教員の視点

政治の世界でも女性が活躍できる日本へ
安全保障論議の盛り上がりをバネに

三浦 まり
法学部教授

世界に後れをとっている日本政治の女性参画

三浦 まり 法学部教授

 年明け早々、台湾総統選挙で民進党の蔡英文氏が当選、初の女性総統が誕生しました(就任は5月)。韓国の朴槿恵大統領、今秋の米大統領選で有力候補とされるヒラリー・クリントン氏とともに、国勢を引っ張る女性リーダーたちに囲まれる形となった日本に目を戻してみると、国会の女性議員比率ですら衆議院ではわずかに9.5%、これは世界平均22%の半分にも届かず、各国下院の比較では190カ国中154位(2015年12月現在)というのが現状です。

 国政選挙については、すでに140カ国がクオータ制(立候補者や議席の一定割合を女性または男女それぞれに割り当てること)を導入、さらに重要な意思決定の場は人口比と同じ男女同数で構成すべきという「パリテ」の考え方も広がりつつありますから、日本も制度改革を行わないかぎり、ますます世界の流れから取り残されることは明らかでしょう。

 この問題に取り組む超党派の議員連盟が、ようやく「政治分野における男女共同参画推進法」の骨子を取りまとめ、議員立法として提出する準備をしています。私もワーキングチームのアドバイザーとしてかかわってきたこの法案には、政党が候補者擁立にあたって男女同数とすることを目指すという規定が盛り込まれます。

 強制力のない理念法で、党ごとの事情による対応のバラつきは予想されますが、成立すれば大きな一歩となることは間違いありません。そして何より大事なのは政党の自主的な取り組みの加速に向けて、その背中を押す世論の盛り上がりです。

 そもそも議会の構成比が人口比率とかけ離れていること自体、民主主義の公平の原則に反することは言うまでもありません。加えて、女性議員ならではの視点が施策の質の向上につながるような議案も少なくないのです。国の緊急課題である少子化対策、たとえば政府が掲げる希望出生率1.8の数値目標を、「産ませる圧力」にしない繊細な配慮を備えた、適切で有効な仕組みづくりなどは、その好例といえるでしょう。

 こうした点について日本の政治家たちの認識が、きわめて遅れていることを前述の数字は示しているのです。

政治に目覚め勉強を始めた女性たち

三浦 まり 法学部教授

 一方、市民レベルの政治参画においては、女性の活躍が非常に目立つようになっています。昨年の安保関連法案に対する反対運動でも、参加者の女性比率が高いことが大きな特徴でした。

 「3・11ママ」という言葉があるのですが、震災後の原発事故への政府の対応などを見て、自ら情報を集め判断しなければ子供たちの安全は守れないと、母親を中心に多くの女性が政治に目覚めました。そして、原発再稼働反対に向けて主体的な行動とネットワークづくりを積極的に続けてきました。そこに安保関連法が出てきて、彼女たちはこれにも同様の危機感を持ったのです。

 彼女たちの主張は、男性に比べ、より「身体性」に根差していると私は感じています。頭で考えた抽象的な生命、平和ではなく、傷つくこと・死ぬことや、傷つけること・命を奪うことについての、経験からくる心身の「痛み」の感覚に基づいているからこそ、戦争に対する想像力も女性のほうが強く鋭いのでしょう。そしてこれは、先に述べた政治における女性ならではの視点の重要な要素でもあると思います。

 とはいえ、安保関連法案は成立しました。それ以後目覚めた女性たちは猛烈に勉強し始めています。

 結局は多数派の意見が通るのだから、国会に自分たちの代表をたくさん送り込まなければならない。では、選挙の仕組みはどうなっているのか、地元の選挙区の状況はどうなっているのか、どこに投票したらいいのか、投票先がない場合は自分たちの候補者をどうやって見つけ、応援すればいいのか……と。

 実は、クオータ制導入に消極的な政党はよく、適任の女性候補者が少ないことを言い訳にします。これに対し韓国では、女性団体が独自に女性候補者を発掘し、100名あまりのリストをつきつけて政党を動かし、日本に先駆けてのクオータ導入につなげたという前例があります。

 こうした他国の経験にも学びながら、3・11ママ、安保ママたちが自分たちの行動を女性議員の増加や国政の変革にもつなげていけるよう私も応援したいと思っています。

安保と憲法をあらためて学び考える機会

三浦 まり 法学部教授

 安保問題は「立憲主義」の問題でもありました。国の安全と平和の維持のために、9条を生かすべきか改めるべきか、そこには様々な考え方があります。ただ、現状が時代に合わなくなっているとしても、憲法改正の手続きを踏まず閣議決定で解釈を変更し、違憲の法律を強引に通すようなやり方は立憲主義の否定です。安保関連法への反対が広がるにつれ、立憲主義の考え方が浸透してきました。憲法は9条だけではなかった、最も重要な役割は国家権力の統制と個人の尊厳の保障だったと、あらためて気づいた人は多かったはずです。

 昨年の夏に、このように大きな国民的運動が起こったことは、日本社会にとって画期的な出来事でした。そして今は、その運動の意味をあらためて問い直し、未来につなげていく大切な時期なのだと思います。

 宣伝になりますが、4月から始まる上智大学の公開講座「安全保障法制と憲法」(全11回)は、そうしたことを考えるためのよい場となりそうです。

 上智からは政治学、哲学、宗教学などの教員が参加、外部からは社会学者の上野千鶴子さん、憲法学者の青井未帆さん、小説家の平野啓一郎さん、ジャーナリストの金平茂紀さんら、様々なジャンルから専門家をお呼びし、問題を多角的にとらえ分析・解説していきます。

 私自身は昨年出版した『私たちの声を議会へ――代表制民主主義の再生』の内容にのっとりつつ、政治における多様性の確保や政党間競争の必要性、市民の政治参加のあり方などについてお話しする予定です。もちろん女性に限らず、たくさんの方のご参加をお待ちしています。

 ところで私は、日本の政治を日本人学生にあえて英語で教えるという、上智ならではともいえる講義を今年度から始めました。自国の政治を客観的で幅広い視点から深くとらえ直してもらえるのではないかという私の期待通り、学生たちは大きく成長しつつあります。語学力の関係か女子学生が多いのですが、彼女たちがそれぞれの形で主体的に政治や社会にかかわり、ここで述べたような変革を推し進める力になってくれることを願っています。

公開講座の詳細はこちら
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三浦 まり 法学部教授
三浦 まり(みうら・まり)
法学部教授

専門は比較福祉国家論、現代日本政治、ジェンダーと政治。著書に『私たちの声を議会へ――代表制民主主義の再生』(岩波書店)、Welfare Through Work: Conservative Ideas, Partisan Dynamics, and Social Protection in Japan, (Cornell University Press)、『ジェンダー・クオータ 世界の女性議員はなぜ増えたのか』(編者、明石書店)ほか。

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