• 海外プロジェクト探検隊~世界の仕事現場を見に行こう!~  「海外プロジェクト探検隊」は、三菱商事が海外で展開しているさまざまなプロジェクトの現場を高校生たちが訪問し、現地の模様や肌で感じたことをリポートするシリーズ企画です。 海外プロジェクト探検隊~世界の仕事現場を見に行こう!~

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vol.6 春休み シンガポール 都市開発プロジェクト体験ツアー

トゥアス南・ゴミ焼却炉

椎名 剛士(17歳) 千葉県立市川東高等学校2年
高沢 幸広(17歳) 私立慶應義塾高等学校2年
高沢 幸広

インフラの運営権を得るというビジネスモデル

ジュロン工業団地はシンガポールの中心都市から西のはずれにある。私達が訪れたトゥアス南地区は、ジュロンよりさらに西にあり、このあたりの広くてまっすぐ伸びた道路には車はほとんど見かけない。

ゴミ収集車で運ばれたごみは、ここから施設内へ。ごみの臭いが凄いゴミ収集車で運ばれたごみは、ここから施設内へ。ごみの臭いが凄い
 トゥアス南のごみ焼却プラントは、トゥアス(1985年、焼却能力は1日当たり2760トン)、セノコ(1993年、焼却能力3312トン)に次ぐ3つめの三菱重工業製のプラントで、三菱商事とともに、2000年に納入した。

 最新の設備で、焼却能力は世界最大の1日当たり4320トンだ。また、焼却の熱で発生させた蒸気の力でタービンを回し、発電を行っている。その電気の20%はプラント自体が使い、残りの80%は売っている。

 ごみ収集車がごみために直接ごみを入れているところではすごい悪臭がしたが、建物の中に入るとそれはあまりなかった。それでも、都心のホテルと違い、廊下などは冷房が入っていないので、シンガポールの蒸し暑さとあいまって独特の空気やにおいがあった。廊下はどことなく薄暗く、窓外の海は、シンガポール・フライヤー(観覧車)から見た海と違い、停泊している船はひとつもなかった

 ごみは一度一箇所に集められて、UFOキャッチャーのようなクレーンで持ち上げられて、焼却炉へつながる穴へ落とされる。そのクレーンのオペレーターは、中国語か何かの歌をラジオで聞きながら作業していた。背後で私達が日本語で話しているのを気にもせず、照明で赤みがかった眼下のごみの山に集中していた。ごみは上から新しいものがどんどん積まれていくので、古いものから焼くために、いつもクレーンで手動でかき混ぜているという。向こうの方にあったごみをつかみ、こっちに持ってきて放すと、ごみはざあと落ち、紙切れはひらひらと舞い、ほこりが巻き上がるのがガラス越しにも見える。ごみの分別は進んではいるが、まだ日本ほど厳しくはないらしい。コンクリートの塊だとかを焼かずに除去することも月に3、4回はあるという。

ごみ焼却プラントの中央管理室。最新の設備が揃っており、あらゆることがコンピューター管理されているごみ焼却プラントの中央管理室。最新の設備が揃っており、あらゆることがコンピューター管理されている
 中央の管理室は照明が明るく、コンピューターやモニターがならんでいた。温度調整などはすべてコンピューターで管理されていて、ここではそれを監視している。燃え具合などは、火の様子を直接モニターで見ていないとわからない。ごみの中に化学薬品などが多く入っていて、炉の温度が高くなることがあるが、そういうときは溜めておいた雨水を使い、温度を調整する。

 シンガポール政府は、値段が高くても質の高いものを欲しがっているので、今回三菱商事は、三菱重工業の技術とともにそれに答えることができた。

 シンガポールでは、ごみ焼却炉や発電所などのインフラは、その都市に必要なだけの設備は整った。そのため、これ以上三菱商事はそれらの新規の納入は見込めない。そこで、今後のシンガポールでの事業の可能性としては、既存のそれらをアップグレードすること、それと、注目されるのは、三菱商事がそれらを直接運営することを視野に入れている点だ。ごみ焼却炉や発電所などのインフラは、はじめは政府が運営するが、安定してくると民営化する。実際、5つ目のごみ焼却プラントははじめからシンガポールの民間企業が作っている。そして発電所などの民営化の際に、外国企業である三菱商事が運営権を得ようというもくろみだ。中には、中国の企業が運営権を落札した発電所もある。

 運営権を得る、すなわち事業者、オペレーターになることを、発電に関して言えばIPP(Independent Power Producer)=独立系発電事業者といい、民間企業が発電設備を持ち、つまり発電事業者になり、電力会社などに電力を売る事業のことである。設備を納入して終わり、ではなく、その国でずっと運営していくことになるのだから、その際にはその国の規制やカントリーリスクなどいろいろな要素を考慮しなければならない。シンガポールでは、外国人はなかなか土地を買えず、期限付きで借りるしかないという規制があるが、直接ビジネスに影響するものは少ない。それに対して欧州では規制が強く、なにより地元欧州の企業の力が強いので、日系企業が進出していくのは簡単ではない。規制が弱めならば、或いは利益が出るのであれば少しくらい政治が不安定でも、インドネシアやタイなどでオペレーターになる可能性もある。

 率直な感想を言うと、運営するということが商社のビジネスのひとつであるということに、なるほどと思った。貿易だけでなく、そのような個別の事業の方針や取り組みの面白さへの理解が深まった。

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田山 友紀(16歳) 私立慶應義塾湘南藤沢高等部1年
田山 友紀

ごみは何処へ?

 工業団地地区は文字通り見渡す限り工場や倉庫ばかり。日系企業の名前もいくつか目に止まった。しばらく進んでトゥアス南地区に入るとひときわ目を引くものがあった。赤と白の縞模様の高い煙突2つ。それにつながる焼却炉を含む大きな建物。これらがトゥアス南・ごみ焼却炉プラントだった。

ごみ回収トラックからごみが降ろされ、プラント内へごみ回収トラックからごみが降ろされ、プラント内へ
 2000年に完成したこのプラントは、シンガポールにある4つの焼却炉の中で一番新しい。自動化されたシステムと、環境に配慮できる最新の技術を持つプラントだ。1日4320トンのごみを燃やすことができる。私が住む川崎市のごみ排出量の3倍弱だ。処理能力は世界でもトップクラスである。

 外から見る限り、2つの煙突以外は特に特徴的なものはなかったが、敷地は広かった。東京ドーム10個分の広さもある。そして、直方体の積み木を並べたような単純な外見からは工場内部の様子は全く想像がつかなかった。

 最初に行ったのは、ごみ収集トラックが市内から集めてきたごみを降ろすところだった。そこはまさに“ごみ焼却場”という感じで、ごみの臭いが充満していた。地面には黒い液体や油のようなものの水たまりがあって、それらを避けて歩くのは一苦労だった。工場内には、トラックや機械の轟音が鳴り響いていた。

まるでUFOキャッチャーのようなクレーンでごみを混ぜるまるでUFOキャッチャーのようなクレーンでごみを混ぜる
 次の場所へ移動したときには臭いや音から解放され、ほっとした。しかし、今度は小人になった気分だった。ガラス越しに見たゴミの集積場はこのゴミ焼却炉のスケールの大きさを物語っていた。見たこともないほど大きなクレーンは、ごみを混ぜたり移動させるのに使われている。まるで巨大なUFOキャッチャーのようだ。ガラス張りの部屋から係員がクレーンを操作してごみを炉の入り口へ運んでいた。

 その後はセントラルコントロールルームや、燃えなかった金属・灰が集まる場所などを見学してプラント内ツアーは終わった。

 私がこのごみ焼却プラントで一番見るのを楽しみにしていたのがコントロールルームだった。「最新技術を使って全自動化された」というのはどのようなものなのだろう?無人なのだろうか?と想像していた。しかし実際にコントロールルームに入ってみると従業員の方が15人ほどいた。自動化されたシステムでなぜ従業員が必要なのだろうか。説明によると通常のオペレーションは自動で行われるが、何か異常があった場合や緊急事態が発生すると人の手が必要ということだった。家庭用洗濯機から巨大プラントに至るまで「全自動」と言っても、現在の技術では必ず人間がどこかに介在するのだということが分かった。

セントラルコントロールルームにはモニター画面がずらりセントラルコントロールルームにはモニター画面がずらり
 ところで、シンガポールの国土は広がり続けているのをご存知だろうか。独立直後は神戸市よりやや大きい580kmだったが、今は704kmまで1.2倍に成長した。これは埋め立てによる拡大で、現在も国土は広がり続けている。そして、埋め立てに使われているのがこのごみ焼却プラントで出た灰だ。灰はセメントと混ぜ合わせ、埋め立て材にするという。この焼却炉が立っているのも埋立地だ。インドネシアの島々が防波堤となるため津波の脅威がない埋立地は、安全な国土になっている。

 このプラントで燃やされた後、ごみの体積はわずか10%にまで減る。燃えきらなかった10%に含まれるのは灰と金属。金属は近くの鉄くず会社に売られ再利用される。現在、灰はシンガポール沖のSemakau Landfill Islandの建築材として使われている。この人工島は、将来リゾートとしてオープンする予定だ。

 今までは、焼却炉といえば二酸化炭素を多く排出して環境に悪いイメージが私の中にあった。しかし今回このプラントの訪問で環境にやさしい取り組みを最新の技術を使って数多く行っていることがわかった。焼却時に出た気体は工場内でろ過するため、有害物質は放出されない。また、先に述べたように灰や金属は再利用されている。冷却水として使われる水は河川の水や地下水ではなく、雨水を利用しているとのことだった。そして、焼却の際発生した水蒸気を使って発電も同時に行っている。発電量の20%はプラント内で使い、80%は売るそうだ。

 このプラントほど環境に配慮した工場は世界的に見てもまだ少ないと思う。いかに環境を保護しながら発達していくかがこれからの時代、地球規模の課題になると思うので、このトゥアス南・焼却炉プラントのような企業が増えていってほしいと願う。

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