震災前、他の発電と比べ多量の二酸化炭素を排出するため、依存度を下げるべきだと声高に叫ばれていた火力発電だが、どのような仕組みで発電しているのか、どのような環境への取り組みがなされているのか。そして、タイにおける火力発電のポジションはどうなのか。今回、マプタプット、ワンノイのふたつの火力発電所を見学し「火力発電」について、考えることが出来た。
まずは、仕組みから。基本的には下記のような流れで発電する。
石炭・石油やLNG(液化天然ガス)を燃やす⇒蒸気ができる⇒蒸気の勢いでタービンを回す⇒発電機も回す⇒発電できる という流れである。
次に石炭について。柔軟性のある人、頑固な人がいるように、石炭にも硬度があり燃え易さも違う。面白いと思ったことは、ビタミンを含んだ石炭は良質で用途が広いということだ。今まで石炭のことなんて、考えた事もなかった。おそらく、これからは通学路にある小さい岩山が以前と違って見えると思う。
では、火力発電所ができる環境への取り組みは何だろうか。石炭を燃料とするマプタプット発電所では、山積みになっている石炭に水をかけ固めておき、石炭の粉が風に飛ばされないようにしている。更に、発電所周辺に4か所のステーションを設置し、空気中に異変がないか調べている。また、排水は除染された後、海に流されるが、海水に影響を与えないようにするため40℃以下にならないと排水出来ないように規制されている。
天然ガスを用いるワンノイ発電所も同様に発電所内を洗浄するための用水の貯水池、空気中の検査のために5か所ずつ、異常な音がないかを調べるために4か所のステーションを周辺に設置している。
ワンノイ発電所にはガスタービン複合発電が導入されている。仕組みは下記の通り。 空気を取り込み、火を付ける⇒蒸気の勢いでタービンを回す⇒発電機を回し発電⇒タービンを回転させることで生まれた熱で蒸気を作成⇒蒸気の勢いで蒸気タービンを回す⇒再び発電機を回し、発電。
因みに、空気を冷却しておくことで点火された時の爆発力が増し、発電効率が上がる。一般に、このシステムは石炭を用いる発電よりも発電効率が約50%高くなり、二酸化炭素や窒素炭化物などの排出量も少なく、環境にも良いといわれている。
タイは天然ガス火力発電が全体の70%と、大きく依存している。国内では多量のガスが採れるが、25%は内需の少ないミャンマーなどから輸入し、共存関係を成立させている。タイ政府は天然ガスが急騰した時の混乱を危惧し、現在依存度20%の石炭や再生可能エネルギーを利用した発電へ徐々に転換する方針を打ち出している。
「発電所の仕事は発電関係」と割り切ってはいないだろうか。今回の発電所見学で最も印象に残ったことは、(火力や太陽光などの枠を超えた)発電所のCSR活動の広さだ。マプタプット発電所のムール貝養殖、ワンノイ発電所の、周辺に住んでいる人への医療活動、街を挙げたサッカー大会など。自分が考えてもみなかったことばかりだった。また、仏教に関係したイベントを主催するなど、多岐にわたる。その活動範囲の広さにただ驚かされた。そして、そのほとんどが無償である。
なぜ、「発電所」がここまでやるのか。この疑問を打ち砕いたのは、シャープ吉見さんの「我々はここに居させてもらっている立場。だから、何らかの形で感謝の意を示している。」という回答だった。その根底にあったのは「地域住民への感謝・地域との共生」だったのだ。
バンコクがプライメイトシティであるタイでも、そして日本でも地域社会の発展は必要不可欠だと思う。そこで発電所などのインフラ、そして企業が行うCSR活動がその活動範囲の広さを活かし、協力し合うことで、地域社会の発展に貢献できたら、これは素晴らしい事ではないだろうか。
今回のツアーで、国と国との違いを感じただけでなく、社会というものがどういう仕組みで、どういうことがなされ成立しているのかを知った。この経験で得た理解は、自分の志を二次元から三次元に変えてくれた。そして将来、自分も何らかの形で、こういうCSR活動に携わっていたいと、強く感じた。
環境への悪影響を減らす取り組みが進み、かつ安定した電力が得られる火力発電。反原発の動きが日本で広まったことや燃料コストが上昇していることを考えれば、最も注目すべき発電法ではないかと私は考えていた。
今回、私たちは2箇所の火力発電所を訪れた。1箇所は石炭焚き発電所であるマプタプット火力発電所だ。この発電所は埋立地に立地しており、床下4.5メートルは海である。この立地条件を生かして海水を冷却システムに利用していた。他にも様々な工夫が見られ、石炭の粉の拡散が引き起こす空気の汚染を防ぐために石炭の山に水をかけて固めたり、高さ6mの防塵壁を作ったりしていた。これは同時に人体への被害も防いでいるそうだ。
この話を聞いて思い出したのは日本の電子力発電所である。放射性物質をコンクリート製の壁で閉じ込め、原子炉建屋を強固な岩盤の上に建てるといった備えがありながら、災害時には全く歯が立たなかった。発電所が人々の安全を脅かす存在であってはいけないと思う。発電所は人間の生活と共存していくものだという事実を改めて感じた。
人間の生活との共存という観点では、最も私の印象に残っているのは米の籾殻を使う発電法だ。しかし、石炭よりも圧倒的に環境に優しいものの、単価が高く必要な量が多いため実現は難しいのだという。環境に優しいだけでは取り入れられない。火力発電の未来のためにも実用化に向けて解決策を見つけるべきだろう。
3日目にはワンノイ火力発電所へ行った。この発電所はガス焚き複合型火力発電所である。3つのブロックに分かれており、2つは天然ガスを燃やして得られる蒸気で、もう1つは排気ガスを燃やして得られる蒸気でタービンを回し、熱を作り出す仕組みになっている。
コントロールルームにはテレビ局のようにモニターやスイッチが多くあり、異常があればスイッチが点滅する仕組みになっている。24時間体制で監視しているそうだ。またエンジニアの方に電気の管理をしている部屋を見せていただいた。機械のために湿度を除き低温に保つ必要があり、とても涼しかった。
様々な装置を見たが、一番印象に残っているのは新しい空気冷却システムだ。空気を冷やして出力する仕組みで、ガスタービンにエアコンの大きなものがついたイメージである。去年の8月に工事が始められたが洪水で2ヶ月遅れ、結局受け渡されたのは私たちが訪れる8日前の7月24日であった。基礎を築くところからスタートし、災害を乗り越えて今私の目の前に建っている。そこに人間の力強さを感じ、とても感動した。
今回の経験を通して私はエネルギーの未来について考えさせられた。CO2の排出量を増やさないバイオマスを燃料とする発電法、特定の発電法に依存する危険を無くす他の発電法との併設が、今後考えられる改良法だろう。併設によって互いの短所を補い長所を生かし合うことで、発電の可能性は大きく広がると思う。ただこれが最善の解決策ではない。未来を担う自分たちには、より良い発電の形を作る責務があるのだと感じた。