Society5.0で変わるあなたの暮らしと仕事 2017年12月2日(日)アクロス福岡

2018年1月31日

基調講演1

データ×AIは世の中をどう変えるか?

データとAIを使い妄想を形にする

安宅 和人氏(ヤフー株式会社チーフストラテジーオフィサー(CSO))

 囲碁の世界チャンピオン、イ・セドル、柯潔が相次いでDeepMind社の人工知能囲碁ソフト「AlfaGo」に負けたことは碁における人類の敗北を意味します。二度と我々が本気のキカイに碁で勝つことはないでしょう。
 産業革命が18世紀後半から200年余り続き、かつて我々の労働のほとんどを占めていた肉体労働や手作業が消え去りました。今、我々が何をやっているかというと大半が情報処理系の活動です。例えば車の運転でも膨大な状況判断をしています。これらがデータ処理、コンピューティングパワー、AI的なアルゴリズムなどによって解き放たれる瞬間に来ています。5年~10年のうちにほぼ全ての産業がデータ×AI化することはほぼ確実です。100年前から一見同じデザインの服を売っているリーバイス社でも感圧繊維を織り込んで、半ば、袖がスマホ化したGジャンを発売します。道案内をしてくれる、音楽の再生操作ができるなど大変便利です。小売業でも店舗そのものが知性を持っているごとく、商品を持って出るだけで、的確に何をいくつ買ったのかキカイが把握し、精算される店がすでに実現しています。もっとも古い産業の1つの農業でも、キャベツなどの野菜を垂直に植えLEDで照らし、膨大なデータを使って非常に効率的に高密度で育てることが実現しています。
 現在の産業の多くは「ヒト、モノ、カネ」ですが、「ヒト、データ、キカイ(AIやIoT、ロボティクス)」に移行していきます。2016年のノーベル化学賞は「分子マシンの設計と合成」が受賞しました。ものづくりは目に見える世界という時代は、もうすぐ終わります。アクチュエーターは分子レベルで造れるようになります。さらに大きな変革も起きていて、2017年の夏には人間の胚の遺伝子改変に成功しました。デザイナーベビーは、もはや「やるかやらないか」を論議する段階に来ています。

 1953年のワトソンとクリックによるDNA構造解析の意味は、本質的に生命情報の本体はデジタルだということを明らかにしたことです。我々の遺伝情報は4進法で記録されているんですね。この視点で見れば、生命はデジタル—アナログコンバーターと呼ぶべきものですが、デジタル革新の今、生命とデジタル技術がつながる瞬間に生きているのではないでしょうか。
 もうひとつ面白い動きは、世界の経済的中心のシフトです。過去数百年間、欧米に移っていたのが、再びアジアに急速に戻りつつあります。恐らく、今のままのトレンドが続けば、実質的に中国があと何年かで世界1位に戻ります。中国語が世界語のひとつに戻ります。かつての覇権国家がいずれもそうであったように、中国人の多くは英語を使うのを辞めるでしょう。なんと、すでに中国では英語教育の是非の議論が始まっています。
 過去の産業革命を振り返ると、20世紀直前の2000年にニューヨークは馬車ばっかりだったのが13年後にはみんな車になっています。T型フォードの発売は1908年ですから、たった5年でこうなったわけです。今の変化は、さらに強烈な幾何級数的なものです。なかばAIを作るのが存在理由であるグーグルの共同創業者セルゲイ・ブリンでさえ、現在のAIの進歩は速すぎて驚愕していると話すほどです。私たちは世の中の変化は縦軸を対数軸にして考えていくべきです。
 実際に色々な変化が起きています。世界事業価値ランキングのトップ10を見ると、10年前は石油メジャーかメーカーで、10位にトヨタが入っていました。2017年では、上位は軒並みデータやAIを使い倒している企業で占められています。日本のトップは47位のトヨタで、企業単位で見ると、中国はおろか韓国にも負けています。
 これらの新しい系企業に共通するのは、利益に比しての事業価値がこれまでの企業に対して、遥かに高いことです。「世の中を変えている感」が富になっているということだと思います。象徴的なのが2017年4月の、テスラモーターがゼネラルモータース(GM)の事業価値を超えたというニュースです。販売台数は130倍も違うのにテスラの事業価値は急激に伸び、GMやトヨタは激しく落ち込んでいました。市場が、テスラにモビリティの未来を見ていなければ、こういうことは起きません。富を生み出すルールが変わっているのです。この技術革新期においては、これまでどおりの市場でのプレゼンスやシェアではなく、「世の中を変えている感」が圧倒的に重要です。ひと言でいえば単なる大きさではなく「妄想を形にする」力が勝負になってきています。
 今ある大会社のうち3分の2は、20年後には消え去るか根底から変わるでしょう。私が大学を卒業した時に12あった都市銀行は3つしかありませんし、日本最強の企業のひとつだった興銀はなくなったのをみても、これぐらいは当たり前だと思います。

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