YOLスペシャルインタビュー 上智人が語る 「日本、そして世界」

雑誌というメディアだからこそ作れるコミュニティを新たなビジネスに

山本 由樹
雑誌編集者

新聞学科で養われた社会への関心と野心

山本 由樹 雑誌編集者

 子供のころから、将来は「マスコミ」と決めていました。父は元々バリバリの新聞記者だったのですが、後に事業部に移り、僕が見ていたのは、朝はゆっくり出勤し、夜は酔っ払ってタクシーで帰ってくる父の姿……それで、「マスコミは満員電車に乗らなくていい楽な仕事」と、勝手に思い込んでいたんです(笑)。動機はともあれ、新聞学科を選んだことを父はとても喜んでくれ、それが父への最後の親孝行になりました。

 入ってみるとそこはマスメディア全般を扱う間口の広い学科で、何を学ぶかは各々の意欲と考え方次第という自由さがありました。先生方は現場経験者が多く、そのため教室にもジャーナリズムの息吹みたいなものが感じられる。その中で学生も、社会に対して無関心ではいられなかったし、だれもが何事かを成し遂げてやろうという野心を持っていた。その空気が、新聞学科そのものだったのだと思います。

 僕も遅まきながら読書に目覚め、当時は本田勝一などのノンフィクションに、青臭い正義感を刺激されていました。そして「何者かになりたい。それが何なのかを見つけたい」という思いに突き動かされ、1度きりですが、友人を集めて自分で脚本を書いて、上智小劇場で芝居をやったんです。

 これがきっかけになったのかどうか、主演してくれた同級の阿部知代さん(フジテレビアナウンサー)をはじめ、このときのメンバーが、けっこう映像や舞台の分野で活躍しているんですよ。僕自身も、そのときは映像の仕事を目指し、シナリオの勉強なども始めました。

 結果的に僕は編集者の道に進んだわけですが、そうした創作のための勉強や、友人たちからの刺激を含め、上智での4年間の蓄積がとても大きかったですね。それを少しずつ取崩しながら、これまで仕事をしてきたような気もします。

 実は最近、上智OBと出会う機会が増え、それであらためて感じるのですが、上智人は群れないですね。本質的な自由、自立を実践していて、僕はそこが大好きです。

一つの言葉が女性の生き方を変えた

山本 由樹 雑誌編集者

 就活では映像関係の会社は全滅し、光文社に入社しました。配属されたのは週刊誌『女性自身』、芸能界ゴシップに興味はないし、昼間から酒を飲んでいるような曲者ライターたちはなんだか怖いし(笑)、正直すぐにも辞めたいと思いましたね。

 出社初日、直属の上司から「会社に来るな」と言われます。映画を観てもパチンコをしても構わない、とにかく外を歩き回って、何が流行っているのか、ネタを見つけてこいと。衝撃的でしたが、これはその後の僕の仕事の基本姿勢になりました。ちなみにそれ以来、本当に満員電車で通勤したことはありません(笑)。

 そして3年もすると、自ら望んだわけではないこの職場を、面白いと感じ始めていました。結局ここで16年、さまざまなカルチャーショックを受けながら、僕の編集者としての核がつくられていったのです。

 でも、やはりいろいろな雑誌を経験したい。アラフォー以上の女性をターゲットに創刊されたファッション誌『STORY』に移り、やがて編集長を任されます。

 そしてきっかけは、同誌の読者を集めて行ったインタビューでした。45歳を過ぎると、若さを保つために服装より美容にお金をかける。「ファッションは消費、美容は投資」だというのです。また、年齢を超越して「魔法を使ったように」美しい女性たちがいることもわかってきました。

 それで、美容を扱う『美STORY』(後に『美ST』と改名)を創刊、同時に「美魔女」という言葉を誕生させます。現象をキャッチーな言葉に置き換えるのは週刊誌編集者の得意技、僕の蓄積がここでも生きたわけです。

 この言葉には、アラフォー女性の美に対する価値観を変える力がある、だから、雑誌の読者だけでなく、社会一般の人たちが使うものにしたいと考えました。

 そこで、「国民的美魔女コンテスト」を毎年開催し、選ばれた美魔女にはどんどんメディアに出てもらった。商標登録はしつつも、なるべく自由に使ってもらって、広めていったのです。

 その結果は、意図した以上のものでした。日本全国どこへ行っても、いつまでも若く美しくあろう、そして人生を楽しもうという美魔女は確実に増えている。一つの言葉が、彼女たちの生き方を変えたのだと実感しています。

雑誌がデジタルにまさるものとは

山本 由樹 雑誌編集者

 印刷メディアが、インターネットなどデジタル・メディアに圧倒されつつあることは、いまさら言うまでもないでしょう。雑誌は、書店での売り上げ、広告収入ともに減少し、廃刊・休刊なども相次いでいます。

 そうした中で僕がひとつ注目しているのは、企業が自らの負担で発行する「オウンド・メディア」です。商業誌は、個性を主張しすぎると売れなくなるので、どうしても似かよった編集をせざるをえない。無料配布を前提にしたほうが、むしろ編集者が自由に、健全で面白い仕事ができるという面があるのです。

 単純に宣伝を目的とするのではなく、ひとつの文化を発信して共鳴する人をネットワーク化することにつなげていければ、新しい可能性が開けると思います。

 そしてもちろん、商業誌だからこそできることもあると、僕は考えています。

 「情報=ゼロ円」が当たり前の時代に、わざわざ書店に足を運び、お金を払って、重い紙の束を持ち帰る。そんな二重苦、三重苦を乗り越えてその1冊を手に入れようという、読者のローヤリティ(忠誠心)の高さこそが、雑誌という媒体の強みです。

 こうした読者をうまく組織化できれば、メンバーの属性がはっきりしていて、それぞれが参加していることをポジティブにとらえているコミュニティができる。それがたとえ1万人程度の規模だとしても、巨大メディアが作る100万人規模のコミュニティには持ち得ないすごい力を発揮するはずです。

 僕が雑誌『DRESS』で仕掛けている「部活」は、そんな発想がもとになっています。仕事と家庭以外の「サードプレイス」を持つライフスタイルを雑誌から提案し、その先にコミュニティを作る。それを新しい時代のビジネスにつなげていこうと考えているのです。

 将来的には雑誌を離れ、職場や地域の様々な部活をとりまとめる仕組みを構想しています。その内容はまだ公表できませんが、それが実現すれば、今よりもっと面白いことがいろいろできる。期待していてください。

山本 由樹 雑誌編集者
山本 由樹(やまもと・ゆき)
雑誌編集者

上智大学新聞学科 1986年卒業。光文社に入社後、週刊誌編集者を経て、「STORY」創刊と共に副編集長として参加。 2005年編集長に就任。2008年に「美STORY(現美ST)」を創刊し2誌の編集長を兼務。 その後「国民的美魔女コンテスト」を開催。美魔女ブームを仕掛ける。2013年9月に株式会社giftを設立。2013年4月自立したアラフォー女性をターゲットとした月刊誌「DRESS」を創刊。 女性が自由に輝ける社会を実現するための情報を発信中。

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