教員が発信する上智の学び

作品の背景や言葉を丁寧に読み解き
物事の本質を突き詰めていく

福井 辰彦
文学部 国文学科 准教授

日本文学史の空白を埋める

福井 辰彦 准教授

 上智大学国文学科の特色のひとつは、古典文学、近代文学、国語学、漢文学の各分野を、総合的に学べる点です。私はそのうち漢文学を担当しています。

 日本の言葉や文学を本質的に理解するには、その背景にある漢文学の視点を欠かすことはできません。なぜなら日本語・日本文学は中国・朝鮮などから伝来した言語・文化に多大な影響を受け、その随所に漢文由来の語句・表現・発想などがちりばめられているからです。したがって、日本漢文学の研究も盛んに行われていますが、なかなか研究対象にならない時代もあります。その一つが、幕末から明治にかけてです。

漱石の理解にも漢文学は不可欠

 私は夏目漱石が好きで文学を勉強し始めましたが、漱石にせよ、永井荷風にせよ、芥川龍之介にせよ、明治・大正頃の文豪たちは、必ずといっていいほど漢文の素養を持ち、作品にも色濃くその影響が表れています。彼らの作品を本当の意味で理解するには、やはり漢文学の素養が不可欠なのです。日本における漢文学は明治30年頃を境に急速に衰退しましたが、それまでは現代における短歌・俳句のように、生きた文学として親しまれていました。

 特に江戸時代後期には"漢文学の日本化・大衆化"が起き、公家・大名から庶民に至るまで、幅広い人々が漢詩・漢文を作ったり読んだりするようになりました。

 そんな厚い漢文学の層があったにもかかわらず、現代の日本の文学研究はその実態を十分に追いかけきれていません。そこで私は日本文学史の空白ともいうべき、幕末から明治時代の漢文学研究を始めたのです。激動の時代の文学研究を通して、当時の人々が、それぞれのやり方で時代と向き合い、あるいはそれをやり過ごしていた姿と出会うことができます。さらにこの研究を進めることで、いままで考えられていた日本の文学作品の解釈が、大きく変わる可能性もあるのです。

言葉に真摯に向き合い、本質を追究

 漢文学という言葉を聞いただけで、多くの学生が「難しい」と思ってしまいがちです。確かに簡単ではありません。でも難しいからこそ、解読できた時の喜びも大きいのです。固苦しく並んでいた漢字が、何かのきっかけでするするとほどけ、そこに一つの世界を現出して見せる。その瞬間を多くの学生に味わって欲しいと願っています。また漢文学にせよ日本文学にせよ、字面を見て表面的に文章を読むことと、そこに書いてある言葉の真意をくみ取って読めることとは大きく違います。近年やたらと目に付く「グローバル化」という言葉一つとってもそうです。その言葉が具体的に何を指し示し、その背景にどのような歴史や問題が潜んでいるか、十分に吟味されないまま安易に使われていることも多いように思われます。

 言葉を丁寧に読み解き、その背景にあるものを考え、物事の本質を突き詰めていく。それもまた文学を学ぶ大きな意義の一つだと思います。こうした学びの経験は、将来どのような道に進んだとしても、力を発揮するでしょう。なぜなら、社会に出て様々な状況や人間と向き合ううえで、物事の本質を見抜く力ほど重要なものはないからです。文学研究とは、言葉に真摯に向き合い、人間や社会の本質を知る力を磨く学問でもあるのです。

福井 辰彦 准教授
福井 辰彦(ふくい・たつひこ)
文学部 国文学科 准教授

専門は幕末・明治期を中心とした日本漢文学。最近の業績として「奈良古梅園と懐徳堂」(『上智大学国文学科紀要』2013・3)、「ある儒者の幕末─菊池三渓伝小攷─」(『論究日本文学』2008・12)等がある。

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