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- 古谷 有美 TBSアナウンサー
1000人に1人を目指す――遠大な目標も考え方ひとつで
- 古谷 有美
- TBSアナウンサー
カンボジアのこどもたちに教わったこと
中学1年の時、英語の先生がそれはそれは素敵な方で、彼女が卒業した上智大学に憧れを持つようになりました。
私が通っていたのは私立の中・高一貫校、英語教育に力を入れていて、それも文法より聞くこと・話すことを重視した独特な教え方でした。ニュージーランドで経験したホームステイでもとても良い刺激を受け、そのおかげで6年間ほんとうに楽しく英語を学ぶことができました。
やがて、第一志望の上智で英語を勉強したいと強く思うようになり、1年余分に受験勉強をすることになりましたが(笑)、その甲斐あってか、レベルの高いクラスに入ることができました。
ところがそこは帰国子女ばかり。発音や話すスピードも驚きの連続で、ちょっとしたリアクションもまるで外国人。英語が得意と思っていた私の自信は打ち砕かれ、たちまち落ちこぼれです。
根性なしの私は担任のケニー先生に、クラスを変えてくださいとお願いしに行くことに。すると先生は、「君は自ら選び、そして選ばれてここにいるのだから、そこには大きな意味があるはず」と諭してくださいました。そこからは覚悟が決まり、みんなとの差を埋めるためにひたすら準備に時間をかけて、何を聞かれても怖くないぞと思えるようになりました。
英語学科の学生の一部は、毎年夏休みに、日本各地で子供たちに英語を教える「STP(Summer Teaching Program)」というボランティア活動を行っているのですが、私が3年生のとき、初めてカンボジアでやってみようということになりました。教材はすべて手作りして何カ月もかけて準備し、現地の小学校を1週間ほど借りて実施しました。
私たちのクメール語の知識は挨拶程度、つまり、子どもたちが小学校で習っているレベルの英語で意思の疎通を図るしかありません。でも、正確だけど難しい言葉を使うより、易しい言葉を10、100と重ねて彩り豊かに伝えるほうが、コミュニケーションが広がるということを、カンボジアの子どもたちは教えてくれたのです。
視聴者の年齢、環境を考えてベストの言葉をチョイスする……私の現在の仕事につながる、本当に貴重な体験でした。
人間の声だから伝えられることがある
子供の頃から自分の声で言葉を人に伝えることがとても好きで、実家でもよく国語の教科書の音読をしていました。家族が「将来はアナウンサーになって海外スターをインタビューしてよ」などと言うのを冗談で聞き流しながら、頭のどこかに刷り込まれていたのかもしれません。
就職活動を意識し始めた2年生のとき、テレビ局も受けてみようかなとふと口にしたら、頼れる友人が「それならミスソフィアは外せないでしょう」と、申込などのありとあらゆる手続きも手伝ってくれました。結果は、まさかのグランプリ。今でもその友人には頭が上がりませんが、そんな後押しもあって、淡い夢が形になっていったんです。
そうして飛び込んだテレビの世界は、華やかさとは真逆でした。スポーツを担当していた頃は、炎天下のスタジアムで何時間も取材します。カメラの回っていないところで、オンエアで話すチャンスがあるかどうかすらわからない情報収集もしたり。でも、スタッフの皆さんは、私より先にスタンバイし、後まで残って仕事をしているんです。視聴者でいたときにはまったく見えなかった、とても地味で地道な準備の、一番きれいな上澄みの部分を、華やかな画面を通して伝えるのがアナウンサーの仕事だと気付きました。周囲の想いや沢山のプロセスが無駄にならないような伝え方を、考え続けていかなければいけないと思っています。
最近は、ニュースもインターネットのほうが速報性では優れていたり、関連事項を検索できる利便性があったりと、テレビというメディア自体がこれからどうなっていくのか、不透明な時代ですよね。ニュース原稿をAIに読ませれば絶対に噛まないでしょうから、アナウンサーの未来はさらに不透明かもしれません(笑)。
でも、だからこそ、生身の人間の声で物事を伝える私たちの役割は、かえって大きくなっていくのではないかと考えています。
子供の交通事故のニュースを、自ら子を持つアナウンサーが読めば、その声には母親ならではの気持ちが重なって、原稿に連ねられた言葉以上の何かを視聴者に伝えられるはず。そういうコミュニケーションの大切さを、アナウンサーとして真剣に考え、アピールしていきたいですね。
「10×10×10=1000」を目指して
私は、1000人に1人のアナウンサーになろうと思っている……というと偉そうですが、そこにはカラクリがあります(笑)。
そもそも私はなんでも平均点の人間、人に秀でた「これは」というものがない。それで、テレビ人としての「キャラクターづくり」に悩んだ時期もありました。
そんな時、在学中からずっとお世話になっている上智の先輩に教えていただいたのです。「ひとつの分野で1000人に1人の逸材になるのは難しいけれど、10人に1人といえるようなものを頑張って3つ身に付ければ、掛け算して1000分の1と言ってもいいのじゃないか」。
ひとつのことを突き詰めるより色んなことがしたい性格の私には合っているなと、ストンと腑に落ちて、それ以来この考え方を大事にしています。たとえば、趣味で描いている絵なら10人に1人になれるかな、あるいはバックパック旅行で延べ30カ国以上回ったとか、アナウンス部の先輩後輩と飲みに行った回数が一番多いとか(笑)。
そうした中で、私がこだわりたい分野のひとつはやはり英語です。もちろん、私より流暢に話すアナウンサーはたくさんいらっしゃる。でも私の場合、海外生活も留学も経験せず、日本の学校教育の枠の中だけで、仕事で通用するレベルの英語力を身につけられたことがポイントだと思うのです。そんな私だからこそ、あのカンボジアでの体験なども取り入れて、これからの子供たちがもっと楽しく効果的に英語を学べるようなシステムや環境をつくる上で貢献できることがあるのではないか。
民放の一員としてできることは限られているかもしれませんが、おばあちゃんになるまで時間をかけて取り組んでいきたいと思っています。
もうひとつの分野は、子供のころから大好きな宇宙。アナウンサー初の宇宙リポートを、是非やってみたいです。放送人ならではの目線と表現方法で、宇宙の魅力や不思議を子供たちはじめ皆さんに、「現場」からお伝えすることができたら……そのために、アナウンサー一の宇宙好き、宇宙通をめざせば、10000人に1人も夢じゃない?!でしょうか(笑)
- 古谷 有美(ふるや・ゆうみ)
- TBSアナウンサー
北海道恵庭市生まれ。2011年4月TBSに入社。同年10月より『Nスタ』にレギュラー出演し、2014年3月28日まで2年半の間担当。 2014年3月31日からは『NEWS23』へ移り、2年間スポーツキャスターをつとめた。2016年3月28日からは再び『Nスタ』の担当に 戻り現在も出演中。2013年12月8日には第41回JALホノルルマラソンに出場し、フルマラソン初挑戦ながら5時間12分30秒で完走を果たした。現在の出演番組は『Nスタ/地上波』平日15:50~、『毎日がスペシャル!/BS-TBS』随時、『ラジオ版「毎日がスペシャル!BS-TBS」』土曜14:55~ほか。
TBSアナウンス公式ホームページにて『みんみん画伯』まもなくスタート