シンポジウム<自動車>「自動車産業が見据える未来」 2014年9月19日(金) よみうり大手町ホール

2014年10月10日

 「未来貢献プロジェクト」のシンポジウム「自動車産業が見据える未来」(主催・読売新聞社、後援・経済産業省、日本自動車工業会、協賛・トヨタ自動車、本田技研工業、川崎重工業)が9月19日、東京都千代田区のよみうり大手町ホールで開かれた。ここではパネルディスカッション「2020年に向けた次世代の自動車産業戦略」「水素社会がやってくる」の模様を紹介する。

自動車の未来を語り合ったパネルディスカッション(9月19日、よみうり大手町ホールで)

パネルディスカッション「2020年に向けた次世代の自動車産業戦略」

【パネリスト】
伊吹 英明氏(経済産業省自動車課長)| 技術開発 競争と協調
大聖 泰弘氏(早大理工学術院教授)| ビッグデータ活用を
松島 憲之氏(三菱UFJモルガン・スタンレー証券 リサーチアドバイザー)| 「グローカル」を意識

技術開発 競争と協調

伊吹 英明氏(経済産業省自動車課長)

 これから10年から20年、世界の自動車市場は新興国を中心に広がる。自動車会社は、先進国と新興国で同時並行的にモデルを開発して投入するグローバル戦略が必要となる。様々なエンジン車や電気自動車、燃料電池車などを作ることになる。

 利用者の高齢化や渋滞への対策にも取り組まなければならず、自動車と道路上の情報機器の間で交通情報を送受信する高度道路交通システム(ITS)などの開発も進めなければならない。

 全てを1社でやり切るのは大変だ。各社が競争して開発する部分と、協調する分野が出てくる。次世代の電池やモーター、軽量化素材、自動運転技術などを効率的に開発するために産学官が協力していく。

 自動車産業はすそ野が広く、部品産業など地域経済を支えている企業もたくさんある。自動車会社だけでなく、部品産業も一緒に発展して競争力をつけていかなければならない。政府も、自動車会社が海外生産や販売、部品調達を迅速にできるよう、投資規制や関税などの課題を解決していく。

 国内市場や国内生産が減少する懸念もある。各社の経営判断だが、近年は消費地で生産する傾向が生まれている。これ以上、国内生産が減ると、事業を続けられない下請け企業も出てくる。国内生産1000万台を維持するためには、国内市場を活性化させないといけない。そこで、自動車関連の税負担を下げることも必要だと考えている。

 自動車産業は、グローバルに見たら成長する産業だ。油断さえしなければ、日本の企業は十分にトップを張っていける。2020年の東京五輪・パラリンピック大会は、未来のモビリティー(移動手段)の姿を世界に見せる絶好のチャンスでもある。

ビッグデータ活用を

大聖 泰弘氏(早大理工学術院教授)

 自動車生産の現場では、一つ一つの部品を丁寧に作り、それを丁寧に組み立てている。これは日本の産業力の一つの基盤をなしている。国内工場を「マザー工場」として生産の根幹とし、モノ作りを日本の中で育て、根づかせ、またそれを海外展開していかなければならない。

 大学は「技術の種」を持っている。それをどう使うかが重要だ。我々はこれまで、個別の企業と組んでやってきた。しかし、共通にやれるところは協同組合を作ってやる雰囲気も出てきている。各企業で重複する研究をやるのは、時間と人材、コストの面で無駄だ。一緒にできる部分は情報交換し、うまくニーズにつなげていきたい。

 それには、産学が対話をしながらテーマを探すことが重要だ。我々は、社会人や客員研究員などをたくさん受け入れており、そのような方々との交流をどんどん深めていきたい。

 車については、車それぞれが持つビッグデータが役立つ点を強調したい。カーナビゲーションも進んだものになると、渋滞を避けて案内してくれるものがある。車載カメラの画像や走行データなど、車がそれぞれ持っている情報を快適性や利便性だけではなく、公益財として使うこともできる。こういうビッグデータは、道路政策や環境政策、大気汚染の改善などにも必ず役立つので、国もしっかりと取り上げてほしい。

 また、世界的規模での燃費基準の強化も2020年ぐらいにある。それをステップに二酸化炭素をどれぐらい減らせるかが大きな課題だ。先進国が二酸化炭素を減らさなければ、気温の上昇を抑えることはできない。次世代車を含む、車の改良や利用のあり方を改善できれば、削減は進むと思っている。

「グローカル」を意識

松島 憲之氏(三菱UFJモルガン・スタンレー証券 リサーチアドバイザー)

 自動車業界は現在、100年に1度の大転換期に入っている。

 これまで車は、ガソリンエンジンを中心に、鉄で作られた工業製品だった。しかし、今やボディーは新素材に、動力は電気や水素にシフトしようとしている。

 日本の自動車産業の技術開発力は世界のトップに位置しているが、技術が突然、革新しないとは限らない。画期的な次世代の蓄電池が発明されれば、電気自動車が急速に普及するかもしれない。そうなれば、日本勢の優位性は失われる。企業間は常に競争状態にあるが、不採算の先行技術を産官学共同で研究することのメリットは大きい。

 これは一企業の問題ではなく、国家戦略として補強していくべきだ。

 収益の高い地域についても移行が進んでいる。これまでの先進国中心から、人口の多いアジアや中南米、アフリカなどの新興国に移っている。今後の生き残りのキーワードは、新興国での低コスト車の生産競争だ。

 部品の共通化でコストを削減する一方、それぞれの地域で売れるよう際立つ個性も発揮した「グローバル+ローカル=『グローカル』」な車の開発が必要だ。

 ただ、海外生産が進むと、国内生産の減少という課題が残る。そのためにも、技術革新を進める過程で生まれる環境技術や安全技術など付加価値の高い技術の生産を国内に残していくことも国家戦略上、重要なポイントだ。

 これまで、車は「走る」「止まる」「曲がる」という基本性能が製品の競争力だった。今、新たに「つながる」という情報機能が付加されてきた。道路の混雑状況など、走行中の車からは様々な形でビッグデータを収集、活用できる。車と情報通信が思わぬコラボレーション(協力)を生み出すかもしれない。

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