教員が発信する上智の学び

不確かな時代の行き先を示す 堅固な羅針盤を手に入れる

片山 はるひ
神学部 神学科 教授

ナウシカと聖書の共通点

片山 はるひ 神学部 神学科 教授

 神学部ではさまざまな視点からキリスト教に関する文化や倫理なども学ぶことができます。なかでも私が専門としているのが、キリスト教文学です。

 キリスト教文学というと狭いジャンルのように思われるかもしれませんが、取り扱う作品は多種多様。というのも、古今東西の文学作品の多くは、聖書をその源泉としているからです。たとえ作家が無神論者であっても、その中に聖書的な価値観や表現を見出すことは十分に可能です。さまざまな作品を聖書と比較しながら読み解いていくと、面白い発見や気づきが得られます。

 例えば、映画にもなったM.エンデの『はてしない物語』やC.S.ルイスの『ナルニア国物語』は聖書を扱ったものですし、キリスト教とは一見関わりのない日本のアニメ映画『風の谷のナウシカ』でも、キリスト教を連想させる場面が登場します。主人公が蘇り、愛をもって世界を救うという流れは、キリスト教的な救世主のパターンと見ることもできるでしょう。

 なぜ聖書がこのように、多様な文学の土壌となっているのか。それは、聖書そのものが他に類を見ないほど多様性に富んだ「大いなる物語」だからです。執筆期間は旧約聖書で約1000年以上、新約聖書でも100年はかかっています。聖書とは、それだけ長い時間をかけて描かれた「神と人間のドラマ」。その大いなる物語と比較しながら文学作品を読み解いていくことで、人間に関する深い洞察が得られるのです。

「生きること」の意味を問う

 私のもう一つの研究テーマが、キリスト教の霊性です。霊性とは何かを分かりやすく考えるために、授業ではまず倫理について取り上げていきます。そこで題材とするのが、ナチスドイツのアウシュヴィッツ強制収容所等での体験を記録した『夜と霧』です。この本は単なる収容記録にとどまらず、人間の生きる意味とは何かという根源的な問いを投げかけてきます。著者でユダヤ人心理学者のV・E・フランクルは、強制収容所に入れられた自分自身を観察・記録し、「生きる意味があれば、人はいかに辛い環境でも生きていける」という理論を確かめます。逆に考えると、いかに恵まれていても、なぜ生きているのかが分からなければ、人間は生きられないのかもしれない。これは、物質的には満たされながらも毎年3万人の自殺者が出る日本社会で、心に響く視点だと思います。

 人間がどこから来て、どこへ行くのか。何のために生きているのか──。それは人間であれば誰もが抱く問いでありながら、心理学や哲学では答えが出せない問題です。こうした普遍的な問いかけが、キリスト教の霊性へとつながる扉を開きます。霊性とはすなわち、人間の生き方につながっていく概念だからです。

神学には、人生のヒントがある

 生きる意味を探すことは、すべての若者にとって大切なことでしょう。神学部の教員は、全学生向けに「キリスト教人間学」という授業を担当しており、そこでは人間についての根本的な問いかけや、さまざまな倫理を学ぶことができます。生きることへの問い、その答えは自分たちで探していくほかありませんが、キリスト教の中で培われた思想や価値観を学ぶことは、自分の人生を築いていくヒントとなります。キリスト教が長い歴史の中で養った知恵を学び、自らの生き方について、考えを深めていってほしいと思います。

 また、神学部では1年次からゼミを積み重ねて、文献を読み解く力や物事をまとめ、考える力を磨いています。教員と学生との距離も近く、議論も活発です。そこで鍛えた堅固な価値観は、不確かな時代を歩む羅針盤となって、その後の人生を支えていってくれるはずです。

片山 はるひ 神学部 神学科 教授
片山 はるひ(かたやま・はるひ)
神学部 神学科 教授

主な研究分野はキリスト教文学、キリスト教の霊性。主な著書として、『フランス文学の中の聖人像』(共著、1998年)、『危機と霊性』(共著、2011年)、『文学における神の物語』(共著、2014年)他。

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