して、市民の方からの反応はいかがですか。

宮元 マイナンバーカードの申請率はもうすぐ80%となり、デジタルインフラの基盤への期待感は持っていただいていると思いますし、行政手続もスマホで電子申請できるようにしたため、少しはお役に立っていると思います。まだまだ道半ばですが、今後、本当の利便性を感じてもらうためにも、民間サービスとの協力体制を模索しているところです。
デジタル化の成功例としては、ぶどうの品種「ルビーロマン」があげられます。これは非常に規格の厳しい品種なのですが、ビニールハウスの温湿度の管理などIoT技術を活用した結果、商品化率を50%から70%まで上げることができました。農家の後継者の育成にも好影響が出ているということで大変喜ばしく思っています。また、加賀市の精度の高い3D地図を今年度中に作る予定です。このようなデータの基盤ができればドローンの自動飛行が容易になりますので、将来は空飛ぶ車もできるのではないでしょうか?夢ばかり語って申し訳ありませんが(笑)

廣瀬 現実的な話ばかりでなく、夢を語ることも大切です(笑)それこそワクワクして楽しみな取り組みですね。

宮元 同時に、「MaaSマース(Mobility as a service)」という現実的な交通手段についての取り組みにも力を入れています。やはり足の確保ができないと人は離れてしまいますので、我々のような人口が減少している地域では移動手段の確保は切実な課題になっています。そこで、バス路線などの公共交通手段が減るなかで、旅館や介護事業者などが保有する送迎バスを公共交通機関と一緒に活用できないかという発想から、アプリで予約決済までできるシステムの準備を進めているところです。

廣瀬 既存の資源をシェアして地域のQOL(Quality of Life)を上げていく発想ですね。シェアリングエコノミーが広まっている今の時代に合った取り組みですね。

自分を追い込み、市民との約束を果たす

廣瀬 外からの誘致に加え、市における人材育成にも力を入れられています。現在行っている教育プログラムやマニフェストでも触れられていた「デジタルカレッジ加賀」の創設についてのビジョンを教えてください。

宮元 2030年にはデジタル人材が約70~80万人不足すると言われています。子どもたちを育てていく上で、これまで通りの手法ではない、バーチャルやリアル、リカレント、リスキリング、起業家育成を含めたもっと自由度のある学びの場を作りたいと思っています。実は現在、多くの加賀市の県立高校は定員割れをしており、高等教育機関もないため、地域に人材を集められないという課題もあります。これからは、画一的ではない自由な教育で市内の高校の魅力度を上げていくのと同時に、新たな教育の場として「デジタルカレッジ加賀」を打ち出していこうと思っています。

廣瀬 オンラインの仕組みを使って世界中を回りながら学べるミネルバ大学の例もありますね。

宮元 そうですね。例えば、母校である法政大学と連携して、加賀市に観光滞在をしながら勉強してもらえる仕組みができたら素晴らしいと思います。海も山も近く、街もコンパクトで、きっと過ごしやすいと思います。

廣瀬 法政でロボット工学を学ぶ学生が加賀市で子どもたちに教えたりしてもいいですよね。近年、法政大学の学生の約4分の3は首都圏出身者となっており、このところ急激に地方出身者が減っています。ちょうど地方公務員を志望している学生などにはさまざまな地域の方と接して学べる機会を提供できないものかと思っておりました。

宮元 そうですか。どこかで連携できればいいですね。

廣瀬 そうですね。ここで、ご経歴についても伺いたいと思います。宮元さんは地元の中学校から金沢市の高校に進学され、法政大学法学部政治学科に進まれました。その後、衆議院議員秘書、石川県議会議員を経験されて、2013年から市長に就任。このほど3期目に再選されました。様々な立場から政治に関わってこられましたが、もともと政治の道に進みたいと思われていたのですか?

宮元 明らかなきっかけはないのですが、中学の時から何となく政治家を目指していました。ですので、大学を卒業するとすぐに政治家を目指しました。県議会議員を4期16年務めましたが、地元である加賀市をより一層発展させたいとの思いが強くなり、現在は、市長として、スマートシティの実現に向け倍速のスピードで取り組んでいます。

廣瀬 2021年11月のマニフェスト大賞において、首長部門で最優秀マニフェスト推進賞を受賞されました。市民の目に触れるよう公開の場で結果を検証してこられた実績が評価されたものと思います。

宮元 ありがとうございます。マニフェストはわかりやすく言えば、自分を追い込むためにやっています。昔ながらの首長は公約を言いっぱなしで終わっていることも多いですが、もうそういう時代ではありません。きちんと第三者評価を入れて独断や思い込みを排し、市民と課題を共有しながら約束を果たしていくことが大事なことだと考えています。

廣瀬 本日はありがとうございました。今後の加賀市の展開をとても楽しみにしております。


石川県加賀市長 宮元 陸(みやもと りく)

1956年石川県生まれ。1981年法政大学法学部政治学科卒業。衆議院議員秘書を経て19994月から石川県議会議員を4期務める。県議会副議長・県監査委員・県議会運営委員会委員を歴任したのち、201310月に加賀市長に就任。現在は3期目。迫りくる人口減少と少子高齢化を見越して「スマートシティ加賀構想」を積極的に推進。202111月のマニフェスト大賞において、選挙時に市民と約束したマニフェスト・サイクルを見事に回している点が評価され、首長部門で最優秀マニフェスト推進賞を受賞。

法政大学総長 廣瀬 克哉(ひろせ かつや)

1958年奈良県生まれ。1981年東京大学法学部卒業。同大大学院法学政治学研究科修士課程修了後、1987年同大大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学、同年法学博士学位取得。1987年法政大学法学部助教授、1995年同教授、2014年より法政大学常務理事(2017年より副学長兼務)、2021年4月より総長。専門は行政学・公共政策学・地方自治。複数の自治体で情報公開条例・自治基本条例・議会基本条例などの制定を支援の他、情報公開審査会委員などを歴任。