現在、都市が抱える課題は「環境問題」「社会インフラの老朽化」「エネルギー問題」「高齢化」といったものがある。
これらを解決することは現代社会にとっての難問だが、ICTの利活用は課題解決の糸口となり始めている。
読売ICTフォーラムでは、事例を交え、ICTが切り拓く課題解決型の未来、
「スマートワールド」の実現について考えていく。
いとう まい子氏 女優
杉江 理氏 WHILL代表取締役兼CEO
スプツニ子!氏 アーティスト
伊藤 博之氏 クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役
司会:郡司 恭子(日本テレビアナウンサー)
スプツニ子!(すぷつにこ)
アーティスト
インペリアル・カレッジ・ロンドン数学科及び情報工学科を卒業後、英国王立芸術学院デザイン・インタラクションズ専攻修士課程を修了。在学中から映像インスタレーション作品を制作。東京藝術大学デザイン科准教授。2019年TEDフェローに選出。
アーティストのスプツニ子!さんは、テクノロジーを扱いながらポップでユーモラスな作品を発表されています。
スペキュラティブデザインというのが私の専門分野です。アートというと美しいもの、心が癒されるものというようなイメージをお持ちの方がいると思いますが、私が興味があるのは、当たり前と思っている価値観やライフスタイルを問い直すようなアート作品です。AIやバイオエンジニアリング、ゲノム編集などのテクノロジーがすごいスピードで私たちのライフスタイルや宗教観、価値観、家族観を変えていて、私はそういった様々な倫理のジレンマを作品で問題提起して、「どう考えますか?」ということをやっています。
例えば、AIは夢の技術のように語られることが多いですよね。ただ、過去のデータを学習して判断を下すのがAIで、私たちの社会には昔から女性差別や人種差別など、多くの問題があります。それを学習して判断すると、どうなるか。最近、Amazоnがスタッフの採用のためにAIを使ったら、AIが女性や黒人に不利な判断を下していたことが発覚したというできごとがありました。容疑者の保釈を認めるか否かを判断するAIが、黒人に対して不利な判断を下していたということもありました。このようにAIがすでに存在する格差やステレオタイプを強化する場面は実はいっぱいあって、AIに全てを委ねることには危険が潜んでいるわけです。
こういう映像作品を作りました。子どもの頃に原っぱで四つ葉のクローバーを一生懸命探したという方は多いと思います。四つ葉のクローバーは幸せの象徴といわれますが、私の作品は、上空からドローンが画像認識で四つ葉のクローバーをめちゃくちゃ高速で見つけてくれるという、幸せ台なしの作品です。私たちはAIでどんどん効率化してスピードアップして、どんどんお金を稼ごうとしているけれど、そもそもハッピーになりたかったんだよね? ドローンが世界中の四つ葉のクローバーを探し出してくれるようになったところで、本当に私は幸せになるだろうか? 作品を通して、そんな問いかけをしたつもりです。
また、未来の同性カップルの家族を描いた作品があります。これは万能細胞といわれるiPS細胞を題材にしています。iPS細胞は、ある細胞から体中のいろいろな細胞をつくることができるという夢のテクノロジーですが、突き詰めると私の細胞から精子をつくることもできるわけです。私から精子をつくって女性の卵子を受精させると、女性2人で子どもをつくれることにもなります。
世界中で同性カップルの結婚の合法化が議論されています。生産性がないと批判した自民党議員もいましたが、こうした新しいバイオテクノロジーを使えば、男と女じゃなくても、女性2人で子どもをつくることも不可能じゃなくなるわけです。だからといって、このサイエンスを取り入れるかどうかは別の議論になりますが、問題提起をこめたこういったアート作品をつくって、いろいろなところで展示しているのです。
伊藤さんは初音ミクに関連して、クリエイティブは一部の人間のものではなく、みんなのものだという発言をされています。
インターネットが普及する前は、例えば音楽であれば、大先生がいて、クリエイティブはそこだけに集中し、大衆は一方的にそれを受けとるという非対称な関係性があった。一般の人たちにクリエイティビティーはないというような考え方が支配的だったのです。しかしインターネット以降、実はそうではないということが徐々に見えてきた。良い悪いはあるかもしれませんが、いろいろな人たちがいろいろなものをつくって、YоuTubeやニコニコ動画で発表し、その一つのシンボルが初音ミクだったのかなと思っています。初音ミクはあくまでも人間が表現するためのツールの一つとして開発しただけで、そういうことを期待していたわけでも、はやらせようと思っていたわけでもないですが、はからずも一般の人たちがクリエイティブの楽しさや美しさに気づくきっかけになったのかもしれません。
また、僕は札幌にずっと住んでいますが、東京と比べると北海道や地方は遅れている、劣っているというような考えが支配的です。地方には地方の選択肢がいろいろあるのに地元の人自身が無頓着で、自分たちを否定していることに疑問を感じていました。いろいろな技術やデザインを身につけて表現していくことで、新しい社会みたいなものが生み出せるのではないかと思い、自治体や大学に呼びかけて北海道を実験地として始めたのがNo Mapsでした。