YOLスペシャルインタビュー 上智人が語る 「日本、そして世界」

「伝える技術」が日本を元気にする

佐々木 圭一
コピーライター・CM制作/上智大非常勤講師/ 株)ウゴカス代表 /宣伝会議講師/

日本の技術の99%が倉庫に眠る、その原因とは

佐々木 圭一 コピーライター・CM制作/上智大非常勤講師/ 株)ウゴカス代表 /宣伝会議講師/

 僕はコピーライターという、まさに文系の仕事をしているのに、上智大学の理工学部機械工学科(現・機能創造理工学科)を経て大学院まで進みました。

 しかし、この一風変わった経歴が、仕事の中で役立ったと実感することがあります。例えば、メーカーに新製品の宣伝プランの打合せに伺って、開発担当の技術者から新しく導入された技術について説明を受ける際、僕は技術者の情熱や、技術のディテールに感動することがあります。その感動は、きっと僕のコピーに反映され、消費者に伝わったものもあるでしょう。

 あるメーカーの研究所で、「ここで生まれる発見・発明のうち、世に出るのはどれくらいだと思いますか」と聞かれたことがあります。10~20%くらいですか、と答えたら、「とんでもない、たった1%です」と。99%は研究所に眠ったままだというのです。

 僕は、日本のものづくりの底力、技術開発力を、改めて思い知りました。同時に、もし技術者の皆さんが、そのすばらしさをもっと上手に伝えることができたら、日の目を見る技術・製品はもっと増えるのではないか、とも考えました。

 いまの時代、商品は品質のよさだけでは売れません。そのよさが消費者に伝わらないと、買ってはもらえないのです。

 日本の企業は、よいモノをつくる技術に関しては、文句なく世界トップレベルでしょう。そこに伝える技術が伴えば、日本の製品はもっと評価される。そして日本はもっと元気になれると、僕は思っています。

伝えベタなコピーライターが見つけた、伝え上手は才能でなく技術という真実

佐々木 圭一 コピーライター・CM制作/上智大非常勤講師/ 株)ウゴカス代表 /宣伝会議講師/

 多くの人は、伝える力のもとはセンスやひらめき、持って生まれた才能だと思いがちです。だから、センスのない私にはムリ、話ベタなDNAを持つ日本人は、話の上手なアメリカ人にはかなわないと思いがちです。

 僕自身、かつてはそう考えていました。でも、いまは確信をもってこういえます。日本人がアメリカ人に比べてコミュニケーション能力が低いとしたら、それは資質・DNAのせいではなく、教育の問題です。

 アメリカでは、小学校3年生から「オーラル」と呼ばれるコミュニケーションの授業があるそうです。ひとつのクラスにいくつもの人種・民族が含まれていることが当たり前のアメリカでは、放っておけば子供同士でもすぐケンカになる。それを防ぐためのコミュニケーションの方法を教えることが、必要不可欠なのです。

 中学に進むと、ディベート、スピーチ、ジャーナリズムといったプログラムが、日本でいう国語の授業以外に用意されていて、コミュニケーション能力はさらに磨かれます。これに対して日本人は、小・中・高はおろか、大学でも直接的にコミュニケーション能力を高めるための授業はほとんどありません。これでは、アメリカ人にかなうわけがないのです。

 僕自身が、そんな日本の教育環境の中で育った典型例かもしれません。

 小さいころから転校が多かったせいもあり、人と話すことが苦手でした。それが学校教育で改善されることはなく、答えが一つしかない、ゆえにコミュニケーションが明快で容易な理系に進みました。

 そして就職活動をし、将来どんな自分になりたいかを考えた時思いました。「こんなふうにコミュニケーションがヘタなまま人生を送るのはいやだ。変わりたい。コミュニケーションを磨くには広告業界だ」と。

 こうして僕は、広告代理店に就職しました。そして、いきなりコピーライターの部署に配属されたのです。

 もちろん最初からうまくいくわけがなく、ストレスによる激太りも経験しました。しかし、試行錯誤を重ねて、伝える力は才能ではなく、だれにでも修得可能な技術であるという結論に達したのでした。

世界が相手でもコミュニケーションの基本は同じ

佐々木 圭一 コピーライター・CM制作/上智大非常勤講師/ 株)ウゴカス代表 /宣伝会議講師/

 日本は高度成長期を貫いた「モノ」の時代から「脳」の時代を経て「心」の時代に入り、さらに昨年あたりから「コミュニケーション」の時代に変わったのではないかと、僕は考えています。日本人は、何かを突き詰めることには長けています。だけどいま求められているのは、一人では突き詰められない、他人との「コミュニケーション」だということに気づき始めたのではないでしょうか。

 東京五輪の招致決定は日本がコミュニケーションの大事さを実感するきっかけとなりました。

 資金・施設・安全など日本の「売り」は、4年前にブラジルに負けたときとなにも変わっていない。それなのに今回勝てたのは、それをどう伝えるかという、プレゼンテーションが変わったからにほかなりません。

 近年は教育機関でも企業でも、「グローバル人材」の育成が大きなテーマとなっています。では、グローバルに通用するコミュニケーション能力とはなんでしょう?

 「共通言語」である英語力、異文化への理解が重要であることはいうまでもありません。しかしもっと大切なことは、相手が何を考え、何を求めているかを想像できることだと思います。

 相手の立場になって考え、言葉を発する……。これは、僕が『伝え方が9割』(ダイヤモンド社)の中で、強調したかった、いわばこの本の隠れテーマともいうべきもの。グローバルにも通用する、コミュニケーションの基本なのです。

 おかげさまでたくさんの方にお読みいただいている拙著は、実はここ上智大学の社会人向け公開講座で、講師としてお話しさせていただいたことをもとにまとめたものです。また今年度は、全学共通科目『メディア・対話・レトリック』で、2回分の講義を担当しました。「現場最前線で働く」社会人たちが、それぞれ生の言葉で語るこの授業は、僕が学生のころに是非聞きたかった。

 こうした大学での講義、書籍、その他の活動を通じて、僕は自分が考えた「伝える技術」をできるだけ多くの人に身につけてもらい、日本人のコミュニケーション能力のベースアップのお手伝いをしていきたいと思います。フェイスブック、ツイッターなどのSNSの急速な発達・普及で、個人の発信が大きな影響力を持つようになったこの時代、一人ひとりの「伝える力」の向上は、社会全体の変化につながるかもしれません。そして結果的に、日本がもっと元気になることに貢献できたら——僕はそう願っているのです。

佐々木 圭一 コピーライター・CM制作/上智大非常勤講師/ 株)ウゴカス代表 /宣伝会議講師/
佐々木 圭一(ささき・けいいち)
コピーライター・CM制作/上智大非常勤講師/ 株)ウゴカス代表 /宣伝会議講師/

上智大学大学院を卒業後、97年博報堂に入社。後に伝説のクリエーター、リー・クロウのもと米国で2年間インターナショナルな仕事に従事。日本人初、米国の広告賞One Show Designでゴールド賞を獲得(Mr.Children)。アジア初、6ヵ国歌姫プロジェクト(アジエンス)。カンヌ国際クリエイティブアワードで計5つのライオンを獲得、さらにAdFestでゴールド賞を2つ獲得するなど、入賞受賞合計51のアワードを獲得。郷ひろみ・Chemistryの作詞家としてアルバム・オリコン1位を2度獲得。著書に『伝え方が9割』58万部6カ月連続ビジネス書全国1位。

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