2015年1月8日
特別講演
世界に先駆けて進化する日本のエネルギー
柏木 孝夫氏(東京工業大学 特命教授/東京都市大学教授)
これからのエネルギー政策は、日本の経済成長モデルとリンクしてくると思います。
例えば、国土交通省が掲げる国土形成計画では、「地域の多様性」、「都市間のネットワーク化」、「国土強靱化」の3つがキーワードとなっています。これをエネルギー政策に照らしてみると、化石燃料への依存度が高まる現在、太陽光や風力など地域のローカルエネルギーの積極活用が求められており、まさに「地域の多様性」と符合します。そして、エネルギーとネットワークの一体化によるスマートハウス、スマートシティの普及拡大は「都市間のネットワーク化」に、非常時を見据えた分散型電源の推進は、「国土強靱化」へとつながります。今後の国土形成はエネルギー政策を加味したスマートコミュニティ形成へと向かうことになるでしょう。
また、HEMSと太陽光発電、水素燃料電池、あるいは蓄電池やEV、FCVなどとの連携により需要家側での発電・売電が可能となり、電力の使用量や売電量を自動制御できるようになってきました。これに伴い、電力の小売全面自由化が始まれば、電力のリアルタイム市場が形成され、キャッシュの流れを生むようになるはずです。
さらに、HEMSに蓄積された家庭の電力情報の利活用も可能となるため、エネルギー関連以外のサービスやビジネスモデルの創出も期待されます。こうした付加価値は、住宅価格や地価の下落を抑止する力になります。これらをひとつのパッケージとして一体化し、海外へ輸出する。まさに日本が世界に先駆けて取り組むべき経済成長モデルであると私は考えています。
パネルディスカッション「世界をリードする日本が描く水素社会」
【パネリスト】
- 星野 昌志氏(経済産業省 資源エネルギー庁 燃料電池推進室 室長補佐)
- 「水素社会の実現に向け取り組みを加速」
- 大平 英二氏(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 燃料電池・水素グループ主任研究員)
- 「三位一体の取り組みでFCVを社会へ」
- 斎藤 健一郎氏(水素供給・利用技術研究組合(HySUT)理事長)
- 「多様な企業が結集し水素インフラを整備」
水素社会の実現に向け取り組みを加速
星野 昌志氏(経済産業省 資源エネルギー庁 燃料電池推進室 室長補佐)
水素エネルギーは、従来から産業ガスやロケット燃料などに利用されてきましたが、燃料電池技術によって本格的な利活用が進みつつあります。燃料電池は、高い発電効率を誇ると同時に、電気とともに生じる熱を有効活用することで、更に高いエネルギー効果を得ることが可能です。
2009年にはエネファームとして世界で初めて家庭に導入され、すでに普及台数は10万台を超えています。
水素は、将来の二次エネルギーの中心的役割を担うことが期待されています。海外の未利用エネルギーをはじめ、多様な原料から作り出せるのでエネルギー安全保障の向上につながり、利用段階でCO2を排出しないなどの利点があります。また、燃料電池分野における日本の技術は世界をリードしていることから産業政策の観点でも意義は大きいと考えています。
水素社会実現に向け、需要に見合った水素の安価で安定的な供給を行うため、水素を製造、貯蔵、輸送、利用まで一気通貫したサプライチェーンの構築が重要となります。まずは市場投入がなされたエネファームやFCVの活用を大きく広げ、世界に先行する市場を獲得し、その後、水素需要を拡大し水素発電を本格化、さらには2040年頃を目処にCO2フリーの水素供給システム確立を目指します。
FCVの普及については、低コスト化やインフラの整備が求められます。2025年頃に、同車格のハイブリッド車と同等の価格競争力を有するa車両価格の実現、2015年度内に水素ステーションを100ヶ所程度整備することなどを目指します。
今後も多様な技術開発や低コスト化への支援を含め、水素社会の実現に向けて取り組みを進めていきたいと考えています。
三位一体の取り組みでFCVを社会へ
大平 英二氏(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 燃料電池・水素グループ主任研究員)
私たちNEDOは、経済産業省の政策のもと、新技術の社会への導入のため、民間企業などと連携しながらプロジェクトを進めていく組織です。
新しい技術の普及には、「技術開発」、「市場環境整備(規制、基準づくりなど)」、「社会実証」を三位一体で行うことが重要であろうと思います。2009年に販売を開始したエネファームも、それ自体の研究開発に加え、家庭への設置のための規制適正化や全国の家庭で3500台の実機を投入してデータを取得した実証事業を経て、社会実装につなげてきました。
FCVや水素ステーションの研究開発は1990年代から進められてきました。その後、2000年代初頭には公道での実証事業がスタート。実環境下での性能評価を行うとともに、課題の抽出、研究開発へのフィードバックがなされてきました。
また、車両の追突試験や燃焼試験といった安全に関する試験も実施。世界に先駆けたFCVの安全基準制定につながりました。一方、水素ステーションについても安全確保に向けた開発が進められるとともに、その設置や運営に関する様々な規制の見直し、基準づくりといった取り組みが進められました。ここでは実証事業でのデータも活用されています。
そしていよいよFCVの本格的な導入が始まります。本格的な普及に向け、燃料電池の更なる高性能化、水素ステーションの低コスト化といった技術的な課題に取り組むことはもちろんのこと、まだまだ水素エネルギーには不安を抱く方も多いため、安全に対する正しい情報発信も並行して進めることが肝要と考えております。
多様な企業が結集し水素インフラを整備
斎藤 健一郎氏(水素供給・利用技術研究組合(HySUT)理事長)
水素社会の実現とは、従来の石油やガス、電気などに加え新たにもう一つエネルギーインフラを作ることになります。水素ビジネスを進めるためにもそのインフラ整備が急務となります。そこで平素は競争関係にある企業が垣根を越えて集まり、ビジネス環境づくりのために水素供給事業とFCV普及を目指す民間各社によって2009年に設立されたのが、私たちハイサット(HySUT)であります。
ハイサットの取り組みは、各地の空港に水素ステーションを設置し、都心と空港間で走行実証を行った水素ハイウェイからスタートしました。主に水素における品質や計量、安全・安心といった、よりビジネスに近い領域で実証研究を行っております。
特に水素ステーションにおいては、様々なタイプの実証を通じ、より理想的なステーションの形を追求してきました。例えば移動式のステーションは、供給量は少ないもののステーションの建設場所確保が困難な現状では有効活用が可能です。製油所などで製造された水素を、ガソリンスタンドに併設した水素ステーションで供給するタイプなら、既設のエネルギーインフラを利用することができます。また、都市ガスやLPガスなどを水素ステーションに運び、その場で水素を製造するといった既存インフラの活用方法もあり、用途や環境に合わせたステーションの実証を進めてきました。
また、水素パイプラインによる供給実証や家庭用燃料電池への利用実証なども実施しておりますが、今後は水素に親しみをもっていただけるよう一般の方々への普及啓発活動なども積極的に行っていきます。