現在、東日本大震災を端緒とした福島第一原子力発電所事故があった影響で日本国内の原子力発電所は55基中、53基が運転を停止している(2012/8/4現在)。日本の電力の約3割を占める原子力発電がこのような状況になってしまった日本では節電が求められる夏を迎えている。
電力やエネルギーに関心が高まる中、私たちはタイに向かい三菱商事が取り組む、火力発電所や世界最大級となる太陽光発電所などの施設を見学させて頂いた。
三菱商事のタイでの電気事業形態は大きく2つに分かれている。トレーディングビジネスと事業投資ビジネスである。
トレーディングビジネスとは日本のメーカーとタッグを組みタイの顧客に対して日本の製品を販売するといったビジネスである。仲介支援業務とも言うが、三菱商事は1950年代から持つタイに於けるネットワークを生かし、様々な顧客との親交を通して時代によって変化するニーズをいち早くキャッチし、日本のメーカーの技術の高い製品をタイ国内で販売している。また、トレーディングビジネスには資金調達に困っている顧客に対し、日本の低金利の融資を提案するファイナンスや三菱商事が各メーカーと組んで行う入札の対応などが含まれている。
一方、事業投資ビジネスでは、タイにいる顧客と一緒に会社を設立するなどして、主体的に事業に取り組んでいる。具体的には、タイのEGCOという会社に対して12%出資することで、タイにおける投資の面で発電ビジネスに関わっている。このEGCOという会社は国営のEGAT(タイ発電公社)と一緒に、今回私達が訪問させて頂いたマプタプット発電所の事業に携わっている。
それ以外にも発電所が25-30年と長期間を通して動き続けるためには、色々な補修工事をする必要が出てくる。そこで、その補修工事を助けるためにEGATと一緒に補修工場を設立してメンテナンスの事業に取り組んでいる。また、三菱商事は石炭やLNG等の資源開発に自ら積極的に取り組んでいることから、バリューチェーンとして川上から川下までの一貫性を確保し安定的に発電に必要な原料の供給ができる体制を採っている。
今回訪問させて頂いた発電所は、環境に対する影響にも目を向けている。従来のものより発電効率の良い設備の導入や環境モニタリング、厳格な環境アセスメントの適用など例を挙げると枚挙に暇がない。
タイの人々の生活、そして経済の基盤ともいえる電力の安定供給のみならず環境にまで配慮した三菱商事の事業に強く心打たれた。それと同時にこのような姿勢こそが現在、世界に求められている企業の姿なのではないかと感じた。
タイは、今アジアの中で最も経済発展が著しい国の一つである。2015年までに人・物の流通を自由化し地域内経済を一体化する「ASEAN経済共同体」の創設に向けた動きは、その発展に一層の拍車をかけている。そのため、交通網の大幅な整備を始めとする、これまで以上に膨大な電力が必要となってきている。電力問題は今や「電力プロジェクト」として国を挙げて取り組まなければならない、喫緊の課題となっている。
タイでは発電方法における火力発電の占める割合が大きく、2015年現在で約6割である。そしてその燃料の7割が天然ガスである。現在天然ガスは、首都バンコクの沖合の海底から採取したり、近隣国のミャンマーから輸入したりしている。しかし、埋蔵量にも限りがあり今後の価格の高騰も懸念されるなど、電力を将来にわたって安定的に供給していくためには不安がある。この問題の根本的な解決策は、天然ガスに対する依存傾向からの脱却である。天然ガスに替わる他の燃料としては、石油や石炭がある。
三菱商事では以前より鉱山から採掘した鉄鉱石や石炭などをミャンマーやラオスから輸入していたが、その必要性が増すにつれて三菱商事が果たす役割も大きくなると考えられる。その一方で、火力発電以外の発電方法にも目を向けるなど、タイ国内における電力供給バランスを整えていくことも重要である。
タイでは、2022年までに再生可能エネルギーで発電容量全体の2割を賄うことを目標としている。特に、バイオマスや太陽光を利用した発電は、農業国で広い平地を国土に持つタイがいま最も期待しているものである。
その中でも注目されているのが、世界最大級となる73MWもの発電容量を誇る(日本では13KMが最大である)、ロップリーに建設された太陽光発電所である。その太陽光パネルは、三菱商事が中国香港の電力会社CLP、タイの電力会社EGCOと協力して設置したもので、現在も設備を拡張し続けている。環境に優しいこのような再生可能エネルギーの使用は今後ますます増加していくであろう。そのような流れの中で、三菱商事では既存の発電所の至る所への植樹、マプタプットやワンノイなどの火力発電所における定期的な水質や空気の検査の実施など、より一層環境に配慮した取組も進めている。
ところで、発電所のような大規模な施設を建設、安定的に稼働していくためには、そこに住む地元住民の理解と協力が必要不可欠である。そのために三菱商事では、発電所の中に資料館を作り見学できるようにしたり、学校の休日を利用して様々な活動を提案したりするなど、発電所と地元住民の結びつきをより強くするための取組を展開している。その中でも私がとても印象に残ったのが、ロップリーに大規模な太陽光パネルを設置する際に、立ち退きを求めた住民たちを、優先的に警備員として雇用したことである。
「電力プロジェクト」においては、電力問題のみを解決すればよいのではない。それは、環境や人も含めた、そこにつながるすべてのものが豊かになっていくことで初めて成功するものだと思う。そのために三菱商事は日々頑張っている。「電力プロジェクト」における三菱商事の一番大きな役割。それは、「所期奉公」という電灯にエネルギーを与え、タイの人々の未来を照らし続けていくことなのかもしれない。