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法政出身記者の眼

通信教育 学ぶ意欲に応える

 教育を専門に取材する部署「教育部」が編集局に発足して3年。これまで、様々な学校を訪ね、教育現場の今を伝えてきた。その中で痛感しているのが、病気や経済的な理由などで教育機会を失う人の問題だ。法政OBとして母校に何を望むかと問われれば、様々な世代や立場、境遇の人たちにチャンスを与える大学であってほしいと思う。

 市ヶ谷キャンパスでは午後9時40分まで授業が行われている。教室をのぞくと、会社帰りとおぼしきYシャツ姿の人や、白髪のお年寄りの姿もあり、年齢層の幅は広い。「スクーリング」と呼ばれる、通信教育部の学生向け授業だ。通信教育部はテキストによる独習が中心だが、一部科目はキャンパスで授業を受ける。最近は、インターネットで受講できる科目も増えてきた。

 入学の動機をきくと、「目指す職業に大卒資格が必要」「専門知識を得て仕事の幅を広げたい」「母子家庭なので、学費負担で母に迷惑をかけたくない」など、多様な答えが返ってきた。

 働きながら学ぶ人たちの受け皿となってきた法政の二部(夜間学部)は志願者の減少などで2004年度を最後に学生募集を停止した。今は、通信教育部が平日夜に行うスクーリングが、当時の二部と同じ機能を担っている。

 その通信教育部も1995年には2万人余の学生数を抱えていたが、現在は約6000人まで減少した。それでも藤沢利治・通信教育部長は「『学びたい』という人がいる以上、応えるのは大学の使命」と話す。

 札幌市在住の西村渚音(なおと)さん(23)は専門学校を卒業後、塾講師として働きながら、2013年10月に経済学部商業学科の3年次に編入学した。7月27日から市ヶ谷キャンパスで始まった夏期スクーリングにあわせて上京した。

 「会計士を目指しています。大学で専門知識をしっかり身に着けたい。働きながら学べて、学費が安いのも利点」と入学の動機を話す。

 単位取得のために提出するリポートは大変だそうだ。3回、提出し直してやっと合格したこともある。「あきらめずにがんばった分、理解が深まったように思います」と笑う。

 厳しい現実もある。通信教育部の卒業生は毎年200~300人。12年間在籍できることを差し引いても、卒業まで長い期間を要する学生は多いことは想像に難くない。「スクーリングで仲間をつくるのが、学習継続の鍵」と通教生は口をそろえる。

 経済協力開発機構(OECD)の調べでは、大学入学時に25歳以上だった学生の割合は、諸外国が2割を占める一方の日本は約2%と極めて低い。法政では今年度、通学課程の学生約2万7000人のうち、入学時に25歳以上だった学生はわずか97人だ。

 スクーリングが集中開催される1月と8月には、通教生のつどいが開かれ、仲間作りに大いに役立っているそうだ。通学課程の学部生・大学院生との交流も広がればいいと思う。入学動機も歩んできた人生もバラエティに富む通教生は、法政の隠れた財産。彼らとの出会いは、通学課程の学生たちにとっても大きな刺激となるはずだ。

7月27日から始まった夏期スクーリングでは、様々な世代の通信教育部生が熱心に授業をうけていた

伊藤史彦(1997年社会学部卒)
青森支局、北海道支社、社会部を経て2013年より教育部記者。学生時代は、英語研究会(ESS)の活動に打ち込んでいた。

2015年2月6日読売新聞朝刊掲載