Society5.0で変わるあなたの暮らしと仕事 2017年12月2日(日)アクロス福岡

2018年1月31日

基調講演1

 AIやデータを巡る戦いにおける重要なファクターが三つあります。まず、デバイス・領域を超えた様々なビッグデータがあり、幅広い用途に使えるということ。二つ目は、それを処理する圧倒的なデータ処理を実現する技術とコスト競争力、三番目はこれらにかかわる人材、すなわち質と量で世界レベルの 情報系サイエンティストとICTエンジニアです。しかし、現在、日本は勝負になっていません。データ量は米中に1桁以上負けていますし、データ処理コストはアメリカの5から10倍、中国とは数十倍の違いと言われています。ビッグデータ系の技術、深層学習技術のプレゼンスも低い。エンジニアも情報科学系のサイエンティストも全く不足しています。根底から勝負になっていないのが現状なのです。
 希望がないわけではありません。産業革命を俯瞰すると、まず新しいエネルギーと技術が生まれる100年余り(フェーズ1)、次にエンジンなどが小さくなり自動車や家電が生まれ応用されていく時代(フェーズ2)、最後にそれらがつながりあってエコシステムとして構築されていく時代(フェーズ3)に分かれます。最後の段階で生まれたものの1つがインターネットです。日本は鎖国していたため、フェーズ1には関わっていません。それでも戦争を経て、フェーズ2では多くの分野でぶっちぎり、最終的にはそれまで誰も見たことのないような複合的な系である新幹線やファミコンなどで世界を変えました。
 問題はフェーズ3の最後に重なるように、新しいデータやAI系のゲームが始まったことです。Yahoo! JAPANでさえ20年以上経過していること、ビッグデータ技術、深層学習技術によるこの何年間のブレイクスルーを考えると、このゲームのフェーズ1は恐らく終わりに近付いています。次にはすべてのものがスマート化して便利になる時代、フェーズ2がやってきます。また、フェーズ3的にあらゆるものとサービスがつながりあってインテリジェンスネット化します。このフェーズ2、フェーズ3が勝負なのです。こここそが日本の頑張りどころだと思います。

 この段階で大事なのは先ほども見たように「妄想」、夢を描く力なんですが、この点に関しては日本人は3歳ぐらいから(コミックやアニメで)半ば強制的にエリート教育をしているようなものです。映画「シン・ゴジラ」でスゴく格好のいい官房長官代理のせりふに「この国はスクラップ&ビルドでのし上がってきた。今度も立ち上がれる。」とあります。本当にその通りだと思います。
 このところ日本でよく言われる話に、既存の延長のモノづくりを追求すれば勝てる、日本で生まれる課題を解決すれば繁栄できる、大企業を励ませば新しいゲームでも仕掛けられる、みたいな話がありますがほんとうのところどうでしょうか?
 ホンダのF1参入時のエンジンを大学卒業後たった4年で開発し、世界で初めてマスキー法による世界一厳しい排ガス規制を満たした奇跡のエンジン、CVCCを開発したホンダの伝説的エンジニア、入交昭一郎さんに話を聴いたことがあります。CVCC技術をフォードに技術供与してはいたものの、フォードの車を見てこんなモノづくりがいつになったら俺たちにできるのか、出来る気がしない、と話されていたそうです。少なくともモノづくりに関して明らかに負けていた、15年は差があったと。当時の日本は排ガス垂れ流し、公害だらけの時代です。そこで世界一厳しい排ガス規制を乗り越えて、世界レベルで課題を解決したから、モノ作りでは負けても技術革新でゲームを変えたからホンダが勝ったわけです。しかも当時は老舗の大企業ではなく、若い才能が集まった町工場ですよ。つまりいわゆる言われている話の多くは都合の良い嘘っぱちなのです。日本のかつての勝因に対する正しい理解が必要です。
 ディープラーニング、深層学習というアルゴリズムが何にでも使えるAIみたいに言われることがありますが違います。いま我々が話をしているAIとは、非常に速いコンピューティング環境に自然言語処理や機械学習のアルゴリズムを突っ込んで膨大なデータ、特定目的での厖大な経験でトレーニングしたものです。そうすると何らかの特定用途のAIができます。なので、データとAIは表裏一体なのです。
 データが21世紀の原油である、などと言われることがありますが、これまでのリソースとは全く違うので値付けが困難です。なぜだかわかりますか?たとえば、皆さんの持っているスマートフォンから活動データがとれますが、これを見ていると走っているとか、歩いているとかが分かります。それだけでなく、この行動パターンが同期している人をつなぐと、これがなんと見事に人間関係に合致します。単なる活動量計のデータから誰と誰が仲がいいかまで分かってしまうのです。衝撃的です。また、歌詞を自然言語処理技術で解析すると、矢沢永吉とハウンドドッグの歌詞がそっくりで、郷ひろみまで似ていることが分かります。普通にはまず気づかないことです。

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