シンポジウム<自動車>「自動車産業が見据える未来」 2014年9月19日(金) よみうり大手町ホール

2014年10月10日

 「未来貢献プロジェクト」のシンポジウム「自動車産業が見据える未来」(主催・読売新聞社、後援・経済産業省、日本自動車工業会、協賛・トヨタ自動車、本田技研工業、川崎重工業)が9月19日、東京都千代田区のよみうり大手町ホールで開かれた。ここではパネルディスカッション「2020年に向けた次世代の自動車産業戦略」「水素社会がやってくる」の模様を紹介する。

パネルディスカッション「水素社会がやってくる」

【パネリスト】
戸邉 千広氏(経産省資源エネルギー庁燃料電池推進室長)| 世界市場獲得目指す
吉田 健一郎氏(経産省電池・次世代技術・ITS推進室長 )| 2030年、次世代車7割に
柏木 孝夫氏(東工大特命教授)| 日本が初めて商用化
広瀬 雄彦氏(トヨタ自動車 技術統括部担当部長)| 走りも楽しむ環境車
守谷 隆史氏(ホンダ四輪R&Dセンター 第5技術開発室上席研究員)| 耐久性、コストが課題
原田 英一氏(川崎重工技術開発本部副本部長 技術企画推進センター長)| 水素の供給網を準備

世界市場獲得目指す

戸邉 千広氏(経産省資源エネルギー庁燃料電池推進室長)

 水素エネルギーはこれまで、産業用ガスやロケット燃料などの限られた分野で使われてきた。それが燃料電池の一般化で変わりつつある。

 日本では2009年、水素を使って電気を生み出す家庭用の定置型燃料電池「エネファーム」が市販された。そして、これから燃料電池を使った車が市場に出てくる。将来的に発電所でも使われれば、「水素社会」となっていく。

 4月に閣議決定したエネルギー基本計画には、電気や熱などの二次エネルギーの中で水素が中心的役割を担うと明記された。

 水素は地球上や宇宙空間にたくさんある。東京五輪・パラリンピックを「水素社会のショーケース」とし、エネファームなどの定置型燃料電池や燃料電池車を活用し、世界の市場を獲得していく。

 発電所での水素の利用が広がれば、大量の水素を調達するサプライチェーン(供給網)を構築する必要も出てくる。社会インフラ(資本)も変えていかなくてはいけない。

2030年、次世代車7割に

吉田 健一郎氏(経産省電池・次世代技術・ITS推進室長)

 自動車産業の出荷額は、製造業全体の2割を占める50兆円。就業人口も関連サービスを含めて500万人以上で、全就業人口の1割を占める。貿易収支では黒字を支える大きな柱で、高い品質や信頼性は世界中に知れ渡っている。この産業をさらに発展させていきたい。

 自動車産業が直面する課題は環境やエネルギーだ。現在の世界販売台数は約8000万台で、大半はエンジン車だ。2030年には燃料電池車や電気自動車、プラグインハイブリッド車などの次世代車がかなりの割合を占めるようになる。国内に次世代車が普及する素地を作り、日本の自動車産業が世界をリードできる政策が重要だ。

 政府は10年に「次世代自動車戦略」をまとめ、国内の乗用車販売市場に占める次世代車の割合を、30年に最大70%とする目標を掲げている。

 日本企業は燃料電池車で世界をリードする立場だ。14年度にも世界に先駆けて国内市場に投入される。市場をいち早く作るという意味もあり、非常に良いことだ。

日本が初めて商用化

柏木 孝夫氏(東工大特命教授)

 水素は、地球上に水という形で広く存在しており、人類に共通して与えられたエネルギーだ。原油のように偏在化していないため、エネルギーを巡る国家間の争いも減るだろう。

 燃料電池を使った次世代自動車がまもなく発売される。かつて燃料電池車は1台1億円とも言われたが、研究開発が進み700万円ほどで販売される。

 燃料電池を商用化した最初の国は日本だ。天然ガスから水素を取り出し、電気に変換するエネファームという商品で、販売台数は10万台を超えている。日本では実は水素、燃料電池は身近な存在だ。

 ただ、インフラが整っているハイブリッド車でさえ、普及には15年の年月がかかった。インフラのない燃料電池車の普及には長い時間がかかることが予想される。

 そのためまずは、東京五輪・パラリンピックにおいて、東京を中心に水素・燃料電池社会が実現した姿を世界に披露したい。

走りも楽しむ環境車

広瀬 雄彦氏(トヨタ自動車 技術統括部担当部長)

 燃料電池車を開発する目的は、誰もが自由に、より快適に、安心に車を使う社会の持続のためだ。

 初代プリウスはようやく数百万台の規模に成長した。ただ、世界に何億台とある車から見れば、ほんの一部。次世代車の普及には時間がかかる。

 燃料電池車以外にも、次世代車として電気自動車やプラグインハイブリッド車などが挙げられる。いずれはそれぞれの特性に応じてすみ分けが始まるだろう。

 燃料電池車の特徴は、エネルギーの多様性や二酸化炭素を排出しないというメリットのほかに、楽しめる車だということだ。力強い加速力がありながら、静かで走りやすい。だから燃料電池車(FCV)は「Fun & Clean Vehicle」(乗って楽しく環境にも優しい車)ともいえる。災害時には電気を取り出せる「究極のエコカー」でもある。

 子供たちに持続可能な社会を受け渡すために、自動車会社としても努力する。皆さんも一緒に夢を見てほしい。

耐久性、コストが課題

守谷 隆史氏(ホンダ四輪R&Dセンター 第5技術開発室上席研究員)

 国際的な合意で、2050年に現在の二酸化炭素排出量を80%減らすことが決まっており、抜本的なエネルギー利用の転換を迫られている。また近年、エネルギー価格が高騰している。今後、原油など既存エネルギーの埋蔵量が減少すれば、価格はさらに高騰するとみられ、エネルギーの安定供給が問題になる。

 これをどう解決するか。その解答が、水素を燃料とする燃料電池車だと位置づけ、開発してきた。

 燃料電池車の進化を振り返ると、まず02年12月、ホンダはトヨタ自動車とともに、世界で初めて燃料電池車を開発した。低温地域でも対応できる新モデルを08年に出した。航続距離は、進化するごとに15%~25%伸ばし、実用に堪えられる燃料電池車の市販にこぎ着けた。

 市販後の課題は、さらなる耐久性、品質保証、コストの低減だ。燃料電池車の生涯コストを、早期に現在のガソリン車と同等にすることが求められる。米ゼネラル・モーターズと協業し、20年に新モデルを投入していく予定だ。

水素の供給網を準備

原田 英一氏(川崎重工技術開発本部副本部長 技術企画推進センター長)

 燃料電池車など水素をエネルギーとする水素社会の実現を目指す上で、水素の供給インフラ(社会資本)はこれからの課題だ。水素を生成し、供給するインフラ網を作る必要があり、現在、川崎重工業では資源国との間で準備を進めている。

 水素の生成では、褐炭という未利用の安価な石炭から水素を生成し、船で日本に運ぶ方法を検討している。水素の生成には約100通りの方法があるといわれるが、褐炭の活用が最も安価な方法だ。

 豪州には、水素に変換すると日本の電気使用量の240年分に相当する褐炭が眠る炭鉱があるなど、有望な地域だ。

 水素を日本に運ぶタンカーについても開発を進めている。

 水素を長距離輸送するため、極低温で液化するのだが、これまで液化水素を大量に輸送した事例はなく、国際的な安全基準が策定されていない。そのため、日本政府は豪州側と協議し、日豪間で試験的に水素を輸送する準備を進めており、川崎重工業もタンカーの開発に取り組んでいる。

燃料電池車

 燃料の水素と空気中の酸素を反応させて電気を起こし、モーターを回して走る車。走行中に排ガスを出さず、水しか出さないため、「究極のエコカー」と呼ばれる。水素の充填(じゅうてん)時間は数分で完了し、1回の充填でガソリン車並みに500キロ・メートル以上走れる。これに対し、蓄電方式の電気自動車は、充電時間が長く航続距離が短い。

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