遠山 信一郎【略歴】
-成年年齢(民法第4条)の引下げ問題を考える-
遠山 信一郎/中央大学大学院法務研究科教授、第一東京弁護士会会員
専門分野 企業コンプライアンス、現代契約法、不法行為賠償法(交通事故・医療事故・原発事故等)、家事法、労働法、倒産処理法、金融法務、独占禁止法、個人情報保護法、裁判外紛争解決システム(ADR)、法経済学
平成30年6月7日第196回国会参議院法務委員会(石川博崇委員長)において、民法の一部を改正する法律案(閣法第55号)について、参考人として意見を求められたので、陳述してきました。
その骨子をお伝えしたいと思います。
「成年年齢の引下げ」は、「市民社会の体幹」である「市民社会のフルメンバーシップ層」すなわち「自立・自律した家庭人・消費者・労働者・事業者層」を資格的に拡大することになります。
他方、高齢者年齢引上げも、同様の効果を図るものといえます。
我が国で進行する少子高齢化に伴い、人口構造が、ピラミッド型から棺(ひつぎ)型へ変型する状況下では、「社会の担い手増強のためのやむを得ない政策」といえる面があります。
さらに、真に「市民社会の体幹」を頑健化(実質化)するためには、未成熟成年(成年≠成熟)が十分な自立力・自律力をつけるための支援施策は必要条件であり、例えば、若年者の自立力・自律力(フルメンバーシップ力)を育成する高度教育機会均等システムの構築及び環境整備など、エビデンスに基づく多様な政策立案(Evidence Based Policy Making : EBPM)が、我が国の必須課題といえます。
1 「成年年齢引下げ」による「子ども」に対する悪影響を、下図の通り仮説してみます。
このスパイラル仮説は、種々の統計資料から、「因果関係」を断定することは困難であっても、「相関関係」は十分に認められるものといえます。
2 「子どもの貧困」の大きな要因としては、「ひとり親家庭(主として母子家庭)」の困窮があるといわれています。「ひとり親家庭の支援について」は、「子育て・生活支援策」「就業支援策」「養育費の確保策」「経済的支援策」を四本柱とした国の総合施策が推進中です。
「養育費の確保策」は、その支柱の一本と位置付けられているわけです。
3 離婚の際の養育費については、「取り決めていない!」「取り決めても低額!」「取り決めても支払わない!」などの問題が、古くから未解決・山積み状態であるところ、さらに、「成年年齢引下げ」には、「養育費支払終期の繰り上げリスク」があり、ただでさえ脆弱な養育費が、さらに少なくなることが危惧されるところなのです。
子どもは、親を選ぶことはできません。ゆえに、どんな環境に生まれたとしても、十分な教育を受ける権利は等しく保障されなければならないので、「親に閉ざされた進学の道」を、国が開くことが、強く望まれるわけです。
そこで、このリスクを回避する実務的・制度的工夫が望まれるところ、家庭の守護神たる家庭裁判所(裁判官・調停委員・調査官等)の組織拡充及び機能拡大、国が最低金額を定めて履行を強制する制度設計などの養育費確保のための制度的拡充など、「法は家庭に入らず」時代から「家庭にも法の支配を」時代へのパラダイムシフトを進める必要があるといえます。
参議院法務委員会は、「成年年齢引下げ」に伴い懸念される様々な弊害に対する措置のため、詳細な内容の附帯決議をしました。
その中で、私の意見陳述に関わるものは、以下の通りです。
18歳、19歳の若年者の自立を支援する観点から、本法施行までに、以下の事項に留意した必要な措置を講ずること。
大人(オトナ)への階段を、何段目からとするのかは、教育、児童福祉、消費者問題などと直結する、極めて多次元的課題です。
法律案は、平成30年6月13日参議院本会議で可決されました。
民法成年年齢を18歳と決めた以上、今以上のさらなる青少年の健全育成が、国民一人ひとり(=社会全体)が問題意識をもって真摯に取り組むべき「ミッション・ポッシブル(Mission Possible)」といえます。