遠山 信一郎 【略歴】
遠山 信一郎/中央大学法科大学院特任教授
専門分野 労働法、家事法、交通民事賠償法、裁判外紛争解決システム(ADR)、倒産処理法、企業コンプライアンス、金融法務、独占禁止法、個人情報保護法
私のプロフェッサー・ロイヤー・研究者ひとり三役の共通テーマは、一貫して以下の4種となっていました。
(1) 家族法
(2) 労働法
(3) 交通民事賠償法
(4) ADR(訴訟によらない紛争解決手続)
人は、その人生の大半を家庭と職場で、家庭人・職業人として過ごします。
ゆえに、家族関係を規律する「家族法」と労働関係を規律する「労働法」は人生の二大基本法と位置づけることができます。
さらに、人々は、家庭・職場などを起点・終点・通過点として、さまざまな交通手段で移動を繰り返し、その途中で、交通事故に遭遇するリスクを負い、ある割合でこのリスクが実現してしまいます。
そして、家事紛争・労働関係紛争・交通事故民事賠償紛争については、その解決システムとして「ADR」がとてもよく発達しています。
この分野の私の業績としては、当代一流の家族法学者・実務家を一堂に会しての座談会「親権法改正に向けて-論点整理と法改正の展望」(「子どもの福祉と共同親権」日本加除出版・平成19年)の企画コーディネイトがあります。
日本の民法では、離婚時に未成年子がいる場合、共同親権者であった父母のどちらかの単独親権となります。このような法制は、比較法的には少数派なのですが、そのことが「泥沼化する子の奪い合い」とか「子と非監護親との面会交流の断絶」とか「子の最善の利益」を損なうおそれがあると古くから問題提起されており、現在も熱く議論されている家事法制上のビックイシューなのです。
私のロースクールにおける「リーガルクリニック(個別労働紛争)」授業と、ビジネススクール「現代契約法」授業においては、院生全員で「我が国の雇用社会の病状・病根・治療方法」について即日レポート・各自プレゼンテーション・ディスカッションを展開しています。
日本の人口のおよそ半分が労働者で、賃金をその生計の糧としています。
その職場で、「ハラスメント」「メンタル不調」「過労死・過労自殺」「労・労格差」など、さまざまな病状が発症しています。
労働者が、すべからず健康にイキイキ働ける雇用社会を実現するための労働法制をどのように設計し、どのように適用するのかを、リアルに学修するための能動的参加型授業といえるでしょう。
かつて「交通戦争」といわれた時代に比べれば、交通事故による死者は、近時、減少傾向にはあります。
しかし、終戦以降の交通事故死傷者数を積算していくと、交通事故が我が国最大の人身災害であることは今もまったく変わりはありません。
このような状況のもと、私が副理事長を務めている公益財団法人日弁連交通事故相談センターでは、自動車事故における適正な交通民事賠償の実現を目ざして、①弁護士による無料法律相談(面接及び電話)事業②弁護士による示談あっ旋事業(無料)を全国規模で展開しています。
あわせて、交通民事賠償法の「理論と実務」の研究・研修活動をしており、その研究成果として「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」・東京支部編集)「交通事故損害額算定基準」(通称「青本」・本部編集)を発刊しています。
この「赤い本」「青本」は、いわゆる「ソフトロー」として、交通事故損害賠償法務での標準ルールとして、賠償実務界で広く普及しています。
公益財団法人のこれらの事業は、すべての市民にとって有益かつお得なリーガルサービスです。ぜひ家庭においても、学校においても、職場においても、積極的に利用されるといいでしょう。利用の仕方は、Webサイトに詳しくガイドされています。
不運にも紛争の当事者になったとき、「訴訟による解決」は避けたいと思うのが多くの市民の本音だと思います。
そこで、ADR(Alternative Disputes Resolution)が、近時、脚光を浴びています。
家族法分野でいえば家庭裁判所の「家事調停」(司法型ADR)、労働法分野でいえば「厚生労働省労働局紛争調整委員会のあっせん」(行政型ADR)、交通民事賠償法分野でいえば先ほど紹介した日弁連交通事故相談センターの「示談あっ旋」(弁護士会型ADR)などがその代表例です。
文部科学省原子力損害賠償紛争解決審査会では、福島原発事故の被災者と東京電力との間の賠償問題の迅速かつ適切な解決に向けて鋭意「仲介」(行政型ADR)に取り組んでいます。
さまざまなADRが、さまざまな紛争分野で、現在開店営業中です。
ちなみに、私のロースクールにおける「リーガルクリニック(ADR)」授業の基本テキスト「裁判外紛争解決機関(ADR)総覧」(中央ロージャーナル)には、「一読すると“ADRハカセ”になれる!」という怪し気な効能を付言しています…(笑)。