Chuo Online

  • トップ
  • オピニオン
  • 研究
  • 教育
  • 人‐かお
  • RSS
  • ENGLISH

トップ>研究>企業価値向上型コンプライアンスのアルゴリズムを求めて

研究

遠山 信一郎

遠山 信一郎 【略歴

企業価値向上型コンプライアンスのアルゴリズムを求めて

遠山 信一郎/中央大学大学院法務研究科教授、第一東京弁護士会会員
専門分野 企業コンプライアンス、現代契約法、不法行為賠償法(交通事故・医療事故・原発事故等)、家事法、労働法、倒産処理法、金融法務、独占禁止法、個人情報保護法、裁判外紛争解決システム(ADR)、法経済学

本稿は、JSPS科研費15K03220の助成を受けたものです。(広報室)

第1 疲労型コンプライアンスから元気型コンプライアンスへ

 企業は、不祥事防止のためのコンプライアンス規制に疲労困憊気味である。

 現場で詳細なルールを作成し、会議で承認し、ルーティンワークとして書類や議事録を残す作業をし、さらに書類が整っているかチェックしたり、コンプライアンスミーティングを義務づけてみたり・・・。

 マニュアルの重層化や重層的モニタリングなど、手続のための諸手続が増殖している企業現場でのコンプライアンス疲れ(やらされ疲れ)は、否めない現実といえる。

 そこで、この「疲労型コンプライアンス」を克服し、企業現場に元気が出る「企業価値向上型コンプライアンス態勢」のモデルの構築を目指して、2015年4月1日、筆者を研究代表者とした科研費研究団体が発足し、研究活動を開始した。

第2 企業価値向上型コンプライアンスの定義(試論)

1.企業コンプライアンスの有様については、「リスク管理型」と「企業価値向上型」のふたつのアプローチに分けて考察することができる。

 「リスク管理型」は企業が法令等を遵守して企業犯罪などの企業不祥事を防止することを主目的とするもの、「企業価値向上型」はリスク管理型の主目的を超えて(beyond)、企業がその価値の向上を目的として、企業に対する様々な利害関係者の合理的要請にこたえる企業行動をとるアプローチをいう。

 このふたつのアプローチは、対立関係にあるものではなく、企業コンプライアンスにおける歴史的展開・発展関係にあるものといえる。

2.スタートは、コンプライアンス=法令遵守。

 「法令」とは、法律・政令・規則・通達・条例などのいわゆる「ハードロー」である。

 社会の状況、意識の進化・発展にともない、この遵守対象の「法令」が「法令等」に拡大していく。「法令等」には社内ルール・契約・約款・企業倫理などの、いわゆる「ソフトロー」が広く包含されるに至る。

 このような「ハードロー及びソフトロー」を守ることで、企業犯罪などの企業不祥事を防止し、企業の損害・損失を回避(企業価値毀損の回避)することを主目的とする経営管理システムを、「リスク管理型コンプライアンス」と呼ぶことにする。

 さらに、企業の利害関係者の多次元的な合理的期待・要請(求める企業価値)にバランス良く対応することで、企業の総体的価値の向上を図る経営管理システムを、「企業価値向上型コンプライアンス」と呼ぶことにする。

(クリックすると拡大します)

第3 コンプライアンスの進化モデル(仮説)

 コンプライアンスの進化モデルを、〈第1ステージ〉コドモのコンプライアンス→〈第2ステージ〉オトナのコンプライアンス→〈第3ステージ〉達人のコンプライアンスと三段階と仮説してみる。

 これは、企業が、どの段階(コンプライアンスの立ち位置)にいるのかを確認するための「おおよその目安」として、利用できる。

第1ステージ コドモのコンプライアンス
-コンプライアンス違反の責任と制裁

 役職員は、コンプライアンスという土俵を削ってしまうと、有責(ペナルティー)の世界に身を落としてしまうことになる。コンプライアンス違反の「四重苦(刑事的制裁・行政的制裁・民事的制裁・社会的制裁)」といわれるものである。

 役職員においては、この四重苦を「他人事」とは思わずに、日々緊張感を持ち続けることが、不祥事から遠ざかる第一歩である。

 制裁を担保手段とした他律的コンプライアンスなので、「コドモのコンプライアンス」と名づけている。

第2ステージ オトナのコンプライアンス
-リスクの洗い出しとリスク管理システムの構築・実行

 コンプライアンス態勢の実践は、現場でさまざまな不祥事リスクを発見し、現場で日々解決していくことにほかならない。

 そのためにはまず、企業内のさまざまな不祥事リスクを役職員が一丸となって冷静かつ詳細に洗い出すことが出発点となる。

 次に、この洗い出された不祥事リスクに対する有効かつ効率的な管理システムを構築し、実行することになる。

 これは、言うはたやすいが、困難な作業となるので、役員のリーダーシップの腕の見せ所といえる。

 いわゆる「内部統制システム構築」と同義であり、自律性が高まるので、「オトナのコンプライアンス」と名づけている。

第3ステージ 達人のコンプライアンス
-企業ヴィジョンの策定・実行による企業価値向上と不祥事リスクの解消の両立

 コンプライアンスという事柄には、「費用がかかる」「利益に結びつかない」「手間がかかる」「仕事がやりづらくなる」「つまらない」など、マイナスイメージがつきまとう。

 しかし、真のコンプライアンス態勢は、職場の風通しをよくして活き活きとした職場環境(対話環境)を作り出し、生産性のある事業活動を生み出す「無形資産」なのである。

 この「無形資産」を作り出すためには、経営者は企業内外に明確な「経営ヴィジョン」を示し、企業内外に浸透させなければならない。

 これが「達人のコンプライアンス」である。

第4 企業価値向上型コンプライアンス態勢デザインフレーム(図説)

 デザインフレームの支柱としては、「行動経済学と法律学と経営学の共働」と「対話型コンプライアンスメソッド」の二本を置いている。

 これは、企業活動は、人間の個人及び集団活動であり、コンプライアンス態勢は、そのすべての人間行動への働きかけであるので、「行動経済学(Behavioral Economics)」の知見と企業利害関係者間の人間関係の根幹である「対話」が不可欠であるからである。

第5 ビッグビジネスとスモールビジネス

  1.  ビッグビジネス(大企業)には、コンプライアンス態勢作りのための資金も人手(内部統制部署・法務部・インハウスロイヤー等)も十分に有しているが、スモールビジネス(中小零細企業)においては、十分にはないし、まったくない企業もありうる。

  2.  スモールビジネスでは、所有と経営が一致している実態が多くみられ、「経営者=所有者」の経営感覚・経営哲学がビッグビジネスより色濃く企業経営管理態勢に反映するため、「システム」ガバナンスより「ヒト」ガバナンスになりやすい。

     ビッグビジネスを顧客としたコンプライアンス態勢作りの支援サービス市場(監査法人・コンサル会社・弁護士・公認会計士・税理士等が供給者側)が成立しているが、スモールビジネスでは今後の市場の充実発展が望まれるところである。

  3.  ビッグビジネスには、行政庁や証券取引所等の公的なモニタリング・指導にさらされる機会が多いが、スモールビジネスではその機会に乏しい。

  4.  ビッグビジネスで、不祥事による経営破綻リスクが生じた場合、「大きいところをつぶす社会的悪影響」を回避するため、社会的救済が図られやすいが、スモールビジネスではそのまま倒産となる可能性が高い。

  5.  しかしながら、経営者の性格がそのまま企業風土・文化になりやすく、資金も人手も十分にないスモールビジネスのコンプライアンス態勢作りは、わが国の会社の圧倒的大多数を占める中小零細企業の存続・発展に関わる、きわめて重要な課題である。

     そこでは、弁護士(トータルコンプライアンス)・税理士(TAXコンプライアンス)・社会保険労務士(労務コンプライアンス)等の身近な士業等のプロフェッション活用が有用であろう。

第6 第三者委員会報告書の「たら/れば」分析の効用

  1.  社会的関心の対象となるような企業不祥事案件については、必ずといっていいくらい、社外メンバーで構成される「第三者委員会」が設置されて、不祥事の「背景」「原因」「対策」「責任」等について調査・分析され、「報告書」が公表される。

  2.  そのうち「原因」究明がファーストマターであるところ、分析道具として、「クレッシーの三角形」(米国インディアナ大学刑事学教授Donald R Cressey提唱)が有名である。

     そこでは、ホワイト・カラー犯罪の原因要素を、以下の通り、三分類している。
     (1) 不祥事を起こさなければならないようなプレッシャー(pressure)
     (2) そのような不祥事を起こしやすい環境(opportunity)
     (3) 不祥事を行ったことに対する正当化事由(rationalization)
     筆者は、この三角形を底面として、その頂点に
     (4) 踏みとどまれない行為者人格(personality)
    を置いて、「トオヤマの三角錐」を提唱したいと思っている(笑)。

  3.  特に、同業他社や類似業界他社は、この報告書を教材として、社内ワークショップ等で「こうしていたら」「こうしていれば」と、検討・議論をすることで「他山の石」効果を得られることが大いに期待できる。

第7 企業価値向上型コンプライアンスのアルゴリズムを求めて

1.まず形(カタチ)を整える!

 前記デザインフレームにおける「IDEA BOX-G」と「IDEA BOX-M」の中身は、市販の文献やネット等のデータとしてあふれるばかりに存在するので、自社の個性(規模・業態・業界等)に適合する、若しくは適合しそうなIDEAを慎重に選択する。

2.形(カタチ)に実(ジツ)を入れる!

 企業は、その企業価値向上の目的を達成するため共働する人間の集まりと考えると、その実体は、企業をめぐる利害関係者間相互の「人間関係ネット」といえる。

 そして、この「人間関係ネット」は、その利害関係者間の「充実した対話」や「円滑かつ正確なコミュニケーション」を通して、実質的に「ワーク」するものである。

 大澤恒夫教授の提唱する「経営トップが旗を振り社内の若手も巻き込んで徹底した激論(対話)を重ねることで、企業の文化が変わり、社員一人ひとりがおかしいと気づく独自の試行と率直に異論を唱える勇気をもって職務に当たる風土が醸成」「経営トップは常に先頭に立って、その企業の物語を社内の従業者はもちろん、社会の広範囲のステークホルダーに向かって語り掛け、対話し更新し続けていく」ことが、ベースプラクティスなのである。

参考文献
  1. 遠山 信一郎「企業価値向上型コンプライアンス態勢モデルの構築工程論(序説)」法学新報第122巻 9・10号
  2. 遠山 信一郎「企業価値向上型コンプライアンスの世界へようこそ!」ビジネス法務 2017年2月号
  3. 柏木 昇「製品検査データ改竄と日本企業のコンプライアンス」中央ロージャーナル第15巻3号
  4. 柏木 昇「製品検査データ改竄と日本企業のコンプライアンス 補論―スバル事件―」中央ロージャーナル第15巻4号
  5. 大澤 恒夫「コンプライアンスの対話的アプローチと企業の価値」Chuo Online
遠山 信一郎(とおやま・しんいちろう)/中央大学大学院法務研究科教授、第一東京弁護士会会員
専門分野 企業コンプライアンス、現代契約法、不法行為賠償法(交通事故・医療事故・原発事故等)、家事法、労働法、倒産処理法、金融法務、独占禁止法、個人情報保護法、裁判外紛争解決システム(ADR)、法経済学
1975年中央大学法学部法律学科卒業、2004年中央大学法科大学院特任教授、2014年より同大学同大学院教授、現在に至る。
中央大学ビジネススクールにおいて「現代契約法」講座を担当している。
主な公職として、文部科学省原子力損害賠償紛争審査会特別委員、国土交通省中央建設紛争審査会特別委員、最高裁判所民事調停委員、東京地方裁判所民事再生監督委員・個人再生委員、公益財団法人交通事故紛争処理センター理事、東京三弁護士会医療ADR仲裁人等を務める。
科学研究費助成事業(JSPS科研費15K03220)の研究代表者である。
主な著書・論文に、「くらしに役立つ独占禁止法」、「交通民事賠償の世界-その法理と実務-」、「個別労働関係紛争解決手続総覧」、「子どもの福祉と共同親権」、「JAコンプライアンス-不祥事防止態勢の作り方」、「企業価値向上型コンプライアンス態勢モデルの構築工程論(序説)」などがある。
なお、月刊JA(全国農業協同組合中央会)で、「契約社会の歩き方」シリーズを連載中。現代契約法入門<2015年>、現代契約法(実践編)-契約書作成のテクニック<2016年>、現代契約法-労働契約<2017年>、現代契約法-民法(債務関係)改正の要点<2018年>。

[広告]企画・制作 読売新聞社広告局