現在、都市が抱える課題は「環境問題」「社会インフラの老朽化」「エネルギー問題」「高齢化」といったものがある。
これらを解決することは現代社会にとっての難問だが、ICTの利活用は課題解決の糸口となり始めている。
読売ICTフォーラムでは、事例を交え、ICTが切り拓く課題解決型の未来、
「スマートワールド」の実現について考えていく。
いとう まい子氏 女優
杉江 理氏 WHILL代表取締役兼CEO
スプツニ子!氏 アーティスト
伊藤 博之氏 クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役
司会:郡司 恭子(日本テレビアナウンサー)
いとうまい子(いとう・まいこ)
女優
ミスマガジンコンテストの初代グランプリ受賞後、アイドル歌手に。ドラマや映画で俳優業もこなす一方、コメンテーターとしても活躍。高齢社会に役立つ医療・福祉ロボットの研究に携わる。
本日はいろいろな事例を紹介しながら、「ICTが切り拓く課題解決型の未来」について考えてまいります。まずパネリストの方々に、それぞれの取り組みについてうかがいたいと思います。いとうまい子さんは、女優・タレントとしての芸能活動の一方で早稲田大学に入学されて、介護予防ロボットについての研究をされています。
ロコモティブシンドロームという言葉を聞いたことがあるかと思います。骨や関節、筋肉などの機能が低下して、立つ、歩くといったことが難しくなり、ゆくゆくは寝たきりになるかもしれない状態のことです。今、高齢者の方に非常に寝たきりが多くて、その期間が男性では約9年、女性では約12~13年といわれています。
長生きしても寝たきりでは楽しくないですよね。私の父ががんで寝たきりになって病院にお見舞いに行った時にこんなことがありました。父がトイレに連れて行ってもらっている間にベッドに横になってみたんです。そうすると目の前に無機質な天井が広がるだけで、父はどれくらいここで全然動けない時間を過ごすのだろうと思って切なくなったんです。
そんなこともあって、自力で歩けること、寝たきり予防の重要性というものを考えるようになりました。日本整形外科学会でも、そのためにスクワットや片足立ちを推奨していますが、高齢者の方になかなかやってもらえません。そこでまずロコモコールを思いつきました。お医者さんや理学療法士さんが患者さんに電話をして一緒にスクワットをするというものです。ただ電話をするのに、けっこうな時間と労力がいるということで、ならば、それをロボットにやってもらえばいいのではないかと考えました。こうして開発したのが介護予防ロボット「ロコピョン」です。
名前はロコモティブシンドロームの「ロコ」と、足腰が丈夫になるようにとの思いで、ウサギのピョンピョンから「ピョン」を取って付けました。自宅に置いておくと、朝昼晩決めた時間に3回呼び出して、一緒にスクワットをしてくれます。来るまでずっと呼び続けるので、今日は疲れているからやりたくないと思っても駄目なんです。スクワットが終わると、離れて暮らす家族やお医者さん、自治体など、決められたところにメールが届くようになっているので、安否確認にもつながります。
杉江さんは「すべての人の移動を楽しくスマートにする」というコンセプトのもと、次世代型電動車いす、WHILL(ウィル)を製造されています。
1人乗りの乗り物、移動体とも呼んでいます。独自に開発した特殊な形状の前輪により、横に動いたり、その場で回転することもできます。コンピューターのマウスみたいに誰でも直感的に動けるような仕組みにしています。三つに分解して車に積むこともできます。
今日はWHILLをステージ上に持ってきていただいているので、試乗させていただこうと思います。(実際に試乗して)確かにコンピューターのカーソルを動かすような軽いタッチで操作できます。車いすというより、ちょっと高級なソファに腰掛けているようなフィット感があって、振動もほとんど感じませんね。
日本、北米、欧州でレンタルおよび販売をしています。また、WHILL МaaSという自動運転サービスも開発しています。腕の部分にカメラを付けるのですが、歩道でも室内でも走れて、室内は建物のセキュリティーシステムなどにつながって、障害物にもぶつからないように自動停止します。今、空港で手動車いすを押して移動をサポートするサービスがありますが、オペレーションコストが増大しています。それを1人で自由にどこでも行けるようにしたい。やがてはe-Paletteのようなトヨタの自動運転などにもつながっていくだろうと思います。
WHILL МaaSで目指しているのは、1キロ圏内、室内外の移動のインフラストラクチャーになることです。電車やタクシー、バスは5キロ、10キロ圏内を移動しますが、その後、歩道の1キロ圏内の移動は、例えばMоbikeや自転車、電動キックボードなどがありますが、健常者しか乗れない。シニアの方や歩行困難な方が安全に乗れるものがないわけです。このギャップを埋めたいと思っています。
今、海外の空港、オランダのスキポール、ロンドンのヒースロー、ニューヨークのラガーディアで、2020年までの実用化に向けた開発を進めていて、今後さらにコンベンションセンターやテーマパーク、ショッピングセンターなどでも使ってもらえるようにしたいと考えています。日本をはじめ先進国はどこも高齢化社会で、歩道移動のハードやサービスといったニーズは広がっていくはずです。そういったところでグローバルに活躍できるように、ユーザーに寄り添ってやっていきたいなと思っています。