教員が発信する上智の学び

患者と看護師の「ストレス」を理解し時代に求められるケアを追求する

塚本 尚子
総合人間科学部 看護学科 教授

病気になった後、どう生きるか

塚本 尚子 総合人間科学部 看護学科 教授

 看護の現場では、「人間を理解する」ことが欠かせません。私の研究は、主に「ストレス」の側面から、患者、そして看護師自身への理解を深めていこうとするものです。

 まず、患者が感じているストレス。程度の差こそあれ、人は誰しも病気になります。このような不条理な状況に直面したとき、それとどう向き合い、適応すればいいのか。葛藤をどうやって乗り越えていくのか。例えば、重い病気になることで世界観が変わり、初めて気づかされることがあったり、感謝の気持ちを抱いたりすることもあるでしょう。一度絶望したからといって、決して前向きな生き方ができなくなるわけではありません。その人らしく過ごしていけるようにうまく促し、サポートしていくことも、看護職の大事な役割なのです。

見直される「看護師の働き方」

 そしてもう一つ、看護師が抱えているストレス。今、医療現場では人手が足りていない。特に看護師の離職率が非常に高いという話は、皆さんも耳にしたことがあるのではないでしょうか。原因はさまざまですが、「自分の能力が低いせいだ」と思い込んで辞めてしまうケースも少なくありません。そこで近年では、ストレスに対処するための手法である「ストレスコーピング」が注目されるなど、個々の看護師の働き方、さらには組織のあり方そのものを見直そうという動きも進んでいます。

 医療現場は以前よりも忙しさが増し、また医療技術の急速な進歩によって、求められる知識の範囲も広がっています。患者とじっくり接したいのに、仕事に追われてばかりで、かなわない。そうした心労が積み重なって、離職につながってしまう─。現状を調査するために病院を訪れ、看護師の方々と1対1でお話を伺ってみると、いろいろなことが浮かび上がってきます。ストレスの感じ方は看護師長、ベテラン、新人など立場によって異なりますし、また職場ごとに違う課題があります。スタッフが心地よく働くことのできる組織風土をつくることは、患者にもプラスに影響するはずです。こうした視点も、ぜひ皆さんには知っておいてもらいたいと思っています。

ケアを問うことから学びが始まる

 今、時代は「ケアの時代」を迎えているといえます。ケアで重視するのは、単に命を救えるかどうかという点ではなく、最期までその人らしく生きられるかどうかということ。そこに、文字通り「自らの手」で貢献できることが、看護職のやりがいであり、大きな魅力です。

 医療や看護の分野は、社会の情勢によって、果たすべき役割が変化していきます。ですから、大学で学んだことがすべてではありません。学習したことをベースにして、自分なりに知識や経験を新たに組み立て、成長していける力が必要です。その根っことなるのは、やはり他者への思いやりや、深い関心、そして尊敬の念を忘れないことでしょう。

 1、2年次に看護学の基礎を学び、3年次からはいよいよ本格的実習がスタートします。最初は「何かしてあげたい」という使命感が強いのですが、病院で働いてみると、実は患者から助けられたり、教わったりすることも多い。数週間の短い期間であっても、実習から帰ってきた学生は、みんな顔つきが変わります。そして、4年次の救命救急センターや、ICUでの実習を終える頃には、本当に堂々とした姿を見せてくれます。他者の手や足、また口となって暮らしを支える看護。まずは、「ケアとは何か?」を探すことから、始めましょう。

塚本 尚子 総合人間科学部 看護学科 教授
塚本 尚子(つかもと・なおこ)
総合人間科学部 看護学科 教授

専門分野は、基礎看護学、看護心理学。ストレスを中心テーマとし、看護の組織風土研究や、癌患者の自己概念研究を行っている。著書は、『中範囲理論入門』共著(2009年)など。

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