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トップ>オピニオン>陸前高田ふるさと再生の支援:千年を見据えて(後編)

オピニオン一覧

谷下 雅義

谷下 雅義 【略歴

陸前高田ふるさと再生の支援:千年を見据えて(後編)

谷下 雅義/中央大学理工学部教授
専門分野 都市工学、空間計量分析

本ページの英語版はこちら

1.はじめに
2.いま被災地で
3.行政の活動
4.陸前高田の歴史文化を生かす

以上、前編

 昨年末に訪問した際、復興計画は決まったが、「まだ言いたいことがいえていない市民がたくさんいる。ぜひそういう方々の声を聴く場をつくってほしい」という相談を受け、今年1月に2回「陸前高田の未来を語ろう会」が開かれた。また陸前高田出身の若者たちも「高田のこと語っぺ会新規ウインドウ」を開いた。

 これらの会の参加者から出てきた意見が、しごとやすまいの再生、津波防災そして「陸前高田の歴史文化を大切にしてほしい」というものであった(図1)。

図1 語ろう会・語っぺ会で出された意見のまとめ

 陸前高田では、まちごとに縄文の時代から古代・中世・近世を経て歴史文化が連続的に継承されてきており、また世界に誇れる歴史文化資産が数多く存在していることに気付かされた(図2)。

図2 陸前高田の歴史文化財分布図
(クリックすると拡大します)

気仙郡の郡家ないし官衙的施設があったとされる小泉遺跡(高田)そして中世の二日市(長部)、八幡(高田)、米ヶ崎(米崎)城館は、これから1、000年先の防災システムを考える上での拠点となる。
玉山金山(竹駒)や重倉金山(米崎)は、東大寺、育王山(中国)、平泉、そして今泉や高田松原ともつながる歴史をもつ。
広田・小友は縄文時代から海(津波)とつきあってきた「くらし」を学ぶ拠点となる。
氷上山は海からの眺めも美しいランドマーク、ベニヤマボウシなど希少な植物もある。
気仙川は砂金のみならず広田湾に恵みをもたらしてきた。
津波が到達しない矢作・横田は気仙川や内陸への陸路を通じて重要な交易拠点でありつづけた。また治水と向き合ってきた長い歴史をもつ。
そして江戸時代に入り、今泉宿(大肝入、鉄砲隊など)、高田松原・今泉松原がつくられる。今回の津波でも、大肝入の住宅は約7割が残り、また奇跡の一本松は、シンボルとなった。
この間に、貞観地震(869年)や慶長地震(1611年)など大津波を経験している。

 平川南先生(国立歴史民族博物館館長)は「陸前高田は、気仙郡の中心として古代~中世まで北方社会との重要拠点であり続けた。」と述べている。また陸前高田出身の畠山恵美子さん(明治大学/法政大学)は「気仙郡は古代から近世まで歴史的にアジールであった。古代、律令制の最前線の場所に最先端の技術の投入、制度の試行、人の投入がなされていた。」「陸前高田は、民俗資料の宝庫でもある。柳田国男先生はじめ多くの民俗学者が歩いた。民俗はその土地に生きる人々の暮らしそのもの。史跡と同じように大切にすべき。金、鉄、漆、養蚕、木炭に関わってきた山の民の文化、海とともに生きる海の民の文化、この二つが『陸前高田』の歴史と文化の基層。山間部の陸路は馬で、海と河川は船で、交易によって暮らしてきた。豊かな自然、鉱物資源、水産資源に恵まれた土地が昭和40年代まで経済を支えてきた。」と語る。

 そして「整った街並みが戻っても、文化財が残らない復興は真の復興ではない。それは、この土地の自然、文化、歴史、記憶の集積であり、陸前高田のアイデンティーだからです。」 と熊谷賢さん(陸前高田市学芸員)が述べている(朝日新聞2011年8月4日)。

 これらを踏まえ、私たちは、こうした歴史文化資産を拠点として整備するとともに、それらを<海・川・山>で関連づける(グリーンマトリクス)ことを通じて、防災、環境保全、観光・グリーンビジネスに寄与するふるさと再生の戦略を考えてはどうか?という提案を行っている(図3)。

図3 陸前高田「グリーンインフラ構想」と震災復興公園・緑地の展開
(クリックすると拡大します)

5.おわりに

 先日、三陸地方には「ギリスベ(ビ)」という言葉があることを知った。受けた義理にお返しをすること、という意味である。「先生、モノはいらないから、知恵を出してくれ」から私の支援活動は始まった。痛み、悼みの感覚が薄い、あるいは想像力の欠如した「善意の」ボランティアほどやっかいなものはないが、私たちの活動はそうなっていないか? 常に自戒をしながら、地域の方々の大地への想いを最も大切にした支援を心がけている。

 被災地は事業化という新しいステージに移行した。陸前高田の人口は被災前から約17%減少し、現在約2万人。明治22(1889)年より4千人以上少ない。インフラはできたが、住む人がいないという地域にならないよう、既存の公園緑地や農地・都市施設などの制度・枠組みを越えて、市民が自分たちで、この千年を超える歴史文化をもつ地域資源を持続的にマネジメントできる仕組みについても検討、提案していきたいと考えている。

 平川先生は715年に気仙郡が成立した可能性を指摘している。すると、2015年は気仙郡成立1300年にあたる。陸前高田の復興計画が市民に「誇り」を作り出すものであることを期待する。

謝辞:本稿の作成にあたり、数多くの陸前高田市のみなさん、畠山恵美子さん(明治大学/法政大学)、そして辻野五郎丸氏(修景社)ら「グリーン・インフラ研究会」、山本俊哉先生(明治大学)、宮城孝先生(法政大学)、神谷秀美氏(マヌ建築都市研究所)ら「4大学支援チーム」および後方支援組織「ふらっと」のメンバーから示唆をいただいた。記して謝意を表します。

参考文献・URL
お知らせ

中央大学では、4月27日(金)9:20-15:00多摩キャンパスCスクエアホールにて、春休みボランティア報告会を兼ねたシンポジウム「気仙沼・陸前高田とのぎりすび」を開催予定です。詳細は学生課までお問い合わせください。

谷下 雅義(たにした・まさよし)/中央大学理工学部教授
専門分野 都市工学、空間計量分析
石川県出身。1967年生まれ。
1992年東京大学大学院工学系研究科博士課程中途退学 博士(工学)
東京大学助手、東京大学大学院工学系研究科専任講師、中央大学理工学部専任講師・助教授・准教授を経て2008年より現職。
専門:都市工学、空間計量分析
現在の研究課題:自動車の外部費用と関連税制、地区計画・建築協定が不動産市場に及ぼす影響、歩行空間の生理的評価、公的空間のマネジメント組織など。