三菱商事はブルネイでの事業として、LNGの製造販売だけではなく、社会貢献事業にも力を注いでいる。その内の一つが230ha、東京ドーム120個分の広大な「マクファーム」だ。トマトやキュウリといった野菜類、ヤギにホロホロ鳥、そしてヒラメに至るまでがこの中で育てられている。バスから降りると、音楽隊や地域住民の皆さんが太鼓を演奏し歓迎してくれた。
場内を、三菱商事ブルネイ駐在所の川端所長と真貝さん、そして実際にこの地で職員として働いている飯島さんに案内していただいた。飯島さんの話によると、このマクファームは日本でいうと農業試験場のようなものであり、ブルネイにおける農業技術開発の軸となっているそうだ。
そもそもの設立は、LNG事業が始まった後の1978年。ブルネイ政府から、三菱商事が国内での農業技術研究・開発の要請を受けて、同商事の子会社として作られたとのことである。
ブルネイでは6割の労働者が公務員である。そして、他の国に比べ農業に従事する人が非常に少なく、そのため食料自給率が大変に低い。現在でも自給率はブロイラー養鶏こそ95%を保っているが、そのほかは米1.9%、肉牛11%、ヤギ7%という数字である。なんとか国内での農業技術を向上させ、生産量も増やしたい。そんな政府の要望に、普段ブルネイでのLNG事業で利益を得ている三菱商事が社会貢献の形で応じ、開設されたのがマクファームだ。
会議室で川端所長から説明をしていただきながら、開設当時の様子を映したビデオを見せてもらった。国内8ヶ所の候補地から、牛の伝染病などの問題も考えた上で、あえて土壌の質は悪いが海風の常に吹く風通しのよい場所を選び、未開のジャングルだった土地の木々を切り倒し農地を開墾、土に合わせた牧草の栽培から始めたという。
当初の目的は熱帯地域での肉牛飼育の研究であった。回教国であるブルネイは豚肉を食用としない人が多く、そのため牛の需要は多い。当時、同国では主に豪州産の肉牛を輸入し、その他は国内で細々と水牛を飼っていたが、ある時伝染病によって水牛の多くがやられ、何とか国内でも肉牛を生産できないかと悩んでいたという。
そこでマクファーム開墾の後にオーストラリアから牛を仕入れ、飼育研究を始めたという。ビデオに、牛が来て初めての朝に、恐る恐る牛に牧草をやる現地職員の嬉しそうな顔がおさめられていたのを見て、さぞかし感慨深いものがあったのだろうなあと思った。
外に出て実際に農地を見て回った。実際の農地は全面積のうち約80haで、残りの土地は土壌浸食など環境面を考えて農地化していないという。その後、熱帯での牛の繁殖に成功してその研究は一段落し、今は農場に牛はいない。現在の研究対象は当時とは変わり、そのひとつが野菜の水耕栽培である。
これはもともと日本人職員がトマトなどの新鮮な野菜を食べようと実験的に小規模で行っていたものが、たまたま政府の農業関係者の視察の際に目に留まり、それがそのまま事業化されたという。先にも書いたが、この地の土壌は非常にやせた白土で、強酸性のため作物の栽培には向かないそうだ。そのため土に頼らず水と肥料をベースにして作物を植えたほうが生産量が安定するとのことだ。
ここではハウス内でトマトやキュウリといった植物の根を、養分を含む水につけて育てていると、飯島さんは説明してくれた。
実際にハウスの中でミニトマトを摘ませてもらった。あとで宿泊したホテルの冷蔵庫で冷やして食べたのだが、これがおいしい。味が甘く、噛んだ食感がパリッとしてまさに新鮮の一言である。また、ハウスでは現地の農婦の方々が働きに来ていたが、飯島さんが「おばちゃん」と親しみを持って呼びかけていた姿も微笑ましかった。
最近マクファームで始めたのはヒラメの陸上養殖事業で、導入に携わった真貝さんに説明してもらった。ビニールプールを大きくしたような水槽の中をよく見ると、底にヒラメが集まっている。もともと三菱関係の日本の企業が養殖技術を開発したそうで、新しいプロジェクトを何か取り入れられないかと考えて持ってきたのがヒラメだった。内陸でも養殖可能で環境への影響もないというのが利点で、シンガポールの日本料亭へ向けて輸出されており、地の利がいいため活魚で輸送できるのが売りで、高い値段で取り引きされるそうだ。ちなみにヒラメを選んだ理由は、何層にも重なって固まって生活するため空間をとらないからだという。まだ研究段階にあり採算性もこれからだが、将来は輸出型の産業育成に貢献するだろうと真貝さんは見ている。
その後にヤギの飼育場も見学した。ここブルネイでは、イスラム教の儀式においてヤギをまつる習慣があるといい、需要が高い。大きなヤギからまだ生まれたばかりのような子ヤギまでが群れで放牧されており、かわいいヤギがいけにえになると聞くとかわいそうな気もするが、将来性のあるプロジェクトの一つで、今から国内でも評判だそうだ。
飯島さんは語る。日本とブルネイでは四季の有無により農業の形態が大きく変わってくるそうだ。年中温暖なブルネイでは種蒔きや取り入れの時期というのが決まっておらず、いつでも作業が可能だ。そのために年間を通じて病気や害虫が絶えないという問題も生じるという。
また、マクファームによって国内の農業にもじわじわとではあるが影響を与えているそうで、畜産を始める農家も出てきたり、水耕栽培を用いて菜っ葉類を作る家も見られてきたとのことだ。地元の農民が実際にファームに来て学んだり、また政府の農業局経由で農業技術が伝わっていくという。これからはヒラメ・水耕栽培などにまだ残る課題を解決し、わからないことの解明に向けて研究開発を進める方針だ。
後に国立公園見学の案内をしてくださる澤田さんという方にも話を聞く機会があった。この人はファーム設立当時から農業開発に携わっており、今年退職されたがそれにしてもエネルギッシュな方だ。最初に来た時に飛行機の上からボルネオの緑を見て、「こりゃあ面白いところに来たぞ」と直感したと言っておられた。マクファーム30年の功績を一言で言えば、今まで「経験的」に行われていた農業を「科学的」「統計的」な手法で実践したことではないかと話す。またこれからの日本の農業の展望としては、行き過ぎた「質」重視のものから「量」重視に方向を変えるべきだという。一つ一つの作物にかかるコストを削減して選別の手間を省き、国際競争力をつけることが大事だそうで、自給率の回復にも貢献するということだ。お二人とも今までの経験に裏づけされた「農業の大家」としての雰囲気が漂うが、その仕事振りはすこぶる楽しそうだ。
マクファーム見学によって、三菱商事の違った一面を見た。大商社がのどかな農場の経営によって地元の産業に貢献する、という意外であるがすごく面白い話である。
ファームの公園にレッドパームの木を植樹した。現地の職員の方が「これが大木になるころにまた来なさいよ」と言っていたが、その前に近々ここに来て3週間くらいバイトしてみたいと本気で思う。
(文責・1年猪俣)
BLNG社に続いて伺ったのはマクファームです。バスでマクファームに到着すると、農場の方が当地に伝わる楽器を叩いて迎えてくれました。さっそく農場事務所で、三菱商事ブルネイ駐在事務所長の川端博文さんとマクファームプロジェクトマネジャーの飯島克人さんからお話を伺いました。
最初に川端所長から、企業の存在意義からマクファームの生い立ちまでについて伺いました。企業とは、消費者に必要なサービスを提供することによって収益を追求し、その利益によって株主に配当したり従業員の生活の向上を図ることが主な目的とされていますが、それだけでなく企業も社会の一員としての社会貢献が求められているそうです。企業によるボランティアといったようなものでしょうか。
ここではシェルグループと三菱商事がLNGプロジェクトの成功によって大きな利益を得ているわけですが、ブルネイ政府も石油・LNGの生産による税収・収益配当によって経済的・国民生活的には豊かになり、国全体が大きく発展したものの、依然として食料自給率の低さが悩みとなっていました。そこでブルネイ政府は、ほとんどがタイからの輸入米に頼り1970年代当時自給率が約1%の米事情を改善すべくシェルグループに、熱帯における米の栽培研究を要請し、1977年ごろには三菱商事に対し、イスラム社会で豚肉は食べられないので重要な蛋白源である牛肉の安定供給に必要な研究を要請しました。
1970年代当時のブルネイでは、肉牛はほとんど育てられておらず、農耕用の水牛が主なブルネイ産牛肉となっていました。しかし、この水牛は硬くてあまり風味もよくないので、食肉としてはあまり魅力的ではありませんでした。そのため要請を受けた三菱商事は、多額の資金が必要だと予想されたものの、企業における社会貢献として、当初は肉牛の繁殖及び飼育と牛肉の国内自給を目標としました。1978年3月に、必要な用地はブルネイ政府の提供を受け、三菱商事100%出資会社として「MCFARM社」を設立しました。
「MC」というのは三菱商事の英語社名『Mitsubishi Corporation』の略だそうです。今は新興住宅街に囲まれていますが開業当時はジャングルの真ん中だったそうです。最初は豪州から約300頭前後の肉牛を連れてきて、飼育を始めました。農業的にはこの試みは成功し、熱帯地方でも肉牛の飼育を目標どおり達成させました。ただ惜しい点としては当初の目標ほど当地に畜産が根付かず、ブルネイにおける新たな産業の育成という観点では難しかったようです。
その後はブルネイ政府の希望・要望に応じた農業開発を行っています。今、力を入れている事業としては、水耕栽培、ヤギ・ホロホロ鳥・魚の陸上養殖としてヒラメの養殖を行っています。さらに農業公園を作りブルネイの若い人への農業啓蒙活動を試みています。
続いてプロジェクトマネジャーの飯島さんからマクファームの今の状況について伺いました。マクファームは、日本であれば各都道府県が設置している農業試験場的役割も兼ねているそうです。この農場がブルネイ政府農業局と協力して、民間企業でありながら農業開発の拠点となっています。現在の面積は230ha(東京ドーム120個分)でそのうち実際に農地として利用しているのが80ha。残り150haは丘陵地など農地に不向きな土地なので、無理に開発すると土壌浸食や自然破壊を引き起こす恐れがあるので、自然な形で残しているそうです。
従業員は日本人が2人と現地社員が30人だそうです。やはりここでも、ブルネイ人の積極的登用を推進しており、特に女性社員の活躍が目立っているようです。
ブルネイの食料自給率は去年の農業局の統計より、米で1.9%(残りはタイからの輸入に依存)・野菜60%(ただしその内訳のほとんどは菜っ葉やインゲンなどもともとこの地方に適したもの)・牛肉11%・ヤギ肉7%。食品の中で最も高い自給率を誇っているのがブロイラーで、これは日本でも一般の鶏肉として広く流通していますが95%。国教がイスラム教なので、豚肉に変わる手ごろな蛋白源として飼育が広く奨励されています。
ブルネイでは雨季・乾季の区別がないので始終雨が降り、土の中のミネラル・有機物が流れてしまって、農業には不向きのガラス質中心の白い土(ポドソル)に覆われてしまっています。この土にはほとんど栄養が無く、このままでは農業に不向きなので、大量に肥料を使わないと露地栽培が難しく、多額の肥料代がかかってしまい非効率となり、肥料を水に溶かすだけでいい水耕栽培のほうが経済的だそうです。
後から実際に見学させていただきましたが、ハウス栽培のため農薬も使わず、新鮮な野菜が栽培できているようです。仮に今ある技術を総動員すれば確かに今のブルネイの土でも路地栽培で野菜を作ることができますが、維持管理に手間がかかり、どう頑張っても採算が合わなくなってしまうそうです。水耕栽培は、大雨が降るとすぐに洪水になってしまうなど水の管理が難しいブルネイにおいて、水と肥料の管理を一元化し生産量を安定させられるので大変効率的だそうです。
それでは、実際の農場を見学させていただきます。まず初めに見学させていただいたのはヒラメの陸上養殖で、これは2つの大きな水槽に人口の塩を溶かし込んで海水を再現しています。使用している水は循環式で、いつも清潔な状態を保っています。ここでは餌やりをさせていただきました。餌をやると公園などにいる鯉のようにびちゃびちゃと僕たちのそばにやってきて、口はどこかよくわからなかったのですが、とにかく食べてくれたようです。ちょっと見えにくいのですが、水槽にヒラメがいるのがお分かりいただけるでしょうか。ヒラメはマグロなどと異なり、回遊させる必要が無く水槽の中で何層にも重ねて飼育できるのでスペース効率がいいそうです。今後はシンガポールなどアジア各地の日本料理店にお刺身用としての供給が期待されています。
ここで、取材のプロ石橋記者がどのように飯島さんに話を聞いているか見てみましょう。やはり石橋さんはすばやくメモして、僕が聞いていても興味深い質問をどんどん飯島さんにしています。メモを覗いても全文は書いてないようで、どうやってメモを取っているのでしょうか?翌日ジャングル探検の際に石橋さんにお話を聞く機会をいただいたのですが、僕が質問をしようと意気込んでいたものの、いつの間にか石橋さんのご質問にお答えさせていただくことばかりになってしまい、シマッタやられたなと思いました。
さて、続いては水耕栽培ハウスを見せていただきました。胡瓜・ピーマン・トマトを栽培していて、トマトは当地の大手スーパーで既に販売されるなど実用化が進んでいます。水耕栽培は2機1組のプランターに交互に水を入れることによって根に水と空気を吸わせています。マクファームの皆さんと一緒にトマトを取らせていただきました。ハウスは二重の扉によって虫の侵入を防いでいるため、無農薬で栽培できるそうです。トマトは、頂いて帰ってホテルで洗って食べてみましたが、千葉の桃太郎トマトに負けないくらい甘くておいしかったです。
続いてはヤギの飼育をしているところに向かいました。何でこんな熱帯の島でヤギを育てているかといいますと、ハギ・ハギャといわれるイスラム教の儀式で神に捧げるためのいけにえとしての需要があるからだそうです。いけにえに使うヤギは生まれてから2年以上の傷のない雄ヤギと決まっているのですが、今までブルネイでは豪州からの輸入に頼っていたので、年齢の把握が難しく宗教的に問題があったようです。
ヤギは群れで行動する生き物で、人間が来ると逃げていました。参加者の皆さんはヤギを抱いていたのですが、僕は無理やり抱くのもかわいそうでちょっと怖かったので、遠慮させていただいて写真撮影に徹していました。こうして見てみると結構かわいいので、日本に連れ帰って自宅で飼ってみたいなと少し思いました。
最後に、整備計画が進んでいる農業公園で記念植樹をさせていただきました。僕や五十嵐のような小者が記念植樹させていただくのはどうかと思ったのですがまたブルネイに来る機会があったら大きくなっている姿を見たいと思い、初めてでしたが丁寧に植樹してきました。
最後に、もう一度事務所に戻って、飯島さんにブルネイの農業とわが国の農業の違いについて伺いました。日本の農業は、主に春から秋にかけての中で収穫まで一連の流れが終了するように行いますが、ここブルネイでは一年中暖かく、季節に追われずのんびりとした農業が行えるそうです。しかし日本であれば地域ごとに一斉に行われ植物の病気も一時期にとどまりますが、一年中農業が行えるために病気が収束せずに循環してしまう難点があるそうです。今後もマクファームでは現地農業当局・農家の皆さんと共に、熱帯でも安心・安全な農業の推進に向けての研究を進めていきたいとおっしゃっていました。
商社が農業と聞くとどうしても意外な感じがしますが、熱帯での農業研究はここブルネイのみならず、世界の食糧事情の改善といった点でも注目されているので、LNGの恵みのひとつとして今後も発展していってほしいものだと思いました。このマクファームからも、三菱商事がブルネイの人々と手を取り合ってブルネイの発展・産業の育成を進めていることがわかりました。
ブルネイと言えば、東南アジアの国の中でもとても自然が豊かな国だという印象があり、農業も盛んで自給自足が成立している国なのだと思いこんでいた。しかし、現実は農業に関しては全く異なっていた。
LNGの工場を見学した後、しばらくバスに揺られて行くと、住宅地からそう離れていない所、さほど山の中でもない所にマクファームがあった。見回すとどこまでも緑で、「おおっ・・」と思わず声がもれてしまった。
マクファームができる前(1970年代)、当時、LNGによってブルネイの人々は裕福になっていた。しかし食料は99%をも輸入に頼っていた。そこでブルネイ政府から三菱商事に、この事態をどうにか改善してほしいという相談があった。LNGでブルネイの政府に協力していた三菱商事は、ブルネイの国に社会貢献しようとマクファームを設立した。
初めは、牛肉の自給率を上げるのが目的だったが、それがある程度成功した今、マクファームではさまざまなものが栽培、飼育されている。
マクファームには大きな水槽がいくつかあり、隙間からそっと薄暗い中をのぞいてみると、中には大きなヒラメがいっぱい。この養殖は2年ほど前から実施しているそうだ。大きくなったヒラメはシンガポールの日本料理店に売られていく。ところで私たちの住んでいるすぐ隣町、山口県下松市の笠戸島では瀬戸内の海を利用してヒラメの養殖をしているが、それと比べても、まるっきり海から離れている陸の上でけっこう大きなヒラメを育ててしまうなんて、すごいなあと感心してしまった。
次に、何やら日本で見るようなビニールハウスがたくさんある所に着いた。中に入ると何の変哲もないプチトマト。赤くてとてもかわいらしかった。けれども実はそのトマトは普通の土ではなく、水で育てられていたのだ。水耕栽培とは酸素や養分を水に溶かし、土なしで植物を育てるというものだ。ブルネイの土は白く、養分があまり含まれていない。だから、水で育てた方がコストが安くあがるうえに安定して供給できるそうだ。何粒かちぎって、食べさせてもらった。食べてみると口の中でプチッとはじけてとても甘かった。
次にお目にかかったのはヤギである。ヤギはイスラム教の儀式に使われ、とても重要な役割を果たしている。ここではそのヤギの飼育も行われている。数えられないほどのヤギがいて、もう圧巻だった。
マクファームの当面の目標は、今はとにかくやっていることをうまく生かすというものだった。「先のことよりも、目の前にあることを成功させる」。そう、所長の川端さんはおっしゃっていた。こうした方々の粘り強さや熱意により、5年後、10年後のマクファームが1歩1歩築かれていくものなのだと実感した。
今回、一番印象深かったのは、マクファームで働く三菱商事の人々が、ブルネイの人々に農業の大切さを一生懸命伝えようとしている姿だ。自分たちが大事に手をかけて、試行錯誤しながら育て作っていったものが実になり食料となる喜びをブルネイの人々と共に分かち合うために、この地で努力されている。ブルネイの人々のことを真剣に考えて、懸命に農業貢献している事は、すごい事だと思う。
企業というものは、とかく利益を出すことが大事だと思ってしまうものだけれども、その中で働いている人々の一人一人が誇りを持って、お世話になった国、社会、人へ貢献することも大切なのだということを改めて知った。「自分のことだけではなく、社会全体のことも真剣に考える」。そんな姿勢で自分も社会に貢献していけたらいいなと思った。
毎日が夏。そんな気候が一年中続くのがブルネイである。三菱商事がブルネイへの社会貢献の一環として設立し、スタートしたのが、マクファームである。ブルネイは熱帯のため、食料が出来にくい環境に置かれている。そのため、食料の90%を輸入に頼っている状況である。1978年、ジャングルだった土地を切り開き、79年、手始めに肉牛の飼育を始める。それから26年経った今、国と話し合いを行いながら、研究開発を進めている。現在、マクファームでは、畜産業として、ホロホロ鳥や山羊、農業は水耕栽培、漁業では陸上養殖を行っている。
当初、山羊の飼育においては、5メートルの蛇や、野犬の出没などたくさんの問題を抱えていたが、今では200頭の山羊の飼育をするまでに成長を果たした。
農業においては、栄養分が下に降りてしまった土地でも作物が育つよう、水耕栽培にするという工夫が見られる。水耕栽培では、いかに水分中に酸素を取り入れるか、作物に合った環境を整えるかが重要となる。それらを追求し、現在の栽培に至る。また、日本と違い光が強いので、上に黒いネットを張り、光を和らげるなどの工夫も見られた。
漁業においては、魚が出した毒素で汚れた水をきれいにして戻す、循環型にする工夫が見られる。ここで養殖されたヒラメは生後3か月の時に3~4センチだったものが20か月で約1.3キロになると言う。また、日本料理店に試験的に販売し、1キロ45ブルネイドル(日本円で約3,000円)で売買されている。日本とブルネイの違いについては、日本には四季があり、冬に蓄える期間があるがブルネイにはないという点が挙げられる。しかし、1年中約35℃のブルネイでは水があればなんでも育つという利点にも考えられる。また、日本は計画的栽培で時間に追われるが、いつでも種を植えられるブルネイでは、時間に追われない農業の姿を見ることが出来た。
ここでは、記念植樹も行った。マンゴーの木を植樹する予定だったが、都合によりマンゴーよりもよく育つ木を植樹することになった。それは、現地では「幸運の木」と呼ばれる、赤い幹を持つ木である。木の近くにはそれぞれのネームタグが付けられており、自分たちが植樹した木の、今後の成長が楽しみである。
マクファームの現在の目標として『深掘りし、追求する』が挙げられた。これは、日々の生活で、どこまでいくか、今やっている事で分からないことを分かるようにするという意味である。それを実践し、向上しているブルネイの農業を肌で感じ、普段から土に触れている私は驚きを隠せなかった。異国の地で戦う日本の技術者がここにはいた。