現在、都市が抱える課題は「環境問題」「社会インフラの老朽化」「エネルギー問題」「高齢化」といったものがある。
これらを解決することは現代社会にとっての難問だが、ICTの利活用は課題解決の糸口となり始めている。
読売ICTフォーラムでは、事例を交え、ICTが切り拓く課題解決型の未来、
「スマートワールド」の実現について考えていく。
いとう まい子氏 女優
杉江 理氏 WHILL代表取締役兼CEO
スプツニ子!氏 アーティスト
伊藤 博之氏 クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役
司会:郡司 恭子(日本テレビアナウンサー)
杉江 理(すぎえ・さとし)
WHILL代表取締役兼CEO
日産自動車開発本部を経て、中国で日本語教師に従事。2010年にWHILLの開発プロジェクトを始め、12年に起業。元世界経済フォーラム(ダボス会議)GSC30歳以下日本代表。
皆さんの課題や目標についてうかがいたいと思います。
ロコピョンについていうと、機械なので、どうしても壊れてしまうのが大きな課題です。将来的に初音ミク的なホログラフィーのロコピョンができたら壊れずに、ずっと活動してくれていいのですが。社会的なことでいえば、病気になったり足が痛くなったりした時に、病院に行けば治ると思っている方がいると思いますが、筋力に関しては、薄皮を剝がすように落ちていきます。今、小学生でもロコモティブシンドロームが広がっていますが、何より予防が大切ですし、多くの方にロコモティブシンドロームについて知ってもらいたい。そのためのPRをもっとしていきたいですね。あと、今ロコピョンの第2弾を開発中ですが、それが広く浸透して、みなさんの予防のお役に立てばと思います。
僕は概念を変えるということが重要ではないかと思っています。WHILLは今、たまたま電動車いすといわれています。「電動車いす」という言葉を聞いた時に思い浮かぶイメージがあると思いますが、そこで敬遠されてしまうとしたらもったいない話で、そのために1人乗りの車、1人乗りの安全な移動体というイメージを広く浸透させたいと思っています。WHILLによって、多くの方の行動範囲が広がることが何より重要ですし、QOLの向上につながることでもあると考えています。また、いろいろな使い方があっていいと思っていて、例えば、障害などで立つことができないので毎日利用するという方がいる一方、外出先で疲れたから一キロ圏内だけ使うという方がいていいわけです。
私は日本に感じる課題をお話したいと思います。ある有名なテクノロジーの未来を考える日本のイベントに参加した時のことです。海外のカンファレンスだと、そういう場合、必ず多様な視点を取り入れて議論しますが、そのイベントでは参加者51人中、48人が日本人の男性でした。人口の半分は女性ですし、日本はもっと外国人やマイノリティーの考えていることを取り入れるべきではないでしょうか。そういう聞こえない声を汲み上げることがイノベーションにつながるとも思うので、もったいないと感じました。
うまくいっていた昭和の時代のシステムと猿山的ヒエラルキーを維持したままの日本企業は、何か沈み行くタイタニック号のようにも見えてきます。また、タイタニック号に乗らずに自分で船を出す若い子たち、ベンチャーやスタートアップする子たちがもっと日本で増えたらいいのにとも思いますが、中国やアジアの勢いと比べると見劣りする印象があります。「タイタニック号をひっくり返しちゃおう」という感じで、若い人はどんどん挑戦するべきだと思います。
いい流れですね。私もタイタニック号をひっくり返そうという思いで、閉塞的な空気感をぶち壊そうとしています。うまくいっているシステムは沈むまで気づかない、沈むまでうまくやり過ごそうとがんばるので、そこを変えるのは難しいことです。歴史が浅い北海道は、東京などに比べると新しいことにチャレンジしやすいのではないかと思いますが、それでも困難はあります。AIやバイオなどのテクノロジーを活用して、街をあげて取り組めば新しいことができると思っていますが、自治体の偉い方に説明しても、なかなか理解してもらえないことがあります。
ICTの変化は速いので、これから5年後には日本の未来は想像以上に革新がもたらされているかもしれません。スプツニ子!さんは5年後、どのような未来になってほしいですか。
私は「良い未来」という言葉は危険なワードでもあると思っています。シリコンバレーなどで、もっと良い未来を(Let′s make this wоrld a better place)というフレーズをよく聞きますが、それはシリコンバレー的環境での良い未来のことですよね。良い未来は一つじゃない、私にとっての良い未来とトランプ大統領にとっての良い未来、中国政府、LGBT、イスラム原理主義者、みんな違う良い未来を思い描いているはずです。では、私の個人的な良い未来は何かというと、「良い未来」の多様化です。様々な未来のオプションが並列で語られていく中で、それぞれの個人が良い未来を選びとっていけるような未来です。
AIやバイオなどのテクノロジーと倫理についていうと、アメリカ国内でもシリコンバレーと中西部では分裂しています。地球上ではもっと多くの分裂があり、何か一つのものを強制することはできません。ならば、どうやって共存していくかを考えたほうがいいのかなと思います。かつてインターネットが世界平和をもたらす、希望にみちたテクノロジーと思われていた時代があった。インターネットはノーベル平和賞にノミネートされていたぐらいです。ところが今、それで様々な人がつながって仲良くなるかわりに、自分の知りたい情報だけ知って、話したい人とだけ話している。フェイクニュースやヘイトスピーチも信じて拡散させている。仲良くなる以前に、インターネットは憎悪やヘイト、分断を生み出してしまっているのではないか。
一つの良い未来に進むことより、多様な人が住むこの地球でいかに共存して生きていくかを、もっとテクノロジーの人に考えてほしいと思います。論文になるようなタイプの研究ではないので研究者もあまりやらないし、お金になるようなタイプの研究でもないので企業もあまりやらない。だけど、誰かがやらなくてはいけないことだと思います。
日本の5年後、僕はロボットが牽引するのではないかと思っています。人材が不足している介護の現場でも、外国人労働者は日本語での試験が壁になっていて、いとうさんが開発しているようなロボットは重要になってくるはずです。日本は世界でも有数の高齢化社会ですから、高齢化社会に対するテクノロジーは自ずと伸びるはずです。それを海外に輸出することもできると思うので、そのスキームをつくることも大切になってくるでしょう。
ロボットが重要というのは共感します。高齢化社会で日本の人口が減っていて、政府は人口を増やさないといけないと主張しますが、もはや人がいなくても幸せということを目指すフェーズになっています。そんな中、ロボットを活用すれば、労働力としての人はそれほどいらないでしょう。