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- 磯山 晶 TBSドラマ制作部プロデューサー
やっぱりテレビドラマは リアルタイムで観られてこそ
- 磯山 晶
- TBSドラマ制作部プロデューサー
新聞学科での学びがいまようやく
高校生のときにマンガで賞を取ったことがありました。また、美術部に所属し、画家になりたいとも考えていました。でも、若いながら保身というのか(笑)、安定を求めて、自由業でも美大でもなく一般大学に進むことにしたんです。
実は成績も悪くはなかったので、推薦入試の枠で受験することができました。ただ、さすがに法律やら経済やら硬い学問は向いていないと思い、なんとなく面白そうだなと思って上智大学の新聞学科を選びました。でも、マスコミやテレビの仕事は、このときはあまり意識していませんでした。
上智は小ぢんまりとしていて、キャンパスを歩けばいつでも友人たちと顔を合わせるという感じでした。中・高もミッション系だったので、キリスト教の精神的支柱がある大学だったことも、私にはよかったように思います。
印象に残る授業といえば、やはり映像制作ですね。素人にはとても扱えないすごい機材があって(笑)、CMのような短いものを含め、3本くらい作りました。私が構成を書いて、チームのメンバーに「ちゃんとやってよ!」とキレていた記憶がありますが、今思い返すと、まったく面白い作品ではなかったと思います(笑)。
それ以外の専門の授業は、なにか遠い世界のことのように、ポカンと聞いていた気がします。いや、実際にTBSに入ってからも、あまりピンとはきていませんでした。「コンプライアンス」とか「人間行動とマスメディア」とか、あのとき教わったことの意味はこれだったのかとリアルに感じ始めたのは、ようやく最近のことです。
というのも、同じテレビ局でも、私が所属するドラマ部門は、新聞学科が主に扱うジャーナリズム、報道の部門とはかなり文化・精神が違うんです。しかも私が入社したころは、テレビをはじめ情報を流す側の力が強い時代で、視聴者の意見・反応を今ほど重視しない風潮があったように思います。
でも最近は、番組への批判的な意見が数多く届くとすぐ局内がザワつく。私も、それにどう対応するかといった会議に出席する立場になりました。テレビ局が変わり、私自身も変わって、大学での学びが役に立つ状況になってきたんですよね。
上智の学生は、もともと個人主義というか、一匹狼的な人が多い。そこは私に合っていたと思います。だから、社会に出ても群れない。評価も高い素晴らしい大学で、そこを卒業したことは誇りなのに、その学歴を背負いたがらないというか、「それがなにか?」みたいな感じ。私はそこが好きですが、思えば不思議な大学かもしれません。
視聴率では計れない、宮藤官九郎さんとのコンビ
大学に入ってからは、マンガとは縁を切りました。実生活に不満がないと、描けない体質みたいです(笑)。なのに、会社に入って間もなく、再びマンガを描き始めた(『プロデューサーになりたい』 講談社刊)のは、アシスタントディレクターの仕事があまりに辛かったからで、マンガ家になることを、会社を辞める口実にしようとたくらんだんです(笑)。
結果的に、マンガのおかげもあって試練のときを乗り越え、プロデューサーになりました。その主な仕事は、まず企画を通して放送枠と予算を獲得すること、それから脚本家、キャスト、スタッフを集め、台本をつくっていくことです。
主役を張れる俳優さんは、実は圧倒的に人数が足りません。それを各局で獲りあう形になります。しかも、俳優さん側はギリギリまで出演する作品を検討するので、「8割がたOK」のような状態で進めるほかありません、胃が痛くなりますよ。
私の場合、キャストもスタッフも性格重視です。約4カ月、ほぼ寝食を共にするわけですから、楽しく気持ちよい現場じゃないと出来ません。
ただ、一般の方が想像するような、「ザ・芸能界」的なとんでもないトラブルは、いまはめったに起こらない。かつてこんなことがあってね、というような数々の伝説は今もよく聞きますが、そのような場面を肉眼で見たことはないですね(笑)。
私が今までプロデュースしてきたドラマの半分以上は、宮藤官九郎さんの脚本です。彼とはなにより、相性がいいんだと思います。
彼は、ただ主人公をたてるだけの悪役は登場させず、すべてのキャラクターに愛情をこめて書いていく。人間はそれぞれ自分の正義を持って生きていて、それがいびつでおかしいところがかわいいじゃないかという考え方が底にあるんですね。だから、ドラマとして無理がなく、味わい深いものになっていると思います。
ただ、宮藤さんの脚本は情報量が多いんです。セリフを耳で聞くだけだと捉えきれないから、わざわざ文字放送で見るという人もいるくらいで、再放送やDVDで見て、はじめて理解していただける部分もあるんでしょうね。
『木更津キャッツアイ』も、連ドラのときは、手応えはあったものの視聴率はいまひとつでした。その後DVDが売れ、映画がヒットするということがなかったら、私はいまプロデューサーをやってはいないはずです。
私たち二人が、すごいものを作っていると思っていたのは、決して根拠のない自信ではなかった……そう確認できて、大きく変われた感のある、特別な作品でした。
とはいえ、視聴率が上がらないのは本当に苦しいんですよ(笑)。
喜怒哀楽を操作するドラマづくりのむずかしさ
ネット時代になって、視聴者の反応を即座に受け取れるようになりました。思わぬキャラに人気が出たりしたら、それを台本に反映させて、より楽しんでもらえるものにしていくのが、連ドラづくりのひとつの醍醐味。その点、やりやすくなりましたね。
一方で、技術の進歩が不幸をもたらしている部分も多少あります。ハイビジョンになり、たとえば背景の本棚の本のタイトルまで読み取れるようになってしまった。いまは、セットの奥の奥に置いてある本でも、場面にふさわしい内容でそろえなければいけません。
もちろん出演者、とくに女優さんは映り方をますます気にするようになる。そして、CGの技術も進歩しているので、あれもこれも直せるようになっていく…。正直、これ以上高画質になることは、ドラマにとっては悲劇です(笑)。
民放ドラマの場合、制作費はおもにスポンサー料ということになります。そもそも、どういうものになるか作ってみなければわからないドラマという水ものに、あらかじめ莫大なお金を出していただくわけですから、スポンサーを大切に考えなければいけないのはもちろんです。
そのことも含め、DVDやネット配信などメディアは多様化しても、やはりテレビドラマは、だれもが一番手軽にみられる地上波での放送を第一に考えて作るべきだと思うんです。リアルタイムで見てもらい、視聴率を上げるために、どういう付加価値をつけたらいいのか。それが私の第一の課題です。
また、ドラマづくりは人の感情を意図的に動かす仕事であり、一種の危険を伴います。喜怒哀楽のうち、「怒」や「哀」を増幅させてしまう可能性もある。
暴力シーンのあった『池袋ウエストゲートパーク』の時は、子どもが影響を受けたらどうするのか、という視聴者からの電話がありました。当時は「暴力では何も解決できないということを、暴力を描かなければ伝えられない」と説明しましたが、今では放送できない表現もありますね。
では、すべての表現をマイルドにすればいいんでしょうか? それもわかりません。
私が作りたいのは、見終わって「明日もがんばろう」と前向きになれるドラマ。そのためには何をどうすればいいか、大きな責任を感じつつ、考えていきたいと思っています。
- 磯山 晶(いそやま・あき)
- TBSドラマ制作部プロデューサー
東京都生まれ。1990年上智大学文学部新聞学科卒業後、株式会社TBSテレビ入社。『池袋ウエストゲートパーク』(2000年)、『木更津キャッツアイ』(2002年)『タイガー&ドラゴン』(2005年)『空飛ぶ広報室』(2013年)『ごめんね青春!』(2014年) など数多くのテレビドラマをプロデュース。