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読売ICTフォーラム2022
~生命(いのち)の本質からICTの未来を考える~

 進化するICTにより実現する未来の日本社会やライフスタイルについて識者とともに考える「読売ICTフォーラム2022」を3月29日に開催した。2001年にはじまり、今回で20回目をむかえた「読売ICTフォーラム」。
 今回は「生命(いのち)の本質からICTの未来を考える」をテーマとし、継続するコロナ禍で見えてきたICTの恩恵や課題、人間の本質やあるべき姿について考え、テクノロジーと豊かに共存し、サステナブルな社会をいかに構築していくかについて議論した。

主催:読売新聞社 協賛:NTT

採録特集掲載中
2022.3.29(火)
オンライン開催

パネルディスカッション

「生命の本質からICTの未来を考える」

福岡 伸一 青山学院大学教授・生物学者
稲見 昌彦 東京大学先端科学技術研究センター 身体情報学分野教授
伊藤 亜紗 東京工業大学未来の人類研究センター長

司会:畑下 由佳(日本テレビアナウンサー)

機械の力で生身の体ではできないことを(稲見氏)
稲見 昌彦

稲見 昌彦(いなみ・まさひこ)
東京大学先端科学技術研究センター 身体情報学分野教授
1999年、東京大学大学院工学系研究科博士後期課程修了。2001年、同大学大学院情報理工学系研究科助手。05年、マサチューセッツ工科大学コンピュータ科学人工知能研究所客員科学者。16年から現職。

畑下

 稲見先生は情報工学やロボット工学がご専門で、人間の体についての研究をされています。また『自在化身体論』という本を出版され、話題になりました。

稲見

 中学生の頃、ロサンゼルスオリンピックの開会式で、人が背中にロケットパックを背負って空を飛ぶのを見て、「これはすごい」と感銘を受けました。それから人は技術の力で空を飛べるということに興味を持ちました。人と機械が一体となり、生身の体ではできないことができるようになることを「自在化身体」と名づけ、その研究を行っています。

 具体例を紹介します。福岡先生の著書『フェルメール光の王国』に、レーウェンフックの話が出てきますが、「レーウェンフックの単レンズ顕微鏡」を指先につけて物体をなぞると、映像が触覚に変換され、ミクロのものに触れているように感じる。そういう「指先の顕微鏡化」の研究を行っています。

 また、体に装着する第3、第4の腕や、第6の指を作りました。腕や手首の活動で動くようになっていて、しばらくすると本当の腕や指のような気がしてきます。デバイスを装着した2人の人の動きから合成したVRのアバターを作り、一緒に作業するとどのように感じるかという研究もしています。

 二人羽織のように背中に装着して、人と一緒に作業できるロボットを作りました。遠隔からの指示で人の体を動かす仕組みも開発しました。意思とは関係ない動きを強いられることを不快に感じるのではないかと思いましたが、ダンスをリードされているような気持ちよさがあります。

 スキルをどのように体に移転させるかという研究も行っています。動きのコツをリアルタイムで伝えるモーション伝達装置や、VRでけん玉を練習するソフトの開発も行っています。けん玉ソフトは、スローモーションから徐々に速度を速めて練習でき、簡単な技なら3~5分でできるようになります。こうした技術研究が進めば、今できないことができるようになるかもしれません。そう考えると未来に対して前向きになれます。研究しながらそんなことを感じています。

畑下

 伊藤先生は普段、どんな活動や研究をされているのでしょう。

伊藤

 私は東京工業大学という理工系の大学にいますが、人文系の研究者で、美学を専門にしています。美学とは、美に代表される感覚的なもの、言葉にしにくいものを言葉を使って分析する学問です。その対象として人間の体の感覚に関心があります。自分とは異なる体を持つ人に世界はどのように見えているのか、当事者へのインタビューなどを通じて分析しています。

 特に視覚障害者の方に関心があります。話をうかがうと、コロナ禍でマスクをしていることで道に迷いやすくなったといいます。目の不自由な方は空気の流れに敏感で、例えば十字路に出た時に空気の流れが変わるのを顔の触覚で感じています。顔がマスクで覆われているために、そういう情報のインプットが減り、道に迷うようになったというのです。空気の流れで感じる街は、視覚を通して見える街とはまったく違います。自分が見ている世界がすべてではないという現実が身近なところにあるということを実感しています。

 最近「見えないスポーツ図鑑」という研究に注力しています。もともとは視覚障害者の方と一緒にスポーツ観戦する方法を開発することを目的にスタートしました。そもそも選手は視覚だけでなく触覚や聴覚も使ってスポーツをしているわけで、そういう部分を体感できるような方法を模索し始めました。

 例えば、フェンシングは剣を突くイメージが強いですが、選手からすると、攻撃と防御が一瞬で反転するところがポイントで、フィンガリングという手首の柔らかい動きが大事なのだといいます。その柔軟性を表現するのに、お互いにアルファベットの木片を持ち、知恵の輪のように組み合わせる方法を考えました。選手の方からもフェンシング感があると評していただいています。

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