Society5.0で変わるあなたの暮らしと仕事 2017年12月2日(日)アクロス福岡

2018年1月31日

パネルディスカッション

新しい医療インフラの創造へ

園田 愛氏(株式会社インテグリティ・ヘルスケア代表取締役社長) Society5.0 園田氏資料

園田  私からは医療、健康分野でのSociety5.0をお話させていただきます。私たちは健康先進国日本の新しい医療システムを創造するというビジョンで活動しています。私たちが考える健康先進国は、自らが健やかな心身であることを大切にする社会、病を抱えても歳を重ねても安心して暮らせる社会インフラがあり、それが人々を支える社会です。
 そうした社会に向けて三つの試みをしてきました。一つめが在宅医療です。日本では高齢の方々の医療サポートとして在宅医療の推進に非常に力を入れていますが、医師が24時間365日何かあったら駆け付けるという医療は、大変な労力です。しかし、患者さんやご家族が自宅で不安を抱えていながら過ごされていることも多いと思います。医師に負担がかかりすぎず、自宅にいる患者さんやご家族が安心できる医療体制を、IT・テクノロジーを活用して追究しています。
 もうひとつが災害復興医療です。2011月の東日本大震災では、医療機関の8割が被災し、ほとんどの機能が止まってしまいました。私たちは診療所を開設し、大規模な生活復興事業を行いました。情報やモノが途絶えてしまった地域で、医療や地域コミュニティをいかにつないでいくか、ここでもテクノロジーを活用した活動を行ってきました。

 これらの経験からわかったことは、医療を必要としている方々に必要な医療を届けるために、また、患者自身がしっかり治療に向き合い、能動的に治療に参画するために、ITの力が役立つということです。医療を受けている人が日々の生活の中で自分がどのような状態であるかを知り、そして医療提供側が適時きちんとそれを知る仕組みを構築し、患者さんが自分のことを後回しにしたり、自身の体や変化に無関心でいるような状況を変えていきたいと考えました。
 そこで私たちは今、さらなる新しい医療インフラとしてオンライン診療に取り組んでいます。髙島市長がお話しされた「福岡100」の事業のひとつとして、福岡市、福岡市医師会とともに1年間活動してきました。
 今、地域医療の現場で起きている課題を3つご紹介します。一つは、患者さんが何かいつもと違っておかしいなと思ってもそれが重大な変化の兆候だと思わない、そもそもおかしいと気が付かずに重症化してしまうこともよくあります。また、もし気がついていたとしても、自分の様子を医師に限られた時間で伝えることはなかなか難しい。かかりつけ医にひと月に一度かかっている方が、来院時に「お変わりありませんでしたか」と聞かれても「まぁ大丈夫です」で終わってしまうということは良くあることです。本当は、この一か月間に色々なことがあったかも知れないし、心配なこともあったかも知れない。しかし、それを患者が医師に治療に必要な情報として的確に伝えるというのは、本当に難しいと感じています。三つめに通院からの離脱です。虚弱化された高齢の方は、徐々に一人で通院することが難しくなります。そのため、例えば娘さんや息子さんが月に1回仕事を休んで通院の付き添いをするわけですが、仕事が忙しくてなかなか休めなかった場合、薬がきれてしまっているのに通院できず、薬を飲めなかったという状況が起きてしまいます。また、忙しいビジネスパーソンが「血圧が高いぐらいでは仕事を休めないよ」と言い、通院せずに服薬が中断してしまうとか、子育て中のお母さんが、体調が悪くても自分のことは後回しにするとか、そういうことで医療機関にかからず、重症化することがたくさん起きています。

 私たちは、まず皆さんが自分の状態や症状の変化に関心を持ち、そして変化に気が付くこと、それを日頃からかかりつけ医に伝えることが出来ることを大事に考えています。そして、さまざまな事情で通院が難しい方でも、かかりつけ医の診察を受けることができること、これにより治療が継続する、こうした社会システムを構築することを目指しています。
 そのために開発したのが、オンライン診療システム「YaDoc(ヤードック)」です。これは、患者さんはスマートフォンのアプリ、医師側はPCでのウェブサービスで、非常に簡単に導入していただけるのが特徴です。まず、患者さんは自分のことを良く知りかかりつけ医に伝えられるよう、疾患ごとに設定されるバイタルサインや生活の中での様々な情報、例えば水分量や活動量などを、スマートフォンから日々モニタリングすることが可能です。また、オンライン問診では、疾患ごとに設定された問診項目をタブレットで表示、患者さんが予め答えることにより、医師が診療前にしっかりと患者さんの症状を把握することが可能となります。医師側は、これらのデータを一元的に管理できてグラフ化して経時的に見ることが出来ます。これらの情報を集積し、もし症状に変化があることがわかれば、スマートフォンを通じて自宅からでも先生に診察をしてもらうことが可能となります。
 この仕組みを地域のインフラとして各家庭に置くことで、かかりつけ医と患者さんの双方向のコミュニケーション、よりきめ細やかな医療ケアを実現していきたいと考えています。患者さんが変化を実感し治療に前向きになれるサポートをしたいですし、患者さんが伝えた情報が集計されて、医師と一緒にデータを見ながら、治療を続けられる。そして高齢の方も忙しいビジネスパーソンも無理なく治療に参加できるような、そんな社会になると良いなと思います。

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