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佐々木 信夫

佐々木 信夫【略歴写真:北村咲子

地方創生-もうひとつの視点

佐々木 信夫/中央大学経済学部教授
専門分野 政治学

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 この4月に戦後18回目の「統一地方選挙」が行われます。衆議院選の次は統一地方選での勝利と、各党とも力が入っています。

 その結果を左右するひとつが「地方創生」のあり方でしょう。昨年夏以降、人口減少が大きな政治の話題となり、安倍政権も地方創生本部を立ち上げ、暮れの総選挙では子育て支援策やふるさと納税・交付税の自由枠拡大、地方回帰企業への減税・補助金での優遇策など、様々な支援策を公約として掲げました。

 この1月には「地方創生総合戦略」を閣議決定し、各地方に「地域版創生ビジョン」をつくれと呼びかける段階にきています。先般はじまった通常国会も、地方創生国会といった事になるでしょう。

「地方創生」の大きな死角

 ただ、私はここまで議論されている「地方創生」には大きな死角があるとみます。デフレ脱却、アベノミクス推進と経済優先を掲げる安倍政権の「地方創生」は、あくまでも地方の景気対策が中心。地方の景気が回復すれば日本経済のデフレ脱却ができるといった、経済政策としての「地方創生」が中心のように見えます。

 この種の話は、じつは10年に一度手を変え、品を変えて繰り返えされてきた自民党政治の常套手段ではないか、と思われます。もっと大きく言えば、戦後70年近く、表現はともかく、つねに地方創生を内政の柱に掲げてきたではないか。工場分散、拠点開発、首都機能移転、本社地方分散、ふるさと創生、地方拠点都市、広域生活圏形成など、まさに「地方重視」の政策が繰り返されてきました。

10年に一度繰り返される地方振興策

 ここ四分の一世紀に絞っても、1988年竹下内閣の「ふるさと創生1億円」、1999年小渕内閣の「地域振興券」、2008年の麻生内閣の「ふるさと納税」、そして今回、安倍内閣の「地方創生戦略」、「生活支援交付金」と10年に一度ずつ繰り返されてきています。

 しかし、結果はどうでしょう。残念ながら地方衰退は止まらず、消滅自治体が全国津々浦々に喧伝される始末。どこか、方法論が違うのではないでしょうか。個別施策の効果や中央主導の地方政策に関する検証が必要といわれますが、もうすでに答えは出ているように思えます。

地方創生と統治機構改革

 つまり、職住近接、地方分散を掲げてハードインフラを優先的に整備してきたこれまでの地方振興策ですが、肝心のソフトインフラが集権的で旧態依然の構造のままなのです。ここに諸悪の根源があります。政治、行政、経済、情報、教育、文化などのすべての高次中枢機能が東京に集中したまま、いくら地方創生の旗を振っても、地域産業が活性化し、雇用が生まれ、若い人が残ろうとする環境が生まれるとは考えにくいのです。

 急がば回れ、ここは「新たな国のかたち」論議から始め、2020年の東京五輪までに新たな統治機構の形をつくりあげること、そのことこそが安倍政権の取り組むべき骨太の地方創生ではないでしょうか。

 地方創生と統治機構改革は別物であるという見方があります。しかし、それは違う。双方は連動しています。集権的な意思決定、規制など様々な足枷を残したまま、前へ進めと言っても無理な話です。

 もとより、統治機構改革にはものすごいエネルギーが要ります。大阪都構想の実現にシャカリキに取り組む大阪での政治状況をみても、いかに大変か、5月17日の住民投票に持ち込むまで1年以上かかった。これが日本全体の統治の仕組みを変えるとなると、勢い抵抗勢力の多い大改革となります。しかし、切り札はそれしかないのではないでしょうか。

間違っている日本再生の方法

 日本はこの20年間、GDPはゼロ成長に止まり、逆に公債残高300兆円から1000兆円を超える規模に急膨張しています。膨大な需要喚起で内需を支え続けましたが、世界経済に占める日本の地位はズルズルと坂を下っている状況で、それに覆いかぶさる暗雲が急速な人口減少です。安倍総理はそれを「デフレからの脱却」と表現していますが、デフレ、インフレの話ではなく、実物経済そのものが事実上ゼロ成長の状況にあります。2040年に消滅自治体が半数に上ると予想されますが、日本再生の方法は何かが間違っている、問題の本質に切り込んでいないのではないか、と思われます。

地域主権型の水平的競争社会が鍵

 その大きな要因は、国内に競争関係が生まれない、地域圏が自力で活性化しようという動きが生まれていないことです。つまり国(中央)が司令塔になって多くを仕切っていく垂直型統治機構をそのままにし、政府主導で公需喚起による行政社会主義的な経済運営を続けてきた結果、地域の自立心は萎え、すべては国頼みの様相になっています。

 これでは活力も生まれないし、経済も成長しない。ここは、安易な借金依存を断ち、簡素で効率的な統治機構への大胆な改革へ挑む。大幅にムダを削減し、道州制移行によって地域主権型の水平的競争社会をつくることではないでしょうか。その転換なくして日本再生はありえません。

「日本型州構想」の実現

 九州七県でオランダ並み、東北六県でスウェーデン並み、一都三県でイギリス並みの経済規模を持つ日本です。そこに気づく仕組みづくりが必要です。九州が1つの州として活動するなら、10年も立たずしてオランダの1.2倍に成長できるのではないでしょうか。

 経済活動も広域化している中で、140年前の馬、船、徒歩の時代に中央集権体制を構築する足場としてつくられた47府県体制を後生大事に維持しようとしている、そこに大きな問題が潜んでいます。

 2000年に始まった日本の地方分権改革。現在、その改革は停滞したままですが、その地方分権の究極の姿は道州制への移行です。47都道府県制度を廃止し、約10の広域州を設置する。そこに国から内政に関わる多くの権限、財源を移し内政の拠点とする。こうした州政府同士が競い合い、世界と結びついてこそ日本全体にダイナミズムが生まれ、成長の可能性も高まるのです。この新たな国のかたちを私は「日本型州構想」の実現と呼んでいます。

時代遅れの日本の仕組み

 面積で米カリフォルニア州の1州しかない狭い日本に、140年前の馬、船、徒歩の時代の47の区割りがそのまま存在する。経済圏の拡大に行政圏を一致させようとする改革が全く行われていない。公権力を持つ統治機構が、国、その出先機関、府県、その出先機関、そして市町村、その支所と5層にも6層にもなっている。このシステム維持だけで半分の税金が消えていく。縦割りで、かつ硬直的な統治機構、これでは時代のダイナミズムに追いつけません。グローバル時代にふさわしい日本の仕組みを構築することは不可欠です。

今なすべきことは

 国民生活の約3分の1を占める公共部門に、ある種の市場メカニズムが働くよう地域間競争の原理を入れ、州政府間の政策競争、各州広域圏の圏域間競争といった、水平的な競争関係を生み出す統治システムへの転換こそ、新たな「国のかたち」といえます。

 私のいう「日本型州構想」は、ヨコ型の地域間競争メカニズムを作動させることで、従来のタテ型の集権的統治システムから地域圏を開放し、元気な日本をつくろうという点にあります。硬直した公共分野に市場メカニズムの発想を持ち込む考え方により日本の地方創生を図る。回り道のようですが、急がば回れ!この方が一過性ではない、従来の手法を断ち切った、持続性のある地方創生策ではないでしょうか。

 道州制基本法の提案が、与党内の都合で昨年の通常国会に出せずに終わっていますが、ここは再提案し、道州制国民会議をつくり、もうひとつの地方創生をめぐる論議を深めるべきです。

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佐々木 信夫(ささき・のぶお)/中央大学経済学部教授
専門分野 政治学

1948年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了、法学博士(慶應義塾大学)。東京都庁勤務を経て、89年聖学院大学教授、94年中央大学教授。2000年米カリフォルニア大学(UCLA)客員研究員、2001年から中央大学大学院経済学研究科教授・経済学部教授。専門は行政学、地方自治論。日本学術会議会員(政治学)、大阪市・府特別顧問、政府の地方制度調査会委員など兼任。近著に『新たな「日本のかたち」』(角川SSC新書)、『都知事―権力と都政』(中公新書)、『地方議員』(PHP新書)、『大都市行政とガバナンス』(中大出版部)、『日本行政学』『現代地方自治』(学陽書房)など。NHK地域放送文化賞受賞。NHK「視点論点」、東京MXTV、TBS、フジTVでのコメント、新聞、雑誌の解説ほか、各地で講演多数。2015年3月、『人口減少時代の地方創生論』(PHP)緊急出版。