東日本大震災以降の日本、経済発展を遂げているタイ、そして、今回の海外プロジェクト探検隊のメインテーマである「エネルギー」。私たちは六日間の旅程の中で、タイにある三つの発電現場に訪問させていただいた。
まずは、私の思う「エネルギー」について話をさせていただきたいと思う。
エネルギーというものは、現代世界においては文明の動力といっても過言ではないと言える程、重要なものだ。しかし、このエネルギーについて正しく理解し、尚且つ、意識して使用している人は多くはない筈だ。エネルギーは元々、ドイツ語で「仕事」を意味し、液体を沸かしたり物を動かしたりするときに必要な力の事だ。この力を利用し電気をつけたりお湯を沸かしたりしている。エネルギーがあるおかげで、私たちの生活は成り立っていると言えるのだ。
エネルギーは文明社会には多大な貢献をしているが、その分自然や環境を破壊する要因の大きな一つにもなっている。石油や天然ガス、そして核燃料等を使用して発電する「電気」は私たちの家や道路、街を照らしたり、テレビやパソコン等の電化製品を使用したりする為に必要なものである。文明社会とは切っても切れない関係にある。しかし、この電気は発電するときに環境へ影響を及ぼすのだ。
核燃料を使用し発電を行う原子力発電を例にとって説明しよう。この原子力発電は、少量のウランやプルトニウムを使用し大量の電気を発電することができる発電方法だ。しかし、いったん臨界事故などが起きてしまうと、自然界にはない量の放射線が放出されてしまう危険性もある。
このように発電方法にはメリットとデメリットの両面があるパターンが多い。それは震災以降、ひしひしと感じた筈だ。
そこで、最近は自然を使用した発電方法が注目され始めている。この方法ならば、自然にあるものを使うので、環境にはあまり影響はないだろう(発電施設を建設する必要があるが)。その中でも、「太陽光発電」という方法に最近注目が集まり始めている。
海外プロジェクト探検隊として訪れた、世界最大規模の太陽光発電所「ロッブリー太陽光発電所」。この発電所は、2022年までにタイ国内発電方法における再生可能エネルギーの割合を二割にまで上げるという計画に基づき、建設された。ここは人里離れた小高い山の上にあり、実に南北2キロメートル東西1キロメートルという途方もない大きさで設置されている。東京ドーム基準に直すと、なんと30個分にも相当するらしい。ピーク時には1ヶ月で10ギガワットアワーを発電する。しかし、来年の三月末にはさらに規模が拡大するらしいので、まだまだ発電量は増えると言う事だ。そして、特筆すべきは「太陽光発電」の名が示す通り、太陽の光を使うので太陽が輝いている限りは、発電施設の耐久性を考慮しなければ恒久的に、環境に悪影響をあまり与えずに発電を行うことができる。そして、土地を使用させていただいている地元の人達にも、さまざまな形で還元している。
これだけ聞くと、まるで夢のような発電方法で「この方法で行けばいいじゃないか」と思う人もいるだろう。しかし、太陽光発電もほかの発電方法と同じくメリットだけではないのだ。例えば、雨の日で太陽が見えない日の発電量は少なくなるので、電気を安定供給することができない。それが何日も続いてしまうと、社会全体が回らなくなってしまう。発電量もほかの太陽光発電や原子力発電に比べ、土地の面積当たりの発電量が少ないというデメリットがある。発電施設にしても、施設を作るために大量のシリコンを使う必要があるし、設置するための広大な平地が必要で、日本のような平地の少ない山がちな島国では、大量の発電を行うことが難しいのだ。
このように最近注目され始めている太陽光発電にも、やはりメリット・デメリットがある。「じゃあ理想的な発電方法じゃないな」と思う人もいると思うが、現在私たちは限りある資源を食いつぶしながら、文明社会を生きているのだ。これからの技術発展が期待できるところが、太陽光発電の最大の強みだと私は思っている。
ロッブリー太陽光発電所では、何人かの発電所関係者の方々とお話をさせていただいた。この発電所で働いている人たちの目には、この「太陽光発電」という発電方法にかける未来への情熱と、希望に満ち溢れているように見えた。
ロッブリー太陽光発電所は2011年12月より段階的に商業運転を開始しており、太陽光発電所としては世界最大級となる。敷地面積約200ヘクタールで、約57万枚のソーラーパネルを使用して73メガワット(直流)を発電している。私はこのメガソーラーの規模の大きさを目の当たりにして、その事業の公共性の高さを思い知った。これによって、従来の火力発電と比較して、年間5~6万トンの二酸化炭素削減に寄与している。この発電所ではこれまで小規模な発電施設でしか採用されなかった最新の薄膜タンデム型を太陽電池として大量に導入している。これは他の太陽電池よりも比較的安価と言われているアモルファスシリコンと微結晶シリコンを利用して開発されたものだ。
タイは年間を通して日射量が多く、太陽光発電に最適の立地であり、タイの地の特性にあった事業形態で地産地消の電力ビジネスを展開している。三菱商事は現地企業やその地域に強い海外企業、電力会社などの事業ごとに最適なパートナーと組んで共同出資しながら、その地域にあった電力を供給するやり方をとっている。
ロッブリー太陽光発電所は、三菱商事の子会社であるDGA、タイの民間発電事業者および香港の電力会社により開発され、発電所などプラントの設計から調達・建設に至るまでの全てを一括して請け負う契約を施工業者と締結し、建設した発電所である。民間業者が発電を手がけることで競争原理が働いて電力料金もコストダウンできることから電力事業の主体はいまや官から民になっている。
電力需要は個人、社会の経済の重要なインフラであり、世界人口の急増や途上国の経済成長を背景にますます高まってきているが、その一方で温暖化問題やエネルギー危機など深刻な問題も抱えている。そのためにより多様な発電方式が求められるようになってきているなか、自然エネルギーはクリーンで環境にやさしいという利点から注目されている。太陽光での発電は、再生産ができ、燃料が枯渇することなく繰り返し利用することができる。有害物質を出すこともなく生物にも地球にも悪影響を及ぼすことない。安心して利用することができるので、環境問題に発展する可能性が少ない理想的な発電である。
タイ政府は「2022年までにタイ全体の電力の約二割を再生可能エネルギーで賄う」という目標を揚げている。アジア開発銀行(ADB)はこの発電所建設に融資し、自国の再生エネルギーによる発電促進というタイの取り組みを支援している。タイでの電力消費量がすでに急増しており、今後も需要が伸びるとされているなか二酸化炭素排出量も増加するとみられているからだ。政府の目標に応えるべくして設立されたロッブリー太陽光発電所はタイの電力の安定供給と環境負荷の低減に大きく貢献している。私は再生可能エネルギーの推進に注力するタイ政府や企業の姿勢を知り、未来のエネルギーに成長戦略として本気で取り組んでいることに大きな可能性を感じた。今後、日本の技術を動員したロッブリー太陽光発電所が成功例となり、国内や海外にもいかせるより進歩的な発電所が増えていくことを期待する。