YOLスペシャルインタビュー 上智人が語る 「日本、そして世界」

仕事でもプライベートでも 今につながっている上智大学との「縁」

日比谷 潤子
国際基督教大学学長

厳しいが故、今でも印象に残る上智での学び

日比谷 潤子 国際基督教大学学長

 中学生のころから英語が好き、というより英語も日本語も含めた言語の仕組み、みんなが忌み嫌う「文法」が好きという変わった女の子で、大学では言語学を勉強したいと考えるようになりました。カトリック系の高校で、運よく私の年に上智大学の外国語学部フランス語学科から推薦入学の募集があったため、これに応募しました。

 外国語学部の中でも、多くの新入生にとって初習言語の(英語学科以外の)学科は、その言語漬けの毎日。フランス語学科は、履修科目の半分を占める語学が1セットになっていたので、それを落とすと留年が決まってしまうというシステム。ですから、学部時代の記憶は、フランス語一色という感じですね。ただ、ごく少人数のクラスでフランス人、カナダ人のネイティブの先生たちとも親しくなることができ、おかげでいまでもクラス会などでつながっています。

 言語学という学問は、実際に触れてみると、高校時代に思い描いていたものとはかなり違っていました。でも自分の中で軌道修正し、やはりこの道で行こうと決めて大学院に進みました。女性の大学教授が今よりさらに珍しかった時代、上智には鶴見和子先生、緒方貞子先生がいらっしゃいました。大学の教員になりたいと考えた私は、お二人を真似てアメリカの大学で学位を取得、われながら単純な考えでしたけど(笑)、おかげさまで現在の私がいいます。

 一時、上智でも授業を持たせていただいていましたし、最近も仕事で四谷に足を運ぶこともあります。すべての学部が一つのキャンパスにまとまったことで、学生はずいぶん勉強しやすくなったのではないでしょうか。

 建物の多くが建て替えられ、通っていたころとは見た目の印象はずいぶん変わりました。しかし、あのころの上智の空気は、今なお残っているように感じます。

上智大学とICUと私の浅からぬ縁

日比谷 潤子 国際基督教大学学長

 大学で言語学を勉強したいと考えたとき、候補は上智と、実はここ、国際基督教大学(ICU)でした。国立大学にも言語学を専攻できるところはありましたが、私のやりたいこととは違う気がしたのです。上智の推薦枠が別の学部だったら、私はICUを受験していたかもしれません。ご縁はそのときから始まっていたようです。

 そして最近も、上智とICUと私の縁を感じさせるできごとが、ちょくちょく起こります。たとえば、卒論の指導を受けにきた学生のご両親がともに上智出身で、お二人の結婚式も、生まれた彼女の洗礼も、上智大学元学長のヨゼフ・ピタウ先生がなさったと聞いたり、ICUの卒業生の集まりで、亡くなった奥様のご家族がピタウ先生と懇意だと聞いたり……親しくしていただいている先生の、私が知らなかった一面です。

 ピタウ先生は、私が入学した前年に学長に就任されました。入学式の檀上で、やや甲高い声のイタリア人が、流暢な日本語で挨拶をされる、そのお姿はインパクトがありました。考えてみると、先生はそのとき40代半ばの、非常にお若い学長でした。

 学生一人ひとりと本当に気さくに接してくださる方で、私自身も在学中からいろいろお世話になりましたが、寮に住んでいた友人などはしばしば夜遅くまで語り合っていたようです。宗教上家族を持たないお立場ですから、私たち学生を、本当の子供のように思ってくださっていたのでしょう。

 もう一人、上智とは無関係ですが、私の尊敬する方を紹介させてください。

 それは、アメリカの名門女子大・スミス大学の元学長、ジル・カー・コンウェイ先生です。従来、経済的事情から、リベラルアーツ教育にアクセスすることのできなかった層に対して、スミス大学の門戸を開く改革を推進しました。2冊出ている自伝を読むと、オーストラリア出身でアメリカの大学院で勉強され、まずカナダの大学で教鞭をとられた。そのご経験には私とちょっと共通するところがあり、とても共感できるのです。

 来日された折、会食の席で個人的にお話する機会を得ました。相手の話したいことを瞬時に引出し、対話に引き込む独特な力をお持ちの方で、人はこうありたいとつくづく感じさせられました。

 私も学長として、お二人を目標に努力しているところです。

二つの大学に共通する「国際性」

日比谷 潤子 国際基督教大学学長

 先ごろ、上智大学、ICUともに、文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援事業」に採択されました。また両大学は、「グローバル5大学」のプロジェクトのメンバーでもあります。

 このグローバル、国際性という点で、二つの大学は共通する面を持っています。そしてその背景にあるのは、やはりこれも共通するキリスト教の精神であり、そのネットワークだと思っています。

 国際性の一つの具体的な表れは、教員の多様性です。今でも日本人男性にかなり独占されているといっても過言でない日本の大学で、女性の比率が高かったこともさることながら、やはり特徴的なのは外国籍教員の数でしょう。上智在学中、外国語学部だということはありますが、先生の半数以上が外国人でした。

 ICUも同様です。単に外国籍というだけではなく、「均質ではない」教育的背景・多様な価値観を持つ教員を集めることに努めています。教員同士が議論する中で互いに発見があり、そうした環境が学生の常識を揺さぶって刺激を与える。本当の地球市民、グローバル人材はそこから生まれてくると考えています。

 一方、二つの大学の違いを一言でいうなら、上智が都心にあるヨーロッパ型の総合大学であるのに対して、ICUは郊外に広い敷地を持つアメリカ型で、一学部のみの大学ということになるでしょうか。ICUは、リベラルアーツ大学ならではの試みとして、基礎的な科目を学んだのちに専攻を決められる「メジャー制」を08年から導入し、学生たちからも高評価を得ています。

 昨年、ICUは60周年を迎えました。上智は100周年でしたから、「40歳ちがい」ですね。

 初代学長の湯浅八郎先生は、「永遠に未完の大学として、明日の大学を目指す」という献学の精神を示されました。私は学長就任にあたり、これを21世紀にふさわしい形に解釈して、「一人ひとりの可能性を最大限引き出す大学」「構成員それぞれが自らの使命を見出せる大学」「理想を求めて成長し続ける大学」という3つのビジョンを掲げました。上智大学での経験も思い起こしつつ、私なりに学長の務めを果たしていきたいと考えています。

日比谷 潤子 国際基督教大学学長
日比谷 潤子(ひびや・じゅんこ)
国際基督教大学学長

1957年東京都出身。1980年上智大学外国語学部フランス語学科卒、82年上智大学外国語学研究科言語学専攻博士前期課程修了、88年ペンシルヴェニア大学大学院言語学科博士課程修了、 慶應義塾大学国際センター助教授を経て、2002年国際基督教大学語学科準教授、04年同教授、日本語教育課程主任、05年語学科長、06年教学改革本部長、08年学務副学長、2012年から現職。94年ダートマス大学アジア研究プログラム客員準教授、04年コロンビア大学文化学科客員教授。専門は社会言語学。著書に「多言語社会と外国人の学習支援」(編著)など。

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