健康と病気の間にある「未病」~大腸から全身の健康を考える~
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2019年11月5日

 本社が取り組む未来貢献プロジェクトのシンポジウム「自動運転サービスが高齢社会を変える」(読売新聞社主催)が9月30日、東京都千代田区のよみうり大手町ホールで開かれた。有識者の基調講演や自治体、事業者による事例紹介の後、自動運転の可能性や課題、今後の展望を巡ってパネルディスカッションが行われた。(パネルディスカッションのコーディネーターは高橋徹・読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員)

主催:
読売新聞社
後援:
国土交通省、特定非営利活動法人ITS Japan

基調講演

中山間部で高い期待

大谷 泰夫氏

東京大学大学院工学系研究科教授 原田 昇

 高齢社会の議論で、「きょういく(=今日行くところがある)」と「きょうよう(=今日する用事がある)」が大事と言われる。社会とのつながりがある人ほど健康で長生きするからだ。自動運転サービスの提供は、きょういく、きょうようを生み出しやすい環境を作る。

 中山間地域では、全国の10年先を行く(ペースで)高齢化が進んでいる。車を運転できない高齢者が増え、公共交通も衰退している。家から出なくなり、閉じこもってしまう。

 スーパーや病院、銀行など、生活を支える施設が「道の駅」にあると、都合が良い。そこに自動運転車を走らせれば、道の駅は便利になるし、人と交流する場にもなる。

 こうした実証実験で利用者の反応を聞いてみると、自動運転車への信頼感は、乗る前は5割程度だが、乗ってみると7割ぐらいに増える。急ブレーキがかかったので、手すりやシートベルトがないと怖いといった声もあり、改善点もある。

 自動運転を社会に定着させるためには、自動運転に対応した道路空間、基準の整備が必要だ。自動運転サービスの実装が高齢社会を変えるよう、関係者の協力をお願いしたい。

事故起きにくい車を

三菱総合研究所営業本部副本部長 杉浦 孝明

 自動運転には二つの側面がある。一つは、前の車に自動でついて行く追従機能や自動ブレーキのように、「走る・止まる・曲がる」機能が市販車で進化するということ。もう一つは、ゴルフカートや大型バスのような車が特定の道路、空間で自動走行し、地域の足になるということだ。

 三菱総合研究所は、自動追従機能は2020年に普通車の半数、30年にはほぼ全てについていると予測している。長距離ドライブの肉体的な負担は軽減されるだろう。

 ただ、高齢者の事故は心配だ。自動車各社はミスによる事故をなくす取り組みをしており、アクセルとブレーキの踏み間違い防止機能も普及している。事故が起きにくい車をうまく使い、外出機会を増やしてほしい。

 地域交通の面で、特定のルートを走る自動運転型の公共交通、カーシェアリングが日本の社会に入ってくると、都会と遜色のない便利な暮らしができるようになる。

 駅や空港、病院、商業施設などを結ぶ手段として自動運転バスなどを活用すれば、都市機能が向上する。オフィスや工場などを誘致できれば、自動運転バスの運用コストを負担できるようになる。

事例紹介

外出しやすいの声

北海道大樹町長 酒森 正人

 大樹町は、公共交通としては帯広市と結ぶ路線バスだけという交通過疎地。5~6月に自動運転サービスの実証実験を行った。ルートは、道の駅から市街地、医療施設などの循環と、市街地から遠隔地を結ぶ片道の二つ。高齢者の移動と、農産品など貨客混載による物流の支援が目的だ。

 利用者の75%が60歳以上で、「足が悪くなって控えていた外出が、しやすくなった」などの声が寄せられた。100~200円の料金に対する不満はなかったが「事前予約が必要なのは不便だ」との声もあった。自動運転バスの整備を進めたい。

北海道大樹町で行われた自動運転バスの実証実験

カートで事故なし

熊本県芦北町議会事務局長 長崎 十三男

 芦北町は熊本県南部に位置し、周囲を山と海に囲まれた中山間地。高齢化率が約40%と熊本県の中でも非常に高い。高齢化に伴い、自動車免許の保有人口が減少しており、コミュニティーバスが町民の貴重な足となっている。

 路面に埋設した電磁誘導線に沿って、カートが運行する自動運転の実証実験を行った。後続車の追い越し時など手動運転が必要になることもあったが、事故はなかった。60歳以上の7割が「自動運転の導入が外出機会の創出につながる」と回答した。導入を検討する必要があると考えている。

100%の安全保証は…

みちのりホールディングス代表取締役CEO 松本 順

 東北や関東でバスやモノレールなど車両約2400台を運用する事業者として、自動運転技術の活用について研究を続けている。専用道でBRT(バス高速輸送システム)を使った路線バスと、中山間地などで電磁誘導線を使ったカートの実証実験を行っている。

 ただ、バスの運転席に運転手がいない世の中が来るのは、だいぶ先になるだろう。人工知能(AI)やセンサーの精度が高まっても、100%の安全を保証するのは簡単ではない。スペック(性能)が低くても、技術的に信頼があるものを早く実用化する方が良いと思う。

パネルディスカッション

乗る人のニーズは カーライフ楽しく

天野氏

池田氏

<自動運転と高齢社会>

天野肇・ITS Japan専務理事 自動運転の実証実験は世界中で行われている。いかに安全に走らせるかという検証から、実際に人やモノを運ぶ運用面の検証へと移りつつある。実際に乗る人が何を求めているかを確認することが重要だ。

池田豊人・国土交通省道路局長 今年の春には(高齢者などが関与した)痛ましい交通事故が相次いだ。全国の幼稚園、保育園の周辺の道路の安全点検や、安全運転サポート車の普及などに取り組んでいる。高齢者の移動手段の確保や、ドライバー不足といった問題もある。こうしたニーズが、自動運転の実現を後押しするのではないか。

雄谷誠祐(おおや・せいゆう)・ヤマハモーターパワープロダクツ取締役 ヤマハでは長年ゴルフカートで培ってきた技術を利用し、自動運転車の開発を進めている。観光地や離島、中山間地などを走る中で、乗車するためのステップが低く、椅子に深く腰掛けなくていいことなどが、高齢者にとって使い勝手が良いということが分かった。

吉田由美・モータージャーナリスト 最近、「高齢ドライバー=危険」というイメージが世間に広がっているのは残念だ。事故件数は若年層で多い。年齢で決めつけないことが大事だ。高齢者になったときに「カーライフ」を楽しく送る道を閉ざされないよう、車の安全技術、道路状況ができるといい。

「安全で安く」が課題 国と市町村 連携を

雄谷氏

吉田氏

<自動運転による中山間地の課題解決>

吉田 車を運転している人は今まで通りの生活ができるし、運転していない人は行動範囲が広がるという期待が感じられる。ぜひ近いうちに実現してほしい。導入にはコストがかかるが、メーカーと政府の努力で地域の負担を少なくしてほしい。

池田 高齢者を中心に、移動手段を確保することへの期待がすごく大きい。導入するエリアを決めて走らせるという方向で進めれば良い。時速20~30キロ・メートルで走る車が優先されるエリアについて、地域で合意形成をするというイメージだ。

雄谷 安全で安く、という課題がある。シンプルなモノづくりの一方で、技術的な高度化も必要で、いろいろな葛藤がある。中山間地といっても、場所や状況によって課題も変わってくる。それぞれのニーズを拾い、車両開発に少しずつフィードバックさせたい。

天野 中山間地域では、ドライバーは運転に加え、お客さんの支援などをすることでサービスが成り立っている。ドライバーがいなくなれば、代わりにボランティアが必要になるかもしれない。自動運転で便利になる面と負担が増える面をてんびんに掛け、地域で合意形成することが重要だ。

持続可能なシステムという観点では、お金が最大の課題だ。運賃収入では賄えないし、自治体の交通関係の予算は少ない。健康保険や介護保険が目指している成果の一部を交通で得られるならば、所掌横断的なお金の使い方を考える必要がある。

<最後に>

天野 大樹町の自動運転バスに乗ると、町民同士の会話が活発で「走る井戸端会議場」だと感じた。暮らしの豊かさを求めるという側面もあると思う。

雄谷 自動運転は、AIが搭載されたような高度なものがあるわけではない。そこに向けて技術を進歩させるが、サービスとして人を変えていくところがまだあるのではないか。いろいろな場面で、実装に向けてチャレンジする。

吉田 自動運転バスでは、高齢者や体の不自由な人の乗り降りを手助けする運転手がいなくなる。周りの人が手を差し伸べることで、地域の連帯感や見守りにつながるのでは。

池田 自動運転サービスは「公設」が大事になる。車や磁気誘導など、安全のための設備に国費を入れていく方向にしないと、全て地元でやるのはなかなか難しい。国や市町村が一緒に考えないといけない。

講演資料はこちらからダウンロードできます。

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