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読売ICTフォーラム2019
~ICTによる「Smart Worldの実現」~

 現在、都市が抱える課題は「環境問題」「社会インフラの老朽化」「エネルギー問題」「高齢化」といったものがある。 これらを解決することは現代社会にとっての難問だが、ICTの利活用は課題解決の糸口となり始めている。
 読売ICTフォーラムでは、事例を交え、ICTが切り拓く課題解決型の未来、 「スマートワールド」の実現について考えていく。

採録記事掲載中
2019.3.27(水)
よみうり大手町ホール

第1部:基調講演

Smart Worldの実現に向けて

澤田 純 氏 NTT代表取締役社長

澤田 純 氏

澤田 純(さわだ・じゅん)
NTT代表取締役社長
1978年、日本電信電話公社(現NTT)入社。NTTコミュニケーションズ経営企画部長、同社副社長、NTT副社長などを経て、2018年6月から現職。

5Gサービスで社会課題の解決を

 私がNTTに入社してから――当時は電電公社の時代ですが――40年が経ちました。その頃は、会社の収益全体の90%を固定電話が占めていましたが、現在は携帯電話を含めても音声収入は18%ほどです。一方、海外での活動も活発に行ってきた結果、海外収益は全体の20%を占めるようになりました。この数十年の間に大きな変化があったといえます。

 現在の日本をめぐる世界情勢を見ると、米中貿易摩擦など、地政学リスクの高まりに基づく不確実さというものがあるように思います。景気についてもそれらの不確実さも影響し、減速してきています。代表的な景気指標のひとつ、購買担当者指数(PMI)の推移は、2017年の終わり頃からEU、米国、中国、日本いずれも下落傾向にあり、日銀の市場短観を見ても、世界の景気動向と連動するように下降傾向にあります。

 そんな中でもICTを活用した様々な変革は進んでいます。「5G」(第5世代移動通信システム)という通信規格があります。非常に速く、遅延が少なく、多数の端末を接続することができるこの技術を用いて、NTTでは様々な社会課題を解決する方法を模索しています。約2300社のパートナー企業と議論を行い、今年秋にはプレサービスを始め、来春に商用サービスを開始する予定です。

自治体のデータを渋滞緩和や事件・事故の初動迅速化に活用

 Smart Worldの実現に向けたNTTの取り組みについて三つお話ししたいと思います。一つは札幌市や米国ラスベガス市などで行っているSmart Cityです。Smart Cityで重要なのはデータです。収集した様々なデータは自治体が保有し、私たちNTTは、それを支えて新しい付加価値を生み出す、というのが基本的なビジネスモデルになります。

 例えば札幌市では、収集したデータを加工や分析、予測する基盤を提供しています。複数店舗における観光客などの購買情報を分析することにより、売れ筋情報を提供したり、除雪作業のオペレーション分析により、可視化したノウハウを除雪作業に活用するソリューションを展開しています。

 ラスベガス市では、交通パターンの解析による渋滞の緩和や、市民の行動を解析することで事件・事故を認識し、初期対応時間の短縮をめざす取り組みを進めています。これを可能にしているのが、NTTのコグニティブ・ファウンデーションです。コグニティブ・ファウンデーションとは、クラウドやネットワークサービスに加え、ICTリソースを含めた構築・設定・管理運用を一元的に行える仕組みで、今年2月から商用展開を始め、これから拡大していく予定です。

 二つ目はSmart Mobilityで、その実現に向けてトヨタ自動車様やJR東日本様、日本郵船様などと共同で実証実験や導入に向けた検討を行っています。トヨタ自動車様との協業では、自動運転を実現するための基盤技術の確立をめざし、ネットワークに接続した車(コネクテッドカー)に関する実証実験を行っています。現在は、500万台の車の走行ピークを想定し、車からの情報や道路周辺の状況といった多種多様な情報を超高速で収集して、その情報を分析し、他の車に配信する技術の開発を進めています。この技術により、コネクテッドカーが様々な情報を収集、活用することで、スムーズな自動運転を実現するとともに、事故や渋滞の回避や、車内外の状況を把握して運転アドバイスを行うことも可能になると考えています。

 これはなかなか難易度の高い技術です。NTTドコモなどが、九州大学のキャンパス内で商用サービスとして自動運転バスを走らせようとしていますが、キャンパス内の決められたルートで、かつ車の走行などは少ない環境です。しかし、実際の交通空間は、多くの車や自転車が走行しており、人の往来も多く、状況は刻々と変わります。それをどうリアルタイムで処理して、車が判断できる情報を提供できるかが大きな課題になります。

 一方、コネクテッドカーを走らせるためには、GPSなどの位置情報衛星のデータが重要になりますが、都市はビルが多いため、ビルの陰となり受信しにくい場合が多いという課題があります。そのような中、NTTでは信号を受信した衛星の中から最適な衛星を選んで測位精度を向上する技術を開発しました。これを使うと、より精度の高いナビゲーションが可能になります。

交流電力網を補完する地域単位の直流電力網の構築

 三つ目の取り組みはエネルギーに関するもの、Smart Energyです。NTTは太陽光発電所を80か所所有しています。これは原子力発電所の約0.3基分、約30万kW弱を発電しています。また、関連会社のエネットは新電力ではナンバーワンの7万法人の顧客を持っています。さらに、現在NTTの電話局は7300、携帯電話の基地局は20万あり、あまり知られていないことですが、電話局には停電時などに備え、約410万kW分のバックアップ用蓄電池があります。

 現在、電力は交流で構成されていますが、電話局内の配電を直流に置き換えるだけではなく、ICTを生かして各地域に直流の電力網を構築することで、いわば仮想発電所として、現状の交流の電力網を補完することを考えています。この直流電力網は非常時のバックアップとして活用することができます。昨年の北海道胆振東部地震では、道内全域が停電しましたが、それは交流一系統しかなかったからともいえ、直流の系統があれば、こうしたことは防げると考えています。また、再生可能エネルギーの安定供給に活用することもできますし、今後増えていくだろう電気自動車の充電スタンドとしても使えるでしょう。

 現状、いくつかの会社に分散しているエネルギー事業を、下期にはひとつにまとめたいと思っています。合算すると約3000億円規模の売り上げとなりますが、6年後には倍の6000億円規模まで増やしたい。そうして、お客様に使いやすくてクリーンな電力を提供できる事業を展開したいと思っています。

 ICTを活用して社会課題をどう解決するか。私たちには公共的な部分があり、事業活動を通じた課題解決を考えていかなければなりません。そして、その取り組みを通じて、結果的にSociety 5.0や国連が提唱するSDGsに応えていきたいと考えています。また、現在NTTの全社員30万人のうち、12万人が外国人で、その国籍は89か国に及びます。事業を行っていくのは基本的には「人」です。お客様の信頼に誠実に対応しながら、国籍に関係なく、人と人、機械と機械、現在と未来をつないでいくような事業を展開していきたいと思います。

読売新聞オンライン