研究

紛争(モメゴト)解決学入門

ーADR(訴訟によらない紛争解決)のススメー

遠山 信一郎(とおやま しんいちろう)/中央大学大学院法務研究科教授、第一東京弁護士会会員
専門分野 企業コンプライアンス、現代契約法、不法行為賠償法(交通事故・医療事故・原発事故等)、家事法、労働法、倒産処理法、金融法務、独占禁止法、個人情報保護法、裁判外紛争解決システム(ADR)、法経済学

第1 人生の二大ストレス

 我々の日常の生活においては、「病気」と「モメゴト」が二大ストレスといってよく、人生においては、他人とモメながら、都度その解決を図って、その人生を生き抜いていく場面も少なくありません。

図1「モメゴトマップ」改-1.png

第2 交渉 / ADR / 民事訴訟

 「病気」に対しては「医療」が、「モメゴト」に対しては究極的には「訴訟(Civil Procedure)」がその解決の任にあたりますが、日々生じる多種多様な「モメゴト」をすべて裁判所に持ち込むことは、すこぶる非現実的です。他方、モメゴト当事者間の「交渉(Negotiation)」による解決も、当事者間の交渉力格差などの様々な限界があります。
 そこで、我が国では、民事訴訟とは別物の、ADR(Alternative Dispute Resolution)という、便宜かつ有効な紛争解決システムが豊富に用意されてきています。しかしながら、あまり世間に知られていませんし、十分に活用されていない「モッタイナイ」社会状況にあるといえます。

図2「三段階モデル」.png

第3 ADRの定義から

 法務大臣による裁判外紛争解決手続の認証制度を定めた「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)」第1条では、裁判外紛争解決手続を、

(1)訴訟手続によらずに
(2)民事上の紛争の解決をしようとする
 紛争の当事者のため
(3)公正な第三者が関与して
(4)その解決を図る手続

と定義しています。
 そこで、解決手続に関与する「公正な第三者」の運営機関別に、裁判所(司法型ADR)、行政機関(行政型ADR)、弁護士会等民間団体(民間型ADR)と、大きく三つに分類することができます。
 さらに、「解決を図る手続」としては、「あっせん」「調停」「仲裁」等があります。

第4 ADRの歴史年表

 この三分類を横軸として、明治/大正/昭和(戦中・戦後)/平成/令和の時代を縦軸として、日本のADRの約150年に渡る歴史を、おおまかに整理をして年表化してみました。

年表改3.png

第5 紛争分野別ADRリスト

 民事上の紛争よろず一般を解決対象とするADR機関としては、弁護士会仲裁センター等がありますが、他にあまたあるADR機関は、それぞれ解決の対象とする紛争分野を有しています。
 紛争分野別にざっくりリスト化すると、次のようになります。

リスト改.png

第6 ADRの充実分野

 ADRの充実している特定分野の特徴ポイントとしては、「財務基盤(カネ)の充実」、「人材・研修システム(ヒト)の充実」に加えて、「ADR間競争/共生の充実」があげられます。
 その一例として、交通民事賠償分野の「ADR間競争/共生状態」をチャート図にしてみると、下図の通りで、利用者にとって、すこぶるコンビニエンスな状況といえます。

チャート図改.png


〈 参考文献 〉
1 遠山信一郎「裁判外紛争解決機関(ADR)総覧(中央ロージャーナル第7巻第3号)
2 日弁連ADRセンター双書2「交通事故の損害賠償とADR」(弘文堂2010年1月)
3 遠山信一郎「個別労働関係紛争解決手続総覧」(中央ロージャーナル第5巻第4号)
4 ADRデータブック(第一東京弁護士会2001年1月)


〈ChuoOnline 遠山信一郎 作品リスト〉
・企業価値向上型コンプライアンスのアルゴリズムを求めて
https://yab.yomiuri.co.jp/adv/chuo/research/20190328.html
・大人(オトナ)への階段 ―成年年齢(民法第4条)の引下げ問題を考える―
https://yab.yomiuri.co.jp/adv/chuo/research/20180705.html
・契約社会の歩き方 ―平成の民法(民法債権関係)大改正―
https://yab.yomiuri.co.jp/adv/chuo/research/20180308.html
・労働者の幸せ方程式 ―企業価値向上型コンプライアンスの視座から―
https://yab.yomiuri.co.jp/adv/chuo/research/20170608.html
・授業の風景 ―ロースクールとビジネススクール―
https://yab.yomiuri.co.jp/adv/chuo/education/20150115.html
・人生の二大基本法 ―家族法と労働法―
https://yab.yomiuri.co.jp/adv/chuo/opinion/20130318.html

遠山 信一郎(とおやま しんいちろう)/中央大学大学院法務研究科教授、第一東京弁護士会会員
専門分野 企業コンプライアンス、現代契約法、不法行為賠償法(交通事故・医療事故・原発事故等)、家事法、労働法、倒産処理法、金融法務、独占禁止法、個人情報保護法、裁判外紛争解決システム(ADR)、法経済学

1975年 中央大学法学部法律学科卒業
2004年 中央大学法科大学院特任教授
2014年より同大学同大学院教授
中央大学専門職大学院戦略経営研究科アドバイザリーボード委員

 主な公職として、文部科学省原子力損害賠償紛争審査会特別委員、国土交通省中央建設紛争審査会特別委員、第一東京弁護士会住宅紛争審査会紛争処理委員、最高裁判所民事調停委員、東京地方裁判所民事再生監督委員・個人再生委員、公益財団法人交通事故紛争処理センター理事、公益財団法人日弁連交通事故相談センター(元)副理事長、東京三弁護士会医療ADR仲裁人等を務める。
 主な著書・論文に、「くらしに役立つ独占禁止法」、「交通民事賠償の世界-その法理と実務-」、「個別労働関係紛争解決手続総覧」、「子どもの福祉と共同親権」、「JAコンプライアンス-不祥事防止態勢の作り方」、「企業価値向上型コンプライアンス態勢モデルの構築工程論(序説)」などがある。