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- 上坂 すみれ 声優
日本とロシアの若者をアニメでつなぎたい
- 上坂 すみれ
- 声優
大学時代の思い出はモスクワでの合宿
高校のときにソ連の国歌を耳にして、壮大なメロディとロシア語の響きの美しさに魅せられたのがきっかけで、ソ連やロシアが好きになりました。それで、運よく推薦枠をいただけた上智大学のロシア語学科に迷わず決めました。
会話の先生はもちろんロシア人でしたし、ロシア研究の最先端の先生方が、ご自身の手作りの教材や本国でしか手に入らないような文献を使って教えてくださることが、それまで一般向けの本で独学していた知識とはまったく違いました。教わるって大事なことだと、あらためて思いました。2年のときに学業優秀賞をいただいていますが、これは好きなことを勉強できるのが楽しくて、必修系の科目に全力を注いでだおかげだと思います(笑)。
外国語学部には「語劇祭」というイベントがあって、ロシア語とイスパニア語、ポルトガル語の3学科の劇団が、原語のお芝居を披露します。私はその劇団に所属して、1年のときに2週間、モスクワでの合宿に参加しました。
モスクワ国際関係大学(MGIMO)でのロシア語のレッスンや、現地の学生さんとの交流もあり、そこで日本について勉強しているという女の子に出会って、とてもお世話になったんです。彼女は日本の江戸時代の社会システムなどとても詳しく知っていて、レポートの日本語も完璧。反対の立場で、私も頑張らなければと思いました。
しかも彼女はアニメ好きで、日本語の勉強はまずアニメから入ったと。これは、声優をめざして勉強中だった私には大きな励みになりました。彼女に限らず、ロシアにアニメ好きの人が多いことを知ったのも、このときです。いまにつながる、とてもいい体験でしたね。
上智のキャンパスは、雰囲気が素敵で、卒業後もよく散歩に来ています。学年ごと、学部ごとにキャンパスが違う大学もありますが、ここは先輩も後輩も、他学部の学生もいろんな国からの留学生も先生方も、みんなの顔がいつも見られる。一つのコミュニティになっている感じがいいですね。
イエズス会ゆかりの建物があって、聖堂ではミサが行われていて、そういうキャンパスの雰囲気の中で過ごすことで、自然と品や良識が身につく、そんな気がします。
海外で知る日本アニメの力
声優というのは、広く言えば役者に入るんでしょうけれど、多くの場合2次元のキャラクターに声をあてるわけですよね。それらのキャラは、同じ人間としてシンパシーを感じて演じるだけでなく、そこに夢とかファンタジーを加えて、こうだったらいいな、でも本当はこんな人はいないよな、という部分を含ませるからこそ魅力的になる。ですから、3次元のドラマやお芝居よりもちょっと誇張して、一目でかっこいいとか、かわいいとか感じさせる、そのわかりやすさを作ることが大切だと思います。
そしてキャラは、演じる私がまず一番好きになってあげないといけない。好きという気持ちを落とし込んで、初めてキャラは生き生きと輝き、アニメは終わってもあのキャラは覚えています、と言っていただけるんだと思います。
ちなみに私は、たいていの物語に登場する小悪党キャラがけっこう好きです。悪の組織やグループの4、5番手で、大して実力はないけどトラの威を借りてえばっているような(笑)。いつか演じてみたいですね。
小さい頃から憧れていた声優というお仕事ですが、実際に仕事を始めてから、あらためて自分のやっていること、というより日本のアニメやポップカルチャー、自分のかかわっているもののすごさに気づいた面もあります。
私が参加した最初の海外イベントは中東・カタールだったのですが、正直、場所もよくわからない国で日本のアニメが?と半信半疑でした。
なので、アニメの映像が流れたときの大歓声にまずびっくり。当時はデビューしたての新人声優だったのに、頭に白い布を巻いたアラブの方たちが、本当にたくさん集まってくださったんです。初音ミクが好きだとフィギュアを買っていく人もいて。定番アニメのソフトはみなさんもう持っているので、新しい巻しか売れないんです。ジャパニメーション恐るべしと思った瞬間でした。
いろんな国で「カワイイ」という日本語がそのまま通用することにも驚いています。それも、単にprettyという意味ではなく、日本的な良さを指しているんですよね。そうしてみると、アニメでもグッズでもファッションでも、こまやかに作り込んだ日本ならではの美しさ、質の高さがある。そんな素晴らしい文化の一端を担っているんだなと、気持ちを新たにしています。
「怖いロシア」の先入観なしに
声優の中でロシア語は希少価値、ロシア人役をいただくなど武器のひとつになっていますが、このロシア押しとミリタリー好き、ロリータ・ファッションもあわせて、個性的だと言われます。ただ私は、自分が心から好きなものを素直にモチーフにしているだけです。
ロシアは、一言でいえば一筋縄でいかない国。歴史は波乱に満ちていて、暗いのかと思うと能天気な明るい歌があったり、重厚な文学の中にとんでもない発想のSFやシュールな詩があったり、いつも、知らない面を見せてくれるんですよね。
私は、とくにソ連時代が好きです。帝政がずっと続いていたところに、レーニンたちが完全に人工的な統治システムを築き上げて、それが70年以上も続いた。一方では莫大な軍事費を使い、宇宙開発を進めていながら、市民は食糧を求めてスーパーに行列をつくる、そんな不条理な社会が、不謹慎と言われるかもしれませんが、私にはファンタジックで刺激的に感じられるんです。
私が生まれたのは、ちょうどソ連が崩壊した年。現実のソ連を知らないからこその、考え方なのでしょうね。昔の航空雑誌などを見ると、ソ連の戦闘機についてはその恐ろしさしか書いていない。そういうイメージだったんだなと思います。
いまでもロシア関連の報道というと、おっかないニュースばかり。でも、その先入観で、ロシアに暮らす人たちまで恐ろしいとは思ってほしくないんです。
私はイベントでもモスクワに行きましたが、ガルブーシュカという秋葉原みたいなところに、日本のアニメやグッズを求める人達、たくさんのコスプレイヤーたち、ロリータ・ファッションの女の子たちが集まっています。むろんそれはロシアのごく一部ですけど、少なくともそれを見ている私には、日本の若い人たちに、向こうにはあなたと同じくアニメが好きで、コスプレの好きな人たちが住んでいるんだよ、ということを伝える役目があると思うんです。
国際交流というとお茶、お花、ロシア民謡の歌と踊りみたいになりがちですが、ポップカルチャー好きの若者同士の交流があったら絶対にうまくいくんじゃないか、それが将来の国同士のいい関係にもつながるかもしれない。声優として、なにかそのお手伝いができないかと考えています。
- 上坂 すみれ(うえさか・すみれ)
- 声優
1991年12月19日生まれ。スペースクラフト・エンタテインメント所属。上智大学 外国語学部を2014年卒業。学業と並行して2012年1月に本格的に声優デビュー、アーティストとしては、2013年4月より放送されたTVアニメ「波打際のむろみさん」主題歌「七つの海よりキミの海」でデビュー。これまでTVアニメ「中二病でも恋がしたい!」「鬼灯の冷徹」「艦隊これくしょん-艦これ-」などのヒット作に出演している。