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トップ>教育>「探究マップ」で論証を組み立てる――俯瞰とメタ認知でAI時代を乗り越えよ――

教育一覧

齋藤 祐

齋藤 祐 【略歴

「探究マップ」で論証を組み立てる

――俯瞰とメタ認知でAI時代を乗り越えよ――

齋藤 祐/中央大学杉並高等学校国語科教諭
専門分野 国語教育、近現代文学

 中央大学杉並高等学校(以下、本校)で卒業論文指導を始めてから2017年度でついに14年目を迎えました。この実践についてはすでに2回、CHUO-ONLINEにて拙稿を掲載しています。

高校生のための論文アウトラインの作り方―付箋で「探究マップ」―(2015年6月)
高校生の卒業論文作成~問う力、推論する力を育む~(2010年8月)

 思い返せば、本校で開発した「探究マップ」を高等学校・国語科の指導ツールとして取り入れてから今年度でちょうど10年が経ちます。当初は、論文・レポートのアウトラインが組めない高校生が、どうしたら自分の文章の概略を組み立てられるようになるのかという課題に向かって、試行錯誤を繰り返しながら指導に当たっていました。しかし、ここに至ってようやく形になりました。これがおそらく完成形です。そこで、3度目になりますがCHUO-ONLINEにてご報告します。

 そもそも「探究マップ」は縦書きの原稿用紙の形態から発生したものなので、用紙の右側からスタートしていました。初期形の「探究マップ」における「問い」の位置は、右上にあったのです(上記URL参照)。しかし、現在高等学校に通っている生徒たちは今後、自分自身の文責で縦書きの文章を書くことが生涯でおそらく1回もありません。とすれば、「探究マップ」も横書きの仕様であるべきです。そこでようやく、書式の左右を反転し、横書きに対応させたのが3年前のことです。

探究マップver.12.0

 皆さんご存知のように、大学生でさえ、論理的で一貫性をもった論文を書くことは容易ではありません。しかし、本校の高校生は、ほぼ全員が論旨の一貫した長文を書きます。書けます。6000字です。高校生でも、きちんと訓練を積めば論理的な一貫性をもった論文が書けるようになるのです。

「探究マップ」とは、本校で開発したグラフィックオーガナイザーであり、A3サイズで、ちょうど75ミリ×75ミリの付箋が貼れるようになっています。

探究マップ

「探究マップ」の特徴はまず、左上の付箋番号①の「問い」と書いてあるところが、論証全体の大きな問題提起になっている点です。英文のエッセイライティングであれば、ここがイントロダクション、論文で言えば、序論に当たります。その一段下に、②と⑥の「具体的な問い」があります。これは、①の「問い」を分解したものです。その下には③④⑦⑧の欄に「根拠」として、具体的な場面や記述が入ります。

 そうすると、①のイントロダクションから入って、②~⑨の付箋をたどり、最終的な自分の主張を⑩の「答え」へとつないでいく、という流れになっていきます。順番をふまえると、ちょうどアルファベットのWのような形をたどります。

W型のアウトライン

 ポイントは、論証の抽象度が、タテ軸として揃っている、ということです。生徒に長めのレポートを書かせたことのある方はおわかりかと思いますが、ほとんどの生徒は、1000字以上の文章をひとつの構造体として作成することができません。はじめと終わりが、必ずといっていいほどねじれるのです。そこで、書く前にきちんと論証の構造を揃えた状態で整理させるというプロセスが必要になってきます。しかも、ここに付箋を並べることで、論証は自然と根拠から主張(答え)へと連なる、ピラミッド・ストラクチャを形づくります。

ピラミッド・ストラクチャ

 こうすることで、論点がきれいに整理されます。具体的な場面を根拠としながら考察を重ね、それらを複合的にまとめることによって、自らの読みとしての解釈を主張としてまとめてゆくのです。最終的に自分が言いたい「答え」に対して、根拠を踏まえた因果関係で論証を組み立てる「考具」(=グラフィックオーガナイザー)が「探究マップ」です。

 まずは大まかな問いを設定し(付箋番号①)、それを具体的な問いに分解して(付箋番号②と⑥)、根拠となる場面を取り上げ(付箋番号③④⑦⑧)、今度はその場面からの考察を導き出して(付箋番号⑤⑨)、最終的な自分たちの解釈を提示していきます(付箋番号⑩)。

「探究マップ」は、どんどん付箋を更新することに意味があります。付箋が1枚変わると全体の論証が変わりますので、常に部分と全体のバランスを取る必要があります。全体を見ながら部分の手直しをしていくというのが基本スタイルです。

 昨今、「答え」のない「問い」に対してさまざまな方法論が提案されていますが、そのほとんどは「マインド・マップ」の亜流にすぎません。しかし本家の「マインド・マップ」でさえ、思考を拡散させることができても収束させることができないという弱点を持っています。つまり、せっかくつかまえた「問い」を深く掘り下げることが難しいのです。

 これでは、新しい学習指導要領に明記されているところの「主体的・対話的で深い学び」を目指すことはできません。広い意味での探究学習において本当に必要なのは、ディテールにこだわり、1点を掘り下げ、その知見を他の分野に転用していくこと、さらには一般化していくことに他なりません。

「探究マップ」ならば、「問い」と「答え」の抽象度を保ちながら、付箋を移動させることで考察をどんどん深掘りしていくことができます。高校生が苦手なのは探究すべきテーマ自体をつかまえることではなく、つかまえたテーマに対して問うべき「問い」をぶつけ、そこを掘り下げていくことなのです。

 さて、3年次の卒業論文作成を通じて、本校の生徒たちは次のような振り返りを残してくれました。

  • 探究マップを使うことで、全体の流れを把握できたと感じる。各章の問いのつなぎ方等の、探究マップがないと気がつかないことに気がつくことができた。
  • これを見た他人が、内容を理解できるような探求マップが作れれば論文が書ける。論文を書く前に自分の考えを整理して理解するのにとても便利だと思った。
  • 筋道をたてやすい。結論を導く上で不足している部分を見つけやすい。実際に文章を入力するときにやりやすい。

 今後、生徒・学生の知のあり方が問われます。もはや、何かを「知っている」だけでは十分でなく、それをどのように「活用できるか」が重要なのです。すぐに役立つものはすぐに役立たなくなりますが、身をもって経験した事柄は、身体知としてアクティブ・ラーナーたるその人を支え続けます。学校という場にまだ存在意義があるとすれば、このような、中長期的に意義のある「学び方」をこそ、教えることができる場であり続ける以外にないのではないでしょうか。

齋藤 祐(さいとう・ゆう)/中央大学杉並高等学校国語科教諭
専門分野 国語教育、近現代文学
1975年生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。中央大学杉並高等学校兼任講師を経て、2005年より現職。三省堂高等学校国語教科書編集委員。NHKラジオ高校講座「国語総合」監修講師。主な発表論文に「カタストロフのあとを生きる―『神の子どもたちはみな踊る』と『風の谷のナウシカ』」(宇佐美毅・千田洋幸編『村上春樹と21世紀』2016年、おうふう所収)など。