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360日の試行錯誤と5日の閃きが新しい発見をもたらす

平野 哲文
理工学部 機能創造理工学科 教授

地球でもっとも小さな存在

平野 哲文 理工学部 機能創造理工学科 教授

 肉眼では見ることのできない極微な世界。そこでは、いったい何が起こっているのでしょうか?それを研究する「素粒子物理学」が、私の専門分野です。

 原子、原子核、陽子、中性子。高校生のみなさんも、授業で一度は「モノを細かくしていくと、どこまで小さくなるのか?」という勉強をしたことがあると思います。

 現在、実験で発見されているもっとも小さな構成単位、つまりすべての「モノ」の基本となる粒子を「クォーク」といいます。このクォークは通常、陽子や中性子の中に閉じ込められており、姿を現すことはありません。しかしある刺激を与えることで、外に放出させることができます。

 例えば、温度を高める方法。それも並大抵ではなく、理論的には2兆度。1500万度の太陽をはるかにしのぐ高い温度です。

宇宙誕生の瞬間をつくる

 とはいえ「2兆度」などと聞いても、まったく想像すらつかないのではないかと思います。そのような高温がいったいどこにあるのかといいますと、実は宇宙の誕生と関わりがあるのです。宇宙というのは「ビッグバン」によってごく小さな点のようなものとして誕生し、いまだ膨張し続けているというのが現時点での物理学の理解。

 では誕生した瞬間に何が起こっていたか−。まさに2兆度もの高温によってクォークが解放され、バラバラに飛び散った「クォーク・グルーオン・プラズマ」と呼ばれる物質に満ちた状態であったと推測されています。そこで数年前、「地球上に初期宇宙をつくる」実験を、アメリカ・ブルックヘブン国立研究所で行ったのです。

 「RHIC」という加速器を使って原子核を高速で衝突させた結果、我々の研究グループのコンピュータシミュレーションでの予測を裏づける実験結果を得ることができました。「素粒子物理学」というと最先端で難解、あるいは興味のない方は机上の空論だと感じることもあるかもしれません。しかし、このような実験を重ねながら自身の理論を証明していき、例えば「宇宙のはじまり」にも迫ることができる。こうした点に、私自身は大きな魅力を感じています。

人と違うことに取り組む

 通常なら一つ一つの領域が分かれているところ、本学の機能創造理工学科では、物理系、電気・電子系、機械系を同時に学ぶことができます。「最先端」は、いろんな知識を学んでようやくたどり着ける場所です。限られた領域をまっすぐに伸ばしていくだけでは、なかなかその先の扉を開くことができません。

 研究の一つの価値は、「人と違うことに取り組む」こと。ある学問とある学問がもし一緒になったら、どんな新しい可能性が生まれるのか?そのような視点から、さまざまなことを体系立てて理解していくことが重要なのです。未来を担う皆さんに期待するのは、「あなたの興味の対象を追求し続けてほしい」ということ。研究者の世界は、1年間のうち360日は「うまくいかない」という覚悟が必要です。

 でも残りの5日間に閃きがあり、それを成果として残せればいいわけです。ですから結果の見えない360日を耐えるためには、取り組んでいる研究が面白くて、のめり込める対象であることが前提。「これなら人に負けない」「新しいものを発見するんだ」。そんな強い気持ちと夢をもった学生を、お待ちしています。

平野 哲文 理工学部 機能創造理工学科 教授
平野 哲文(ひらの・てつふみ)
理工学部 機能創造理工学科 教授

専門はクォーク・グルーオン・プラズマの物理。著書にThe Physics of the Quark Gluon Plasma : Introductory Lectures(共著)がある。

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