YOLスペシャルインタビュー 上智人が語る 「日本、そして世界」

「TEAP」を生み出した上智大学が
先頭に立って日本の英語教育の改革を

安河内 哲也
東進ハイスクール・東進ビジネスクール講師

日本で最も国際的な大学としてのアピールを

安河内 哲也 東進ハイスクール・東進ビジネスクール講師

 私が受験生だった当時、英文学ではなく、コミュニケーションの手段としての英語を学ぼうとすると、選択肢が非常に限られていました。数学のできない私に国立は無理(笑)、そうなると、私学ではここ上智大学の外国語学部英語学科と、あと数えるほどしかありませんでした。

 晴れて入学してみたら、全国から英語トップクラスの学生が集まっていただけではありませんでした。私が生まれ育った福岡あたりでは希少生物ともいうべき(笑)帰国子女がウロウロしている。語学以外も多くの授業が英語で行われ、学生の発言も英語。あんなに勉強して、いい点数で合格したはずなのに、なぜこんなどん底を味わうんだろうと、1年は劣等感が続きました。

 しかしそれは、当時日本の中ではなかなか体験することのできなかった国際社会の状況を、肌で感じられたということでしょう。そして、あの手荒な洗礼を受けたことが、間違いなくいまの自分につながっています。

 学友たちの多くは、散歩にでも行くように海外に出かけていましたが、これも当時の日本では決してあたりまえではありません。悔しいので私も、格安航空券を探して、2年の夏休み、3年の夏休みは丸々アメリカを放浪しました。

 このように、私がいたころ、上智大学の国際性は群を抜いていましたね。いやその点は、世界中に強いネットワークを持つイエズス会による創立という背景があるため、現在に至るまで、まったく変わっていないのです。

 たとえば上智は、2014年度より「総合グローバル学部」を新設。さらに、英語による専門教育と言語教育を融合させる画期的なプログラム「CLIL(内容言語統合型学習)」の全学的導入の準備を進めています。また一歩、二歩先へ行こうとしているんです。

 でも、他大学が軒並み国際性をアピールするようになり、国際的な大学としての認知度が落ちてきているように見えるのが、卒業生としては気になるところです。

 また聞くところでは、私たちのころには熾烈な取り合いをしていた交換留学の枠が、最近は余っていると聞きます。これは実に嘆かわしい(笑)。

 学生にはもっと、この大学の国際的な環境を利用してほしいですね。

日本の英語教育を歪ませているのは大学入試

安河内 哲也 東進ハイスクール・東進ビジネスクール講師

 上智に入ってよかったと思うことがもう一つ。英語教授法の第一人者・吉田研作先生がいらしたことです。実際、英語教育の分野での上智卒業生の活躍は、目覚ましい。私自身も、おかげ様で、25年間、予備校で英語講師の仕事を続けています。

 ただ、予備校の英語は、ある意味で日本の英語教育のマイナス極、あえてそこに身をおいて、それをプラスの方向に変えるのが自分の役目だと考えているため、ずっと異端児的な存在なのかもしれません。

 現在、わが国の教育界・実業界共通のキーワードが「グローバル人材の育成」です、英語によるコミュニケーション能力の向上はその主要な課題のひとつです。求められるのは「読む・書く・聞く・話す」の4技能の修得、小学校への英語の授業導入など、文科省も英語教育の改革に取り組んでいます。

 ところが予備校は、この流れの足を引っ張っている。なぜなら、予備校の本分は生徒を大学に合格させることであり、入試が要求する読解・文法・語彙の知識と能力の向上に偏った授業を続けているからです。

 そうした中で私は、音声教材を積極的に取り入れ、入試対策と使える英語修得の両立を目指しているわけです。でも、大学入試の形そのものを変えなければ、根本的な解決にならないことは明らかです。

 英語の入試問題のどこが悪いのか。あらためて考えてみましょう。現在の大学入試問題は、約8割が読解・文法・語彙(「読む」技能)に関するもの、2割ほどが英作文(「書く」技能)、リスニング(「聞く」技能)は2%、スピーキング(「話す」技能)は0%。前述の4技能のうち2技能、いやほぼ1技能に偏っていると言っていいでしょう。しかも、大学により出題形式がバラバラ。つまり高校生は、英語の勉強そっちのけで、志望大学ごとの「対策」にいそしまなければならない。そして、高校の先生は、それに対応しなければならないのです。

本当は学生たちもしゃべれるようになりたいし、先生も4技能のすべてを使える英語を教えたい。文科省の学習指導要領もそれを求めている。妨げているのが、現在の大学入試のあり方だと、残念ながら言わざるをえません。

「4技能化」を合言葉に英語教育を一変させる

安河内 哲也 東進ハイスクール・東進ビジネスクール講師

 強く望まれる大学入試の改革、英語問題の4技能化を速やかに進める秘策は、外部試験の活用です。

 折しも、上智大学と日本英語検定協会が共同で開発した、画期的な4技能試験「TEAP(Test of English for Academic Purposes)」が完成し、今後上智大学はじめ何校かが入試への導入を決定、もしくは検討中です。

 私としてはむろんこのTEAPを推したいのですが、同様に4技能を見られるテストは、TOEFL IBT、IELTSなどいくつかあります。さらに、現在の一般的な高校生のレベルに合ったもう少し易しいテストの開発も必要でしょう。これらを入試に利用するにあたり、私は次のようなひと工夫を提案したい。

 外部試験で一定以上の得点をあげ、かつ4技能それぞれで基準点を上回っている受験生が一般入試を受けた場合は、英語の試験について自動的に満点を与える——「みなし満点」の制度です。これにより、英語4技能をバランスよく身につけた受験生は、20~30点のアドバンテージをもって他教科の試験に臨むことができるわけです。さてその効果は?

 まず受験生は、志望校ごとの「対策」ではなく、英語そのものの勉強に専念できる。外部試験は受験機会が多いので、早めに英語の受験勉強から解放され、成績がよければ優位性も確保できる。そして、身につけた英語力は、大学入学後、さらに社会に出てからの活動にも直結します。

 一方大学は、4技能に優れた学生を確保して、海外留学の増加をはじめ、大学のグローバル化を大きく前進させられる。みなし満点制度により、優秀な学生を獲得できるかもしれません。

 受験指導の合間、隠れキリシタンのように「使える」英語を教えてきた高校の先生たちは、大手をふって4技能を教えることができる。そして実業界、日本の社会は、有望なグローバル人材のタマゴたちを手に入れることになる。「Win-Win-Win-Win」の状態ではありませんか。

 もちろん私は、グローバリズム=コスモポリタニズムではない、日本人としてのアイデンティティあってこそのグローバル人材だと考えています。ただ、グローバルなコミュニケーションに英語が不可欠であることも事実です。

 もう一つ強調しておきたいのは、安易な2技能化では意味がないということ。「ヨンギノウ」という言葉を流行語にして、日本人の意識にその重要性を刷り込むことも必要かつ有効かと思っています。

 こうした英語教育の改革を、私の母校であり、TEAPの生みの親でもある上智大学にぜひ主導してほしいと願っています。

安河内 哲也 東進ハイスクール・東進ビジネスクール講師
安河内 哲也(やすこうち・てつや)
東進ハイスクール・東進ビジネスクール講師

1967年、福岡県出身。上智大学外国語学部英語学科卒業。東進ハイスクール・東進ビジネスクール講師。一般財団法人 実用英語推進機構 代表理事、一般財団法人 グローバル人材育成協会 顧問などを務め、実用英語教育の普及活動をしている。特に各種スピーキングテストを普及させる活動に熱心に取り組む。また、2015年入試より上智大学などが入試への採用を決定した、アカデミック英語能力試験 「TEAP」の普及活動にも熱心に取り組んでいる。大学受験参考書やTOEIC対策本、自己啓発本なども多数執筆。

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